公家顔君と木綿ちゃん2 ~恋愛軍師は名プロデューサー!?~

宇部 松清

前半戦

序 この恋愛軍師様に何の用かしら

「お前に頭下げんのは嫌なんだけどさ」


 そんなことを言って、そいつはあたしに向かって頭を下げた。


「頼む」


 このちょっと澄ました公家顔の男の名は、柘植つげ貴文たかふみ。あたしの可愛い可愛い親友の彼氏だ。


「……ふん」


 何がむかつくってこいつがあたしの扱い方を心得ているという点だ。何せこいつの背後にはその何よりも大切な親友の蓼沼たでぬま木綿ゆうがいるのである。


「トンちゃん、お願い」


 その愛らしい丸い目を潤ませてそんなことを言われてしまったら、あたしとしては引き受けざるを得ない。


「他ならぬ木綿もめんちゃんの頼みとあらば、仕方ないわねぇ」

「いや、頼んでるのは俺なんだけど」

「おだまり、この狐野郎」


 さて、この可愛い可愛い親友のハートを射止めた狐野郎がなぜあたしに頭を下げたかというと、話はこの約一ヶ月ほど前に遡る。




 まぁ紆余曲折あって、可愛い可愛い親友の木綿ちゃんと公家顔の柘植は付き合い始めた。その紆余曲折部分で大いに活躍したのが何を隠そうこのあたし、木綿ちゃんの専属恋愛軍師である富田林とんだばやし千秋ちあき様なのである。あたしくらいの有能な軍師でもついていなければ、この超がつくほど鈍感で天然な木綿ちゃんと、よく言えばクール、悪く言えば不愛想のお澄まし狐野郎がカップルになるなんて奇跡は起こるわけがない。


 まぁ、あたしの冴えわたる恋愛大作戦については省略するとして、だ。

 そう、とにかく二人は晴れて恋仲となったのである。

 ちゃっかりその場に同席させていただいて、その流れでこのお澄まし狐野郎こと柘植の親友が働いているという駅前の本屋に三人で行こう、ということになったのだけど――、


「あれ、閉まってる」


 閉まっていたのである。

 定休日というわけでもないのに。


 もともとそう遅い時間までやっている本屋ではない。全国展開するような店でもなく、個人でやっている小さな書店なのである。どうやら店主の身内に突然の不幸があったようで、閉店時間を早めたらしい。というのを知ったのはその翌日だったが。


 せっかく柘植の親友のご尊顔を拝めるかと思ったのに。


 というのも、その柘植の親友、どうやら女らしい。


 いやいや、男女の間に友情とかって成立する!? って思ったそこのアンタ。アンタよアンタ。アンタに言ってるの。


 するわよ。

 するに決まってるでしょうよ。

 だって、あたしだってね、男なのよ? 木綿ちゃんの親友だけど、生物学的にはがっつり男子なの。そりゃあこんな言葉遣いだし? 髪もお肌もきっちりお手入れしてるし? 可愛いもの大好きだし? 料理もお裁縫もドンと来いだったりするけど? だけど男子なのよ。でもかといって木綿ちゃんのこと、そんなやらしい目で見たことなんてないわよ?


 なんていうのかしらね、妹っていうかね、いっそ一人娘っていうかね、もうとにかくそんな感じなのよ。


 あっ、でも、誤解しないでちょうだい。あたし別に男が好きなわけじゃないから。その辺ははっきりさせておくわね。


 柘植の話では、その親友ちゃんの方でも柘植にはまったく恋愛感情を抱いたことはないらしい。好みのタイプじゃない、なんていうのももう何度も言われているそうだ。そして柘植も柘植で同様らしい。


 そんな話を聞くとちょっと興味もわくってなもの。


 そこそこきれいな顔をしている柘植のことを好みじゃないと言うからには、きっとその子はどちらかといえば『THE男』みたいなむさくるしいスポーツマンみたいなのが好きなのかもしれない。

 それで、木綿ちゃんを選んだ柘植が「好みのタイプじゃない」って言うってことは、きっと大人っぽい感じのお姉さん系なんじゃないかしら、なんて予想して。


 そんなわけであたしはその翌日、こっそりと『ハマナス書房』に単身で乗り込んだのである。

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