俺の推しの美少女Vtuberの中身が実は近所のお兄さんで、何故か俺も美少女Vtuberになってたんだが……!
ヘイ
第1話 どうして俺がvtuberなんかをやる事になったのか
「さあ、
何で、こんな事になったんだっけ。
うん、頭が痛いな。
「え、あの、ちょ。俺、帰りたいんですけど……」
俺の口から想像もできないような高い声が紡がれた。
「カメラ回したら、一人称はそのままでいいけど、気をつけてくれよ? 君は今から
少しばかり、ふざけた自分に後悔を感じ始めていた。あんな事さえしなければ。
「山風
何てスマホの画面を見ながら、俺は呟いた。そこに映るのは実写の女の子の顔ではなく、所謂、二次元と呼ばれる世界の美少女。
中身が誰なのか、だとか。
そんな話題もあるが、山風阿南は一切、その尻尾を見せない。
そんなミステリアスさが彼女の人気の一因となっているのかもしれないなんて、俺は思っている。
チャットが流れていく。
「中々気になるよな、中身……」
アイドルのプライベート覗き見。
そんな見出しがあったら、買いたくなる男がいるのも否定しない。というか、俺も買いたくなる。
それが推しであったら尚更に。
「うーん、本当に誰なのかな。多分、可愛い人だと思うんだよなー」
声を聞いた感じがもう、可愛い。
愛らしい。
推せる。
「あ、あー、あ……。こんな感じかな?」
何て声真似をしてみれば、自分でも予想外な程、女の声が出るモノでビックリする。
「こ、こんにちはー……?」
なんてな。
どうせ、誰が聞くわけでもない。
高校生になって一人暮らし。今日は部活もなくて、部屋でダラダラとしているつもりでいた。
「あ」
これは不味い。
声が戻らなくなった。
「え、ちょ、やべー。どうしよう、これ」
飯、買いに行かなきゃなんないのに。
いや、別に声出さなきゃ良いだけだろ。でも、どの道声出さなきゃダメだよな。レジ袋とかもあるし。
「腹減った……。コンビニ行くか」
声が治る気配が見えないけど、放置したら直るでしょ。うん、その筈だ。
コンビニに入って飯を買う。
それだけなのに心臓がバクバクしている。
「温めますか?」
店員は男性。
眼鏡をかけた黒髪のイケメン。身長は平均的か、それより少し高め。若干俺よりも高い。
女性店員よりはマシだけど、それでもこの眼鏡イケメンにこの声を聞かれるのは嫌な感じがする。
「あ、えーと……」
会話が少なくなるようにしたい。
のに、今、完全に迷ってる声を出してしまった。
やばい、聞かれたくなかったのに。
「お願い、します」
クッソ恥ずかしいんですけど。
ねえ、何でお兄さんニコニコしてるの。いや、ニコニコじゃないわ、これ。
「店長、急用が出来ました!」
あの、え、何が起きてんの。ドタバタと音がしたかと思うと、先ほどの眼鏡の男に腕を引っ張られる。
「よし行こうか!」
「ちょちょちょー!
「すみませーん! 後で埋め合わせするんで!」
「んー、ならいっか。いつもお世話になってるし」
「どもでーす」
絶対良くないから。
誘拐、誘拐ですよ、これ。
「ちょ、これ誘拐ですよ!」
「ああ、ごめんね。で、君、名前は?」
「言いませんよ……」
「んー、割と近くで見たことあるんだよな。名前は知らないけど……」
じーっと、見ないでください。
体に穴が開きそう。いや、胃には穴が開きかけてる気がするけど。
「まあ、何だ。君は逸材だ! その声! その声がいい!」
「は?」
馬鹿にしてんのかこの人。
「ちょっと声真似したら、こうなって直んないんですよ!」
「その声の感じ山風阿南だろ?」
なんでわかんだよ。
確かに結構似てるけど、口調で相当差があるはずなんだけど。
「ふっ、安心しろ少年。俺が山風阿南だ」
「は?」
「所謂、バ美肉という奴だな。俺の今住んでいる家には設備が整っていてな。阿南には妹がいる設定があったろう?」
「は?」
「君が阿南の妹だ!」
「ちょい待ち。……まず、貴方が阿南であるという証拠は?」
「それは家に来たら分かるさ!」
あ、完全に退路が絶たれる。
それ付いてったらダメな奴だ。
「フフ。いいお金稼ぎの方法があるんだ……。どうかな?」
止めろ。
札束を見せてくるんじゃない。
抗い難い誘惑に、俺の脆い倫理シールドが容易く破られていく。
何より、それはお小遣いがなくて、バイト禁止の高校生には滅茶苦茶効く。
「行きます……」
自分でもどうかと思うくらいには危機管理能力がなさ過ぎる気がするけど、大金の誘惑には勝てなかったぜ。
それで説明を受けること一時間ほど。
完全にこのイケメンが美少女vtuber、山風阿南であることが確定してしまった。何より、俺が今住んでいる場所から徒歩二分。
近所のお兄さんだ。
「これで信頼は得られたかな?」
「いや、妹の奴が用意されてるのまで見せられたら信じるしかないでしょ……」
この人は山風阿南という姿と、林
いつでも帰ってどうぞ感があるけど、目の前に札束がちらつかされる。
こ、この野郎。
「さあ、日向陽太くん。そこに座りたまえ」
ああ、これが俺がここにいる事になり、推しの妹になることに至った経緯だ。
くだらない?
それはそうだろう。
俺も自分がどうかと思う。誰に言ってるかだって、自分を馬鹿にするために言ってるんだよ。
『は、初めましてー。山風阿南の妹の山風北乃です……。よろしくお願いします?』
俺の動きに連動して、キャラクターが動く。困り顔の美少女が画面に映り込んでいた。
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