第2話 妹の病と決意

 俺は両親と弟と妹が1人ずつの5人家族で育った。

 いや、厳密には違う。

 俺より4つ下の弟が生まれて少しして本当の両親が亡くなった。そして両親と仲の良かった現在の両親が俺と弟を引き取って育ててくれたのだ。


 自分たちも決して裕福ではなかったし、弟と同じ年の生まれたばかりの子供がいたにも関わらず、本当の親のように愛情を注いでくれた両親には本当に感謝している。


 弟はこのことは知らないが、俺は僅かながら記憶があるので知っている。もっとも、今の両親を本当の親じゃないなどと思ったことは一度もないが。


 そんな両親を少しでも支えたくて町の外にある森で木の実を採取したり、動物を狩ったりして家計の足しにしてきた。


 しかし、ある時妹がとある病に侵された。

 障魔病という、未だ治療法も確立されていない難病だ。





 障魔病とは、病原体が患者の体内魔力に反応して魔力暴走を引き起こす病気で、保有する魔力が多いほどに痛みとその長さが増していくものだ。

 幸いにも、妹の魔力はそこまで高くないため、せいぜい数時間に一度、数分間激痛が走る程度ではあるが、幼い頃に患うと魔力に障害ができ、後遺症が残ることもある。


 障魔病は未だ詳しいことは分かっておらず、唯一分かっているのは、万能薬であるエリクサーでは治せるということのみだ。


 エリクサーは、天輪花と呼ばれる神話級の花を一晩、回復薬の中に浸し、その回復薬ごと瞬間凍結し、また一晩置いて凍った花と回復薬を熱風を絶えずかけ続け、溶け出した液体が治療薬となるということだけだ。


 この薬は天輪花一輪でおよそ5人分の薬を作ることができるが、天輪花は魔力の豊富な山や森などに数輪しか咲かないし一度採取するとしばらく咲かない。しかも回復薬のように魔力を豊富に含むものを凍らせる、それも瞬間凍結するにも、それを熱風で溶かすにも、かなりの実力が要るため、値段は当然ながら高い。王族ですら簡単には手を出せないほどに高い。

 それに、エリクサーは万能薬なので、死のリスクがある病気の治療に使われる場合が多く、障魔病のように死に直結しづらい病気には滅多に使われない。


 天輪花のあると言われる場所は基本的に公開されていない。


 かつては公開されていた時期もあったのだが、天輪花はその希少性から高く売れるため、一攫千金を夢見た若者は少なくなかった。

 しかし、天輪花のあるところは魔力の豊富な場所、つまり、そこにいる魔物も当然強い。

 そこに向かった装備もろくに揃えられていない若手の冒険者がどうなったかなど語るまでもないだろう。


 こうして若手が多く失われたことを問題視した冒険者ギルドは情報の公開を制限、そして新たに天輪花の情報を齎した者には情報の秘匿を条件に超高額の謝礼が支払われる。


 具体的にいうと一般市民の生涯年収の5倍程度だ。

 昔はもっと少なかったのだが、ある貴族がその情報を買い取り、周囲に情報を売りだし、以前と同じことが起こってしまったために高額な報酬が支払われることになった。

 ちなみに、その貴族と情報を漏らした者はギルド関連の施設等の使用を一切拒否され、貴族は没落し、冒険者は謝礼の返済を命じられ、返済しきれずに借金奴隷となったそうだ。


 そのことが知られているため、今となっては天輪花の在り処は完全にギルドが掌握しており、情報を得るにはギルドの幹部になるか、Sランク冒険者のようなギルドにとって必要不可欠な存在になるしかない。


 ギルドの幹部になるという方向性はすぐに捨てた。

 なぜなら、文字を読んだり書いたり、計算などの能力面は両親が教えてくれたので問題ないが、それだと天輪花の在り処がわかったところで手に入れる手段がない。当然、情報を漏らすのはいけないし、かといって自分で取りに行くには実力が足りなくなるだろう。


 幸いにも、俺は魔力も多く、幼い頃から遊びで簡単な魔法を使ったりしていたため、魔力の扱いも慣れている。

 こうして冒険者登録をすることを決めたのだが、すぐには登録しなかった。

 それは冒険者ギルドのランクアップの規定によるものが理由だ。


 冒険者ギルドのランクはGから始まり、Sランクまである。

 厳密にはSSSランクまであるが、ここ数百年はSランクまでしかいない。

 ランクを上げるには、依頼を達成してポイントを貯める必要がある。

 ポイントは自分のランクと依頼の難易度を勘案してギルドが定めるもので、ランクが上がるたびに次のランク上がるのが大変になってくる。

 CランクからBランクに上がるまで3年、Aランクに上がるまでは5年はかかると言われているほどだ。


 今、俺がGランクから始めても、Sランクになるまでは早くとも10年近くはかかるだろう。

 妹が罹っている障魔病は死のリスクは高くない代わりに日常生活に支障を来たすため、少しでも早く薬を用意したい。

 そこで、ギルドの初期ランクのシステムを利用することにした。


 冒険者ギルドには犯罪等がなければ基本的に誰でも登録することができる。しかし、冒険者登録を新規でする人がGランク相当の実力しかないかといえば、そうとは限らない。

 例えば、元々軍属だったが、退役後に冒険者を始めた者、故郷に冒険者ギルドがなく、大人になって上京して初めて登録した者、他国から流れてきた実力者などだ。

 なので、初期登録時にレベル、ステータス、または実技試験で好成績をだせば、初めから高ランクになることもできる。


 俺が目指すのはこれによって最低でもDランク以上になることだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る