てふてふ
@miumiu
はじまり編
第一章 蝶の夢
第1話
――蝶の夢を見た。
いや、夢じゃなかったのかもしれない。
でも、確かに蝶を見た。
暗闇の中にいた自分の目の前を確かに蝶が通り過ぎた。
ひらひら、ひらひらと。
暗闇で漂うその蝶は淡く、儚げに、何よりも美しく光っていた。
キラキラ、キラキラと。
暗闇の中で孤独と恐怖で圧し潰されそうになっていた自分を、その蝶の光が優しく包んだ。
だから、その蝶を目で追ってしまい、縋るように手を伸ばした。
暗闇の中、あまりにもその蝶は美しかったからだ。
とても美しく、美しく、美しく、美しく、美しく、美しく、美しく――
今まで見たことがないほど美しかった。
そんな蝶に目を奪われていたら、暗闇に包まれていた空間が徐々に光に包まれた。
しかし、そんな光の中でも蝶は美しく煌いていた。
そして、蝶は――彼女は――
僕は――
―――――――
「――あの! ここに来て思い出しました」
映像の中に映る、病床の上に腰かけた、これといった特徴のない平凡な顔立ちで、病衣を纏った華奢な体躯の少年は、眠そうにトロンと蕩けた瞳をカメラに向けながらそう口を開いた。
硬い雰囲気を身に纏うスーツを着た強面の男たちに囲まれているせいで、やや緊張した面持ちの少年だが、ここが病院であるということと、丁寧な物腰の男たちの態度にだいぶリラックスしたおかげで、緊張に圧し潰されることもなく会話を続けていた。
「真っ暗な中、蝶を見ました」
突拍子のない少年の言葉に、場の雰囲気が若干困惑に包まれた。
「夢――じゃないような気がします。ちゃんと意識ははっきりしてましたし」
夢を見たのではないかと問われたが、少年は漠然としないながらもそう答えた。
「とってもきれいでした」
記憶の中にある蝶の美しい姿を思い出しながら少年は呑気に答えた。
蝶の美しさを思い出している少年の表情は緊張を忘れて、記憶の中にある蝶に心を奪われている様子だったが、すぐに我に返って話を元に戻した。
「えっと……その後、蝶が見えなくなったら真っ白な光に包まれました。とっても眩しかったです」
少年の何気ない一言一言に、カメラに映る少年の話を聞いている男たちは、少年の言葉を疑ったり、バカにしたり、余計なことを何も言うことなく、ただただ真剣に聞き入っていた。
「それから、その――……女の子を見ました。顔はよく覚えていないですけど、すごくかわいかったです。別に年下が好きだとかそう言うわけじゃなくて、あ、別に恋愛に歳とか性別とか別にそんなことまったく関係ないと思うんですけど、すごくかわいかったです。何か女の子に言われたような気がしたんですけど……ごめんなさい、覚えてません。でも、とってもかわいかったです。あ、包容力もありそうで、何だか、甘えたくなるような感じでそれから――あ、もう女の子のことはいいんですか?」
話が脱線しかけたところで、男たちは少女を見た後について聞いて、話の軌道を元に戻した。
「それでその後、気づいたら教室にいて、みんなが倒れてました。それですぐに先生が来て、病院に運ばれました……えっと、取り敢えず以上なんですけど……――あ、もういいんですか? わかりました、お疲れ様です」
自分が経験したことをすべて話し終えて、自分の話を聞いてくれた男たちに丁寧に少年は頭を下げる。
映像はここで終わった。
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