episode247 マテリアルクラフターについての質疑応答
それから夜になって、約束の時間の少し前にログインした俺は『栄華の影』のギルド拠点に向かっていた。
もちろん、その目的はマテリアルクラフターのことについて話すことだ。話し合いの開催場所は仲介した『栄華の影』のギルド拠点になっているからな。遅れないように早めにそこに向かっていた。
「アレインは……いるな」
「ええ、いつも通りに」
「メンバーは集まっているか?」
「ええ。ほとんど集まっていますよ」
どうやら、メンバーはおおよそ集まっているようで、この様子であれば予定通りに話を始められそうだった。
「そうか。では、俺も行くか」
このまま待っておけば良さそうだからな。俺はそのまま『栄華の影』のギルド拠点に移動して、メンバーが集まるのを待ったのだった。
◇ ◇ ◇
それから十数分ほど待っていると、メンバーが全員集まったので、そのまま話し合いが始められようとしていた。
「さて、全員集まったな」
「ええ。……私が進行しても?」
「ああ。頼んだ」
俺が進行しても良いのだが、それよりもアレインに任せた方が良さそうだからな。ここは彼の進行に合わせて話を進めて行くことにした。
「『渡り鳥の集い』、『ワールウィンドウイング』、『アルターナイツ』の皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。確認になりますが、【マテリアルクラフターのスクロール】の購入数は『渡り鳥の集い』は二つ、他のギルドの方は一つということでよろしいでしょうか?」
「ああ」
「それで間違いないよ」
「同じく」
【マテリアルクラフターのスクロール】の購入数に関してだが、買い手が付いたのは全部で四つとなった。
五つあるので一つ余ったが、高額なのに加えて戦闘スタイルも変える必要があるからな。思いの
「まだ一つ在庫があるとのことですので、追加購入をご希望であれば対応可能とのことです。気が変わりましたら、シャム様と直接交渉するようお願い致します」
もちろん、追加購入も受け付けているからな。話を聞いて追加で買いたくなったというのであれば、この場で対応するつもりだ。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか。今回集まっていただいたのは、マテリアルクラフターのことについての質疑応答をするためとなります」
こうして購入予定者を集めた目的は質疑応答をするためだ。事前にある程度の疑問には答えて、その上で購入を決めてもらったが、細かい話もあるだろうからな。今回はそれに答えるためにこうして集まってもらった。
「質問の内容は考えていただけましたか?」
「ああ」
「もちろん、考えて来たよ」
「同上」
アレインの確認に対して、各ギルドの代表者は同じ答えを返す。
「それでは、ノーシュ様からどうぞ」
「分かった。【クラフトマテリアル】は引換券での交換のみとするそうだが、やはり現金で売るつもりはないのか?」
「ああ。悪いが、そこは譲るつもりはない」
【クラフトマテリアル】をお金で販売すると、素材が足りなくなるのは目に見えているからな。【クラフトマテリアル】は直接販売はせず、引換券との交換でのみで入手できるようにするつもりだ。
「そうか。魔法道具の販売を開始するそうだが、在庫は確保できるのか?」
「可能な限り生産はするが、常に在庫を確保できると保証はできないな」
魔法道具の生産量は様子を見て決めるつもりなので、まだ確実なことは言えないが、売れ行き次第では生産が追い付かなくなる可能性はあるからな。
できるだけ在庫切れにならないようにはするつもりだが、残念ながらそれを保証することはできない。
「ただ、予約してくれれば優先的に販売するつもりだ」
だが、予約は受け付ける予定だからな。必要な量を見積もって予約して、それで対応してもらいたいところだった。
「予約方法は?」
「直接俺にメッセージを送ってくれれば、それで良いぞ」
フレンドになればメッセージを送れるからな。その機能を利用して知らせてくれれば、それで問題ない。
「分かった。魔法道具の値段は提示された値段で確定なのか?」
「あれで確定というわけではないが、あれより高くすることはないぞ」
販売予定の魔法道具の値段は事前に提示しておいたが、あれはまだ仮のものだからな。
まだ確定ではないが、あれよりも高くするつもりはないので、そこは安心してもらいたいところだった。
「他に何か聞きたいことはあるか?」
「いや、俺からは以上だ」
「そうか。では、次を頼めるか?」
ノーシュからは以上のようだからな。このまま次の代表の質問に移ることにした。
「それでは、次はヨルム様がどうぞ」
「分かったよ。【クラフトマテリアル】の交換や魔法道具の販売は一般のプレイヤーにも行うのかい?」
「いや、今回集まった参加者に対してのみ販売するつもりだぞ」
一般販売すると、転売目的で買うプレイヤーが現れる可能性があるからな。それを防ぐために、魔法道具は今回集まった参加者に対してのみ販売するつもりだ。
「どうやって僕達だけが購入できるようにするつもりなんだい?」
「それにはこれを使う予定だ」
ここで俺は集まっているメンバーに対して一枚のカードを見せる。
「これは何だい?」
「これはメンバーカードだな。これがあれば、商品が専用のラインナップになるぞ」
このカードは俺の店で使うことで、通常時は見ることができないラインナップを見ることができるようになるアイテムだ。
そして、そのラインナップに【クラフトマテリアル】や魔法道具を入れることで、今回集まった参加者にだけ買えるようにするつもりだ。
「ついでだし、この場で配布しておこう」
メンバーカードは後で配るつもりだったが、ちょうど話題に上がったからな。この場で配ってしまうことにした。
俺は事前に作製しておいたメンバーカードを代表のプレイヤーに五枚ずつ配っていく。
「……これで良いな。他に質問はあるか?」
「魔法道具のラインナップはこれだけなのかい?」
「今のところはな。ただ、新たに開発できた場合はラインナップに追加していくつもりだぞ」
提示したラインナップは現状の物になるからな。もちろん、新たな魔法道具を開発できた場合は順次追加するつもりだ。
「そうかい。……マテリアルクラフターのことから少し外れるけど、一つ良いかな?」
「何だ?」
「妖術についてことを聞いても良いかな?」
「それは内容次第だな」
基本的にあまり話すつもりはないが、質問内容次第では答えられるものもあるからな。ひとまず、内容を聞いてみることにする。
「妖術の何について聞きたいんだ?」
「一番聞きたいのは習得方法かな」
「ふむ、やはりそう来たか」
ヨルムからの質問は予想通りのもので、質問内容は妖術の習得方法だった。
「まあ折角の機会だし、少し話すこととしよう」
高額な【マテリアルクラフターのスクロール】を買ってくれるわけだからな。
少しぐらいなら話しても良さそうなので、このまま妖術のことについての話をすることにした。
「率直に言うと、一つは知っているが、他の方法は知らないな」
「……そして、その知っている方法というのが、あなたが妖術を習得した方法ということですか」
「ああ。だが、俺は他にも習得方法があると考えている」
ユヅリハやユヅハから教えてもらうというのは、条件としては厳し過ぎるからな。
この方法でしか習得できないとなると、習得できるのは本当に一握りのプレイヤーだけになってしまうので、他の習得方法が用意されているのはほぼ間違いなかった。
「そして、他の習得方法こそメインの習得手段に設定されていると考えている」
「……つまり、あなたが習得した方法は例外的な習得方法だったと?」
「ああ。なので、俺が習得した方法を教えたところで、習得はできないと思うぞ?」
ユヅリハ達は一部のプレイヤーに干渉しているようだが、そうでないプレイヤーが接触することは困難だからな。
さらに言うと、仮に接触できたとしても、教えてくれる可能性は限りなくゼロに近いので、習得はほぼ不可能と言っても過言ではなかった。
「とりあえず、習得が難しいことは分かったよ。それで、その方法を教えてくれる気はあるのかい?」
「対価によっては考えるといったところだな」
流石にこれ以上はサービスできないからな。詳しい情報が欲しいのであれば、対価を用意してもらうことになる。
「まあ要するに、今こちらから言えるのは、俺から情報を聞いたところで妖術は習得できないということだな」
「分かったよ」
「他に聞きたいことはあるか?」
「僕からは以上だよ」
「分かった。では、次を頼めるか?」
ヨルムからの質問はこれで終わりのようだからな。このまま次に移ることにした。
「……こちらから聞くことはもうない」
最後は『アルターナイツ』のリーダーだったが、質問内容は先の二人と被っていたようで、特に質問はされなかった。
「どうやら、話はこれで終わりのようですね」
「ああ。では、このままスクロールの受け渡しに移るか」
聞きたいことはもうないようだからな。最後に【マテリアルクラフターのスクロール】の受け渡しを行って、解散とすることにした。
「代金を渡してくれるか?」
「ああ」
「分かったよ」
「これで良いか?」
俺が代金を支払うよう言うと、代表者の三人はそれぞれでお金の入った袋を差し出して来る。
「……確かに。では、これが約束の品だ」
そして、代金を受け取ったところで、俺は三人に【マテリアルクラフターのスクロール】を手渡した。
「今日は店にいる予定なので、この後からであればマテリアルクラフターの作製についての直接の相談も受けられる。なので、相談したいことがあったら、数十分後に店に来てくれ」
マテリアルクラフターの素材やデザインなど、まだそれぞれで話すこともあるが、その話は直接しなければ詰められないからな。
俺がいないときには話を進められないので、今日であれば直接話ができることを伝えておく。
「それでは、以上をもちまして、会合は終了とします。以降の取引はシャム様と直接交渉するようお願い致します」
そして、無事に取引が済んだところでアレインによって締められて、そのまま会合は解散となったのだった。
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