episode58 再戦、ストライクウルフ

「はっ……」


 最初に仕掛けたのはリッカだった。

 結界が消滅すると同時にストライクウルフに素早く接近して、攻撃を仕掛ける。


「ガルッ!」

「――『居合斬り』!」

「ガルッ⁉」


 それに気付いたストライクウルフは爪を振り下ろして迎撃しようとするが、その攻撃はリッカの抜刀攻撃によって発動した『見切り』によって弾かれた。


「『マテリアルブレード』、『マテリアルアロー』、『マテリアルソリッド』」


 俺はその隙を突いて、遠距離攻撃でリッカを援護する。


(ダメージに差はないようだな)


 斬撃、刺突、打撃の三種類の攻撃を試してみるが、どれも弱点でも耐性持ちでもないらしく、ダメージに差はなかった。


「――やりすぎ」


 と、ここでそれを見たリッカに攻撃しすぎだと注意されてしまった。


「分かった。ほどほどにしておこう」


 いくら防具を新調したとは言え、素のステータスは低いままだからな。

 一発ぐらいは耐えられるだろうが、連続攻撃を受けるとすぐに倒されてしまうので、慎重に立ち回る必要があった。


 そして、攻撃しすぎると、こちらにターゲットが向く可能性があるからな。

 メインの攻撃はリッカに任せて、俺はたまに攻撃を加える程度にとどめておくことにした。


「ガルッ!」

「ふっ……」


 ここでリッカは飛び付いて来たストライクウルフの攻撃を躱して懐に潜り込むと、そのまま攻撃を叩き込んだ。


(それにしても、本当に大丈夫か?)


 相変わらずリッカは防具を着けていないからな。

 かすっただけで終わる可能性があるので、慎重に立ち回って欲しいところだが、かなり攻め気味に動いていた。


「……よく避けられるな」


 リッカはストライクウルフの攻撃を完全に見切っていて、まるで未来が見えているかのように綺麗に攻撃を躱していた。

 以前戦ったときに録画していた映像を入念に確認していたとは言え、ここまでできるのは流石だ。


(まあ攻めること自体は決して間違いではないし、信じて任せるしかないか)


 こちらは集中力が減衰していくのに対して、AIである敵は集中力が切れることがないからな。

 時間を掛けると不利になるので、攻めること自体は間違ってはいない。


 それに、俺が口を出すようなことではないからな。このまま接近戦はリッカに任せることにした。


「まあ予定通りに進めれば問題ないか。『マテリアルブレード』」


 事前にストライクウルフ戦における戦術については話し合っておいたからな。

 予定通りに俺は手数をかなり抑えてリッカを援護する。


(とりあえず、こちらにターゲットが向く様子はないし、今のところは大丈夫そうだな)


 ストライクウルフの使ってくるスキルの中で、最も警戒しなければならないのは一瞬で距離を詰める歩法系のスキルだ。

 俺がターゲットになったタイミングで使われると、戦況が一気にひっくり返るからな。

 そうならないためにも、俺がターゲットに取られるわけにはいかなかった。


(この調子が続けば良いが……まあ変化が起こったら、そのときに考えるか)


 今の状態が続けば問題ないのだが、一つ懸念点があった。


 そう、それはHPが減ったことによる攻撃パターンの変化だ。

 以前リッカが戦ったときは、ユヅリハがほぼ一撃で倒してしまったので、それがあるかどうかが分からない。


 一応、攻略サイトなどでストライクウルフのことについて軽く調べてみたが、ほとんど情報がなかったからな。

 結局、行動パターンのことについては何も分からなかった。


 だが、行動パターンについてはリッカがある程度推測してくれたので、それをベースに行動することにする。


 まず、大規模なギミックがないのはほぼ確定だ。

 ストライクウルフは中ボスだからな。ボスではないので、大規模なギミックが仕掛けられている可能性は低い。


 それに、大規模なギミックがあれば話題になる可能性が高いが、ストライクウルフという存在自体が特に話題になっていなかったからな。

 それを考えると、大したギミックのない、あまり特徴がない中ボスという可能性が高い。


 そして、リッカは追加される行動パターンは自己強化、眷属召喚、スキルの解禁の三つの可能性が高いと見ていた。


 ここでそれぞれに対しての対応策を述べておくと、まず自己強化に関してはそんなに気にする必要はない。

 自己強化が入ろうが、リッカが一撃で倒されることに変わりはないからな。


 次に眷属召喚についてだが、こちらは俺が相手して倒せば良いので、内容にもよるがスキル追加よりはマシだ。

 一応、眷属を倒すと発狂して超強化されるパターンは考えられるが、そこまでのギミックが仕掛けられているとは思えないので、そこは気にせずに倒して良いとのことだ。


 そして最後に、一番厄介なのはスキルが解禁されるパターンだ。

 もちろん、大したスキルでなければ問題ないが、最大の問題は初見で回避する必要があることだ。

 リッカは一度の被弾が許されないからな。初見という点はかなり大きい。


「……そろそろ警戒」


 と、順調にストライクウルフのHPを削って、残りHPが七割を切ろうとしていたところで、リッカが注意してきた。


「分かっている。……『マテリアルブレード』」


 俺は行動パターンの変化を警戒しながら、引き続き攻撃を加える。


(火力が上がっていて、楽に削れるな)


 以前とは比べ物にならないほどに火力が上がっているので、今回は良い感じにダメージを与えることができていた。


(七割は切ったが、特に行動パターンに変化はないな)


 そして、そのままストライクウルフの残りHPは七割を切ったが、行動パターンに変化は見られなかった。


「……このまま削る」

「分かっている」


 とりあえず、七割のラインは何もなかったので、次は半分のラインを警戒することにする。


「ガルッ!」

「――『居合斬り』」

「『マテリアルブレード』」


 俺とリッカはストライクウルフの残りHPに気を配りながら、慎重に削っていく。


「……半分だな」


 そして、そのまま順調にHPを削っていって、ストライクウルフのHPは遂に半分を切った。


「ガルッ!」


 と、HPが半分を切ったところで、ストライクウルフはバックステップで大きく距離を取った。


「アオォォーーーン!」


 そして、遠吠えを上げると、どこからともなく五体の狼のモンスターが現れた。


(眷属ウルフか……召喚されたと見て間違いなさそうだな)


 確認すると、モンスター名は眷属ウルフとなっていた。

 その名称とユヅリハが事前に周辺の敵を片付けていたことを考えると、これらのモンスターは召喚されたものと見て間違いなさそうだった。


「――下がる。まず二体片付けて」


 それを見たリッカはそう言って三体の眷属ウルフのターゲットを取ると、そのまま逃げ回り始めた。

 どうやら、ストライクウルフと同時に相手するのは流石に厳しいらしい。


「分かった」


 俺は言われた通りに残った二体の相手に集中する。


(ここからが本番といったところか)


 そして、ここからが本番ではないかという予感をさせながら、敵の動きに備えて構えたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る