53 爆誕!
見つけたローブを握りしめて、私達はぐるりと部屋を見回した。まずは部屋の外に出なければいけない。
「出口はパッと見たところは一つだけだけど……」
部屋の中にぽつんと一つある木のドアには丸い金の取っ手がある。私が手を伸ばす前に、ロータスがこっちに片手を振った。イッチ達を抱えて後ずさったことを確認して、彼の大きな手がノブ掴み、ゆっくりとひねる。ぴくりとも動かない。
「…………こりゃ、普通じゃねえな」
「何かの仕掛けがあるのかな」
ううんと唸って回って、静かに私とイッチ達は両手をあわせた。上手に詰んだ。一歩も前に進まん。その辺りでロータスはそっと腰の剣を取り出すべく、静かに腰を深くして構える。「ぶ、武闘派――!!?」「壊すしかねえなこれは」「意外とロータスって思考がシンプルだよね!? ちょっとまって、ワンモア! ワンモアーーー!」
ロータスの腕に必死に捕まりぷらぷらしながら騒いでいるけれども、さすがに声の調子はいつもより落としている。そして私がぷらぷらしたところで、なんの問題もないロータスよ。早くしないとロータスが扉をとても上手に破壊してしまう。
「何かいいスキルないかな~ないよね~私のスキルは便利なようでそんなこともなく、と見せかけて案外使えたりするからね!?」
鑑定を動かしてみたけれど、ドアはしっかりと【魔道具】と情報が記載されてるけど、それだけだ。私だけしか見えない青いウィンドウをみゅみゅんと目の前に表示する。一度はたくさんなくなってしまったスキル達だけれど、今やスクロールできる程度にはスキルの数は増えてきた。中でも素潜りLv.2の表示を見る度に、一体こりゃいつ使えばいいのさとなんだか唇が尖ってくる。心持ち、耳が熱い。
それはさておきと表示されているスキル達をタップして説明を確認しつつ、「あっ、これなんか」 どうでしょうか、と使ってみた。
【壁のぼりスキルLv.1 建物のことをちょっといい感じにわかる。わかったら登れる】
わかったら登れるのか……。
という静かな頷きはさておき、これは先程、魔道の塔をよじよじして落っこちる前に手に入れたスキルだ。建物がわかれば、登りやすくなる。ドアが建物にカウントされるのかどうかはともかく、私はドアによじ登るつもりで両手をむんとしてみた。とても渇いていた。私の心が。いや違う。「イッチ様方! お水!」 呼びましたかね? と未だに若干のダメージを引きずるイッチ達が、よろよろと近づいてくる。お喉が乾いちゃったの? と聞かれたけれど、違う違う、とドアの下部分を指差した。ドアと床の間には、若干の細い隙間がある。
そこにそっとイッチは細く腕を伸ばして、ぽとりと水を垂らした。小さな雫はつるりと滑り込み、いつの間にかその隙間が消えている。ドアノブに手を伸ばすと、カチリと動く音がした。
「……開閉には、水が必要ってことか。そりゃ簡単には開かねえな」
ロータスや私が育ったクラウディ国は雨が降らない。その代わりに、街には井戸が設置されているけど、無尽蔵に水を使うことはないし、スライムは貴重でおいしい水を出すことから重宝されている。この国は雨が降らない上に、スライムも見当たらない。宿屋のお兄さんは、捕獲されたサンを見てスライムを初めて見たように言っていた。
ドームには薄い水の膜が張られていることから、決してゼロではないのだろうけれど、クラウディ国よりもソレイユではさらに水が貴重なことに間違いはないだろう。それを少量とはいえ、毎回開閉の度に使用するのだ。贅沢である。そしてセキュリティも高い。でもこれくらいしなければいけないことは違いない。
さて、水を含んでいる間は普通のドアとなってしまう出口をくぐり抜け、廊下にひょっこりと顔を出した。ロータス、私、イッチ達の順である。
「……よし、誰もいない。おそらく、いない!」
呟いて、えいやと飛び出す。「おいエル」 ロータスの言葉に、慌てて一歩下がった。「いやね、一応【スキル】は使ってるよ! 聞き耳スキル。周囲の声は……聞こえない! 間違いなく!」
おそらく、と付け足してしまったのは、長年のポンコツからの自信のなさからである。おし! と握って突き出す拳はいつもよりもすらりとしてずっと長い。ロータスとの距離も、とても近い。黒いローブで顔と体を隠しているけど、出るところは出ているし、あふれる色気は多分強い。
むん、と気合を入れて胸をはった。はちきれんばかりである。自分からは見えないけれど、今の私は真っ赤な瞳で、髪の毛だって腰元まで伸びている。さらさらである。
「ささっと行って、ささっと帰るよ! やろうども、出撃だ!」
ちゅどんという効果音とともに爆誕したのはただの私の心象風景だ。後ろではイッチ達もポーズを決めてくれている。
――諸事情により、久しぶりの、大人版エルドラドの出動である
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