知らない町と知っている町
犬丸寛太
第1話知らない町と知っている町
僕は今病を抱えている。近くの病院ではどうにもならず少し離れたところに電車で通っている。
うつ病らしいけれど他人にはわからないし、自分でもよくわからない。
電車での通院は退屈でどうすればよいのかとぼんやり考えながら電車からの景色を眺め続けることぐらいしかやることがない。
その日はよく晴れた夏の日で少しだけ気分が良かった。いつも通り電車の中は退屈でぼんやりと車窓を眺めていた。
病院のある町まであと一駅というところで僕は電車を降りた。理由は分からない。たぶん「いつも」から外れたかったのかもしれない。
いずれにせよ、気まぐれに降りた町に興味は無く、病院の時間もあるのでとりあえず線路沿いをふらふらと歩いてみた。
十分ほど歩けば次の駅に着く。
何か目を引くものもなくやがて少し遠くに目的の駅舎が見えた。
特に何かに期待は無かったけれどこんなにも簡単に「いつも」に戻ってしまうのが嫌で僕は駅舎から目をそらした。
そらした目の先には車一台ほどの小さな通りがあり、その先にかすかに海が見えた。
何でもない町の風景だったが一つだけ興味を引くものがあった。
氷とだけ書かれた下げ布が海風にゆらゆらと揺れているのが見えた。
近づいてみるとそこは小さな駄菓子屋で店先にはカラフルなお菓子のパッケージが日に照らされてキラキラしていた。
駄菓子屋に入るのもいつぶりだろう。良く知っている駄菓子初めて見る駄菓子。僕は知らないお菓子を選んで少し興奮した気持ちで店をでた。
僕は駅舎へ戻り病院への道すがら黄色のパッケージのラムネ菓子を口に入れた。
見た目通りレモン風味のいかにも駄菓子という感じで正直あまりおいしくはなかった。
それでも、脳みそまで来るような酸っぱさのせいか病院までの道のりがいつもよりぱちぱちときらめいて見えた。
診察を終え帰りの電車に乗り込む。ゆっくりと動き出した電車からはやはり駄菓子屋は見えなかった。
電車の中で少し詩的なことを考えてみた。
町と町、過去と今、知っているものと知らないものの狭間にはまだ見えない明日を見つけるきっかけがあるのかもしれない。
「なんてな。」
知らない町と知っている町 犬丸寛太 @kotaro3
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