第1章「私の事象」その6


次の日の朝、起きるとすぐに支度をして、学校に向かった。


徒歩で20分程度の場所にあるが、余裕を見て10分ほど早く家を出ている。


小学生のころはよくギリギリの時間に登校して走っていたせいで、息切れをしていた。


最初はあまり気にならなかったが、友だちが私の様子を心配するようになってから、走らないために10分前行動を心がけている。


教室に入って自分の席に着くと、友だちの千早希と有紗が向かってきた。


「おはよう、茜」


「おはよう、千早希、有紗」


「昨日は大丈夫だった?」


眠かったからできなかったとは言えないなぁ。


「ごめん、ちょっと熱っぽくて。でも今日は大丈夫みたい」


「そっか。昨日は焦ったよ~、茜に無視られたと思って」


千早希の言葉を聞いて、まるで心臓を素手でつかまれたようにドキッとした。


冗談の好きな千早希は平気でこういうことを言う。


きっと悪気なんてないんだろうだけど、、、でも時々考えてしまう。


この冗談は建前で本当は私を試しているんじゃないかと。


「そんなわけないじゃん~」


笑いながら二人の顔を見て、「だよね~」と二人は言ってくれた。


他人から見ればくだらないこの茶番に少しホッとして、つい引きつった顔になっていないか、とても心配になる。


同時に背中に変な汗が流れ落ちたことに気づいた。


チャイムが鳴って、二人が自分の席に戻っていくのを見て、寂しさよりも安心を覚えてしまう私は薄情なのだろうか。




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