初めての夜

王水

初めての夜


柔らかな風が頬を撫ぜる小春日和。

傍らの冷めた茶と共に縁側で日を浴びていた。

紅葉もたけなわになり、目のやり場は腐るほどある庭だと言うのに、焦点などひとつも合わない。

近頃俺は、斯様に空けるのが常だった。


飯を食っていても、書物に目を通していても、床に就いている時でさえ、考えるのは奴の事ばかり。

世ではこのような状態のことを「恋」というらしい。また、「恋の病」とも言うだけあって、これは一種の病として、俺の平穏な日々を蝕んでいた。


奴とはほんの数ヶ月前に出会った。何か特殊な術を使い、邪を払っているのを目にして、その文字のあまりの粗雑さに俺が口を出したことが事の始まり。

厳密に言うと、ひどい文字を書きなぐっていたのは、奴が一人で育てているという「スハル」という娘なのだが。

それから奴は、スハルに教育を施してほしいと俺に乞うてきた。

あまりに必死なので暇な時であれば見てやらんこともない、と返事をすると、ことある毎に手土産を持って俺の屋敷へ訪れるようになった。


初めはスハルが不躾なことをした詫びだと言って、手作りの茶請けを持ってきた。

あまり甘味を食べる習慣が無かったが、よく作ったものだと感心したのを覚えている。


その後、何度か話をしていく中で、奴は俺を「友」だと言うようになった。

俺から友などという言葉を使った事は無いはずだが、いつの間にかそのような仲にされてしまった。

「友」という言葉を本で引けば、「ある人の周りに寄り添い集まる者。ともだち。仲間。 つき従う者。従者。また、従者として従うこと。」と書いてある。これらはあまり腑に落ちない。

また、他の書物には「互いに助けあう者。志を同じくする仲間。」とあった。

恐らく、奴が考えている意味合いはこちらの方だろう。


……つまり、この恋に実る希望は無い。


奴にとって俺は所詮、「仲間」止まりなのだ。性別も理に反していれば、特に気が合うという訳でもない。奴に好かれる所など俺はひとつも持っていない。ましてやうまく口説くことなど、俺には到底無理な話だろう。


初恋は実らぬとは、よく言ったものだ。


だと言うのに、何故俺は未だに奴の事ばかり考えているのだろうか。

こうして自らに言い聞かせたのは何度目か分からない。手の届かないものに手を伸ばし続けても、辛いだけだということは百も承知、二百も合点。


しかし、このどうしようもない胸の痛みが、恋の病というものの真の恐ろしさなのだろう。


「……今日は、来んのか。」


いつも奴は明るい内に現れるのだが、もう日は沈みかけていた。期待をしなければ落胆もしないだろうに、自分が愚かだ。

紅葉が浮いた茶を飲み干し、縁側と書斎を障子で仕切る。

茶碗を片付けようと廊下に出た時だった。

コンコンと非力に戸を叩く音が聞こえる。

カラスか何かの悪戯かとも思ったが、鼓動が勝手にはやまる。まさか。

やや足速に玄関へ向かい、戸を開けると、突然何かに抱きつかれた。


「カ、カンナキッ……!」


顔が熱くなるのがわかる。人の気も知らないで何をしとるんだコイツは。


「ぐううう、幽々裂ー!今夜、一杯付き合ってくれよぉ……!」


よく見れば一升瓶を抱え、顔が赤らんでいる。少し呑んでいるな。


「……はぁ、何かあったのか。」


酒に頼り、こんな時間に俺の元にくるなど、相当辛いことがあったのか。

呆れ気味に言っては見たものの、こんなことはかつて無かった。あの切れ長で凛々しい目が赤く腫れているのを見て、痛々しく思う。

しかし、不謹慎だろうか。こいつが他の誰でもなく、俺のところへ来たということに少し気をよくしている自分がいた。


一先ず居間へとも思ったが、この分だと恐らく酔いつぶれるだろうと思い、寝室に座卓を出してカンナキを通した。


「……それで、何があった。」


「聞いてよぉ……スハルちゃんに恋人が出来たんだって!酷くない?!俺はこんなに頑張ってスハルちゃんのために出会いも蹴り倒して来たのにさぁ!!齢十一なのに俺の先越すなんてそんなことある!?」


「………………何かと思えばそんな事か。」


「そんな事!?俺にとっては大問題だから!?」


「……。」


それでさぁ、と愚痴を次々にこぼし始めるカンナキ。正味な話、こいつにも結婚願望やら、恋愛感情やらがあるというのは驚いた。相手はまだ見つかって居ないようなので少し安心したが、それは俺も含めてだということは事実で。胸の奥が鈍く痛む。


『俺では駄目なのか。』


そんな言葉が喉まで込み上げてくる。

だが、こんな言葉はこいつを困らせるだけだと無理矢理飲み込んだ。


「……それは、災難だったな。」


面白くもない、無難な返ししかできない、余裕もくそもない自分が情けない。


「もー!ちゃんと聞いてる!?……でも、幽々裂みたいな友達がいて良かったよ、こんな時間に付き合ってくれてありがとうな……。」


そう言いながらふにゃ、と俺に微笑むカンナキ。

何かが溢れそうになる。こいつの、この笑顔が好きだった。凛とした顔立ちが柔らかく綻ぶ、その瞬間が。しかしその愛しい笑顔から無情に放たれた「友達」という言葉に、辛さばかりが募っていく。


「…………そうだな、何か礼を貰っても良いくらいだろう。俺にも一杯のませろ。」


こうなったら俺も自棄酒をするしかない。飲みでもしないとやってられん。


「お!いいねー!いける口?!」


「そう強くは無いが。この際だ、俺も飲むから洗いざらい吐いていけ。」


良い友人を演じきった。短気な俺にしては上等だろう。


「幽々裂どうしたの優じい……っ、実は俺、殴って誤魔化してるけどさぁ、魔力が低くてくやじいんだよぉっ……。」


ずるずると鼻を垂らしながら、カンナキはまた泣きはじめた。


「どうしたらいいと思う?なぁゆゆざくぅ……っ!」


「おい貴様、俺の着物で鼻を拭くなっ!!」


「いいじゃん〜教えてよぉ!」


「……っ、おい、近い……。」


「幽々裂ならなんか知ってるだろぉ〜っ!」


徐々に顔が近くなる。俺も段々酒が回ってきたのか、顔が熱くなり、鼓動が速くなる。前のめりになり、俺に乗りかかってくるカンナキに、そろそろ理性の限界を感じていた。


「………………ああ、確かに俺は、魔力を高める方法を知っている。」


するりとカンナキの手に指を絡めた。


「えっ!ほんと!?教えてくれ!!」


「ただし、大切なものを失うぞ。」


「な、なに、命はちょっとぉ……でもそれ以外ならもう大体何でもいい!」


絡めた指を噛み合わせ、しっかり握る。


「魔力の強い者と、二人でしか出来ないことだが…。」


「……魔力が強い……あ!丁度幽々裂がいるし、いいんじゃないか!?頼む!協力してくれ!………………………………ところで、何で手を握るんだ?なんか関係あるのか?」


まだ分からないのか。どれだけ鈍いんだこいつは。と内心腹立たしさも覚えながらカンナキの腰を引き寄せ、口付けが出来るほどまで距離を詰めた。


「…………契るんだ。」


「え、…………契るって…………。」


「俺とお前が交われば、一定期間、俺からお前に魔力を供給する事ができる。……意味は分かったか。」


カンナキの切りそろえられた横髪をさらりと耳にかけてやり、首筋に口付けを落とした。


「あっ……え……、それって……。」


カンナキの顔に、酔いとは違う赤みが刺した。灯篭の黄味がかった光を潤んだ瞳に孕ませ、ゆらゆらと揺らめかせている。

なんて顔をしているんだ。勘違いしそうになるだろうが。

もう、止められる自信など無かった。


「カンナキ。…嫌ならば、殴って逃げろ。」


素直に殴られてやれば酔いも少しは覚めるだろうと、雀の涙ほどの理性で放った言葉だった。


「ッ……ゆ、幽々裂……。」


だが……おかしい。こいつ、全く殴る気配がない。見つめ合いながら徐々に顔が近くなる。このままでは口付けをしてしまう。


「……カンナキ」


名前を呼び終えるとほぼ同時に、唇が触れ合った。熱く、柔らかい、カンナキの唇に深く押し当てると、心地よく互いの唇が沈むのが分かる。これは、受け入れられているのか。

まさかと思いながらカンナキの唇に舌先をあてがうと、震えながらその裂け目をひらいた。


「ッ……!」


カンナキの舌を捕まえるように舌を絡める。はぁ、とカンナキの熱い吐息が頬を掠め、全身の血が滾るのを感じた。

少し浮き腰になっているのを無理矢理引き寄せると、かたいもの同士が擦れあった。


「ぁ"ッ……、」


ビクリ、とカンナキの腰が跳ねる。

喉の奥で心臓が脈打ち、下腹部が熱くなる。


「…カンナキッ……いいんだなッ……。」


「ッ……ま、魔力、くれるんだろ……、ハァッ……」


「ッ、ああ……、たっぷりくれてやる。」


そう言って、カンナキの着物を一枚一枚、丁寧に剥いでいく。


「う"ッ……、お、俺、自分で脱ぐからッ……」


恥ずかしくなったのか、顔を隠しながら言う。手を退けようと腕に触れると、緊張しているのか力が入って震えていた。


「……俺が脱がせたいんだが。」


カンナキの様子に興奮しながら一気に中着まで脱がせる。


「ッ……あんまり、見ないで……ッくれよ……////」


肌に密着する薄い生地が、妙にいやらしく感じる。よく見ると胸部に突起が二つ、卑猥に勃っていた。


「…………体は嬉しそうだが……。」


ぢゅう、と主張するそれに服の上から吸い付く。


「ぅ"ッッ……あ"♡」


カンナキから愛らしい声が漏れ出る。舌で押し潰しながらもう片方も指ではじくと、小さく呻きながら焦れったそうに太腿を擦り合わせた。カンナキの下半身に目をやると、触ってほしそうに着物を押し上げ、勃ち上がっている部分が見える。


「カンナキ……ッ……///お前は友人にこんなことをされて興奮するのか?……いやらしいやつだ……///」


「や"ッ……ち、違ッ……////」


「違わない。お前は俺に触られて悦んでいるだろう……///潔く認めろ///」


そう言いながら着物が盛り上がっているところに手を重ね、少し強めに握った。


「ん"ッッ……♡♡ン"ッッッ♡♡♡ハァッ……♡ゆ、ゆゆッ……♡……ざく、♡」


無意識なのかカンナキは腰を浮かせ、快感を求めて少し動かしている。


「卑猥だな、カンナキ……///布の上からでは足りないか。」


耳元で囁くとカンナキの腰がまたビクンと跳ねる。その様子が可愛らしく、少しそのまま服の上から弄んでいると、カンナキが何か言いたげな顔で呟いている。


「ぐっ、う"……♡♡…………ッれ"……♡」


「……何だと?」


「ぁ"ッ♡も、もうッ……///直接、触ってくれぇ"……ッ♡///」


「……………………ッッッ////」


中着を自ら捲り上げ、袴を弛めながら乞う想い人の姿をみて、誰が理性を保って居られるのか。俺は荒々しくカンナキの袴をずり下ろし、ぐっしょりと濡らしたものを露わにした。


「ぁ"……ッ……ッ♡♡///く、ぅ"……♡///」


先端からとろりと液を垂らす自身を、羞恥と期待の混じったような顔で見詰めるカンナキ。まだ何をされるのか分かっていないのだろうが、俺の顔がそれに近付くと共に察したようで、少し腰を引いた。


「えッ……ま"ッ……!////幽々裂ッ……!?////」


「ふ、……ッン"……///」


ぢゅぷッ……♡と淫猥な水音が部屋中にさえざえと響く。


「ハァッ……♡♡♡ぁ"ッあ"ぁ……♡♡♡////あ、っ"ッ……♡♡」


カンナキの先の方からまた少し溢れ出たのを喉奥で感じた。


「フーッ……///フッ……///ハァッ……あしをひらけ……♡」


「ッ♡♡♡な"、んでッ……♡……ぁ"ッ♡ぐ…んう"!?////」


無理矢理脚をこじ開け、咥えているものの更に下の方へ指を滑らせた。入り口にぬるぬると指を擦り付ける。


「ま、待"っ!?//////そんなところ、う"、おかしいってッ……!////」


「何だ?魔力が欲しいんだろう。ここでなければ交われんぞ。」


先程まで咥えていたものを再び根元まで咥え込み、それと同時に入り口から中へ指を挿し込む。


「う"っっぁ"ッ……/////ひ、な、何か、変だっッ……♡……♡♡」


「まだ一本だけだが……///」


「ぐ、ぅ"、ぬ、抜ッぃ"……////♡そんなとこ、入れんの、無理だってッ……/////♡♡♡」



「そうか?…………きっと、気にいると思うが。」


コリッ♡♡♡


中指の先に、何かしこりの様なものが当たった。


「ん"ッッッあ"ぁッ!?♡♡♡////」


同時に、カンナキが大きく仰け反り、口の中で咥えていたものが吐精する。


「へ、……ッ、え"…………ッ?♡♡♡♡///ハァッ……♡♡ハァーッ……♡♡」


今まで知らなかった刺激を受け、まだ自分の体に何が起きたのか分かっていないようだった。


「当たったな……♡ここを前立腺、というらしい……、覚えておけ。」


「ぜ、ぜん……ッ??///ぃ"ッ♡んあ"ッ♡♡♡♡」


コリッ♡コリコリコリッ♡♡


間髪入れずにまた指先で前立腺を刺激しはじめる。


「射精を強制されるほどの快感があるそうだが、どうだ?……まあ、わざわざ聞かなくとも見れば分かるな///」


「や"ッッッあ"♡///もう、やめ"ッ♡♡イッた♡♡イッたからッ♡♡♡」


カンナキの顔は涎やら汗やら涙やらで蕩けてしまっている。中の具合も随分緩やかになった。俺は窮屈にしていた自身のものを取り出し、カンナキの入り口に擦り付ける。


カンナキはそれを見てビクリと身を怯ませた。


「ま、待てッて……////それ、そんな、でかいの、入れるのッ……!?////」


「………………怖いか……?」


「こ、怖い、よ"、ッ……///」


友人に犯されるのには抵抗があるのか。カンナキは再び涙を流した。


やはり、俺ではダメなのか。


分かってはいたが、どうしても期待してしまった。もしかすると、カンナキは自分の事を特別に思ってくれているのかもしれないと淡い期待を抱いた自分が恥ずかしい。カンナキに無理をさせ泣かせてしまったことに情けなさを感じる。

これ以上汚行を働かぬよう、俯いたまますまなかったとカンナキから手を離した。


その瞬間、カンナキの手が俺の着物の袖を掴み、引き寄せる。何事かと顔を上げると、真っ赤になりながら必死にしがみつくカンナキが口を開いた。


「ち、違っ……ゆ、幽々裂ッッ俺、ッ……///指だけでも、あんなに気持ちよかったのに、そんなの挿れられたらっ……どうなっちゃうのか、ッッ……それが怖いんだよッ……////」


「……………………ッッッッ/////カン、ナキ……ッ////貴ッ、様ぁ"ッ///……もう我慢ならんッ……////」


俺はカンナキを力いっぱい抱き締め、押し倒した。艶やかな黒と桃色の髪がさらりと床に広がる。


「ゆ、幽々裂……ッ♡♡////」


「悪いが、もう歯止めは効かんぞッ♡♡♡///ハァッッ…♡ん"ッ……♡」


つぷり……ッ♡と先端をゆっくり挿入すると、カンナキが声を漏らす。


「ハァッ♡♡……あ"ッ♡……あ"ぁ"ッ♡♡は、入って、ッ……♡♡♡////」


「ハァッ……♡♡ぐ……ッ♡カンナキッ……♡……歯を食いしばれッッッ///」


「え"ッ何ッッッ/////でッッッ♡♡♡♡ぁ"ッ♡ぉ"くッ、ぅ"♡♡♡」


ぢゅぷんっ♡♡♡


激しく腰をうちつけ、奥まで全て挿し込むと、中が締まり、吸い付いてくる。


「ハァッ……♡♡カンナキッ♡♡もう少し、力を抜けッ……くっ♡♡♡////」


「は、あ"ッ♡♡ん"ぁ"ッ♡♡無茶、言うなよッ♡♡♡///っ、ぁ"ッ♡♡♡そ、そこッッ♡♡♡///ダメだッぁ"♡♡♡」


ぬちゅっ♡ぐちゅっ♡といやらしい水音が耳を犯す。わざと前立腺を押し潰すよう奥を突くたびに、ビクンと反応するカンナキ。


可愛い。


好きだ。


俺だけのものに。


無理だと、実らない想いなのだと言い聞かせ、しまい込んできた想いが溢れだしてくる。


「ぁ"ッ♡♡♡ゆ、幽々、裂ッッッッ♡♡♡ハァッ♡♡もッ、う"♡♡♡イッ、イキそうッッッ♡♡♡♡

イ"ッッッ♡♡♡」


「ハァッ……♡♡俺も、イクぞ、カンナキッ……♡♡///ハァッ♡♡……ッッ可愛ぃッ…………好きだッッッ♡カンナ、キ、ッッッ……♡♡///」


「ハァ♡♡♡ッッッッえ"ッ……//////ーッッッッぁ"ッイ"クッッッ♡♡♡♡♡♡」


……一瞬、思考が止まった。

言ってしまった。好きだと。カンナキは、どんな顔をしているのだろうか。なんと言葉を返してくるのだろうか。


カンナキは……?


恐る恐る顔を見ると、カンナキは寝ていた。いや、意識が飛んだと言うべきか。兎に角、無理をさせたのは事実だ。休ませる必要があるだろう。カンナキを布団に寝かせたあと、俺もその隣に横たわる。


明日の朝のことを考えると中々寝付くことができなかった。

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