因縁の対決 2

 トンッ。敷き詰められた長方形の石の上。ショータは足を下ろす。まとっていたヒマワリ色の光を消す。


 ドシン。次の瞬間、足を滑らせる。尻餅をついた。表面が緩く凸凹していたため。注意を怠った結果だ。


 石の赤みの橙色と、持ち色のヒマワリ色が混ざった光が広がる。石のひとつ、ひとつが上下した。


 ショータには不思議だった。人智を超える力で、町が形作られているとしたら。相殺されるはずなのに。


 気配を感じて、ショータは顔を上げる。藤紫色の刃の前。座り込む人の姿を見つける。顔立ちが判り、目を輝かせた。キセラだ。転生がうまくいったんだ。感動する。


 遡ること、数分前。


 ココン。ココン。屋根に当たる飴の音を、イリスは聞き続けた。不思議と、気持ちをなだめてくれる。


「起きるよ」


 いつまでも、寝ている訳にもいかない。イリスは考えた。腰の上に転がる、自立思考型の携帯端末のラナンに、声を掛ける。腰から降りたのを、確かめる。


 淡い黄色の毛のウサギと、灰色の毛のネズミも後ろに下がる。綿の生き物だけは、首から離れない。手を添えて、起き上がった。


 体はだるいし。体温も上がっている。気分は最悪だが。服装を整えて、迎えなければ。イリスは判断した。


「水、飲む?」


「クシャン。……。飲む! 飲む!」


「クシャン。……。チュー」


「クシャン。……。キュウ」


 腰に提げている緑色の布箱に触れる。心配そうな小さな生き物たちと目が合う。努めて明るく、イリスは聞いた。


 それぞれ、くしゃみをした後に、意思表示をする。冷えるんだ。判ったイリスは、ウサギとネズミを足の上に上がらせた。鼻を布切れで拭いてやる。


 布箱から出した、柔らかい容器の水を飲ませる。ウサギ、ネズミの順に。


 綿の生き物も、肩から腕を伝って手元に来る。イリスには、どこに口があるのか判らない。手のひらをくぼませて、水を溜める。生き物は飛び込んだ。たちまち空になった。


 宇宙船での飲みかけの容器の水を、イリスも飲む。細く切った野菜と果物を詰めた容器を出す。封を開き、食べて見せる。小さな生き物たちは、食べたいと目を輝かせる。


「おいしいと思った物を食べると良いよ」


 一口の大きさに、指で割って差し出す。イリスは助言した。野菜も果物も、数種類ずつ入っている。好みによって、食べ分ければ良い。


「どうしよう。どれもおいしい」


「それは良かった」


 旬の野菜と果物に、熱を加えただけ。特別注文した時、担当者を驚かせた。素材の味が生きていて、結果、人間だけでなく、小さな生き物たちを満足させた。


 空腹・満腹。どちらもいけない。こまめに、水と食べ物を取ること。師の教えを、イリスは守っている。たとえ、食べる気がしなくても。


 空になった容器を、それぞれ人智を超える力で包む。緑色の玉の形をした障壁の中。呪文、ひとつで火を灯す。容器が燃え出した。小さな生き物たちの傍に置く。


 体に当たる感覚。イリスは見おろす。ラナンが転がって、自分がいると主張していた。


「ごめん」


 イリスは拾い上げる。もっとも自分に近い足の上に載せる。ラナンは丸い体から手足を出して、満足そうな音を立てた。一拍おいて、警告音を鳴らす。


「今居る町が、カイザイク国の町を模して造られているって。上空の二人が初めて知って、衝撃を受けているよ」

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