因縁の対決 1
「騙された! サギだ!」
昔を思い返していた。キルトの脳裏に響く、ショータの声。
頭の天辺に下ろされた、キラの手刀。光景が浮かび、身をすくめた。
頭の片隅に追いやる。ここまでは、手筈どおり。向こうは、うまくいっているかな。キルトは右の方角を眺めやった。
星無し夜空。ダイヤモンドが浮かぶ。ひと抱えのあり得ない大きさ。
特殊な場所だからこそ。鉱物としても、人智を超える力の塊としても。盗まれずに済んだと、ショータは思う。
強い光を放つ、ダイヤモンドの下。黒飴を降らせる黒雲の上。キルトが佇む。キラの作戦どおりに。疑心暗鬼になっていたが。守ってくれている。
「ショータ」
緊張した声で、キラが名を呼ぶ。ショータは横顔を見た。視線の先を追う。言葉を失った。
島の形。広がる町。キラとショータが住まう、カイザイク国を模していた。
世界を形創った、今は、長老と呼ばれる時代。キラもショータも、招かれていた。新しい主が、主の座に就く式典に。当時、町は建設中だった。
その後は。ほぼ、カイザイク国の政治の中枢にいた。人智を超える力に関する情報は、自分たちの元に集まる仕組みにしてあった。
モデルにした町作りをするとの話を聞いた覚えはない。
問い質したかった。でも、当の長老たちの行方は不明のままと思い出す。
気を引かれる、強い力。キラもショータも感知した。
町の外れ。そびえる山の対角線上。半透明の青い石の粒でできた海の近く。萌葱色の光を見つける。
傍に、深紫色の光が二つ。片方に、緑色の光が混ざっている。
偽物を乗り込ませてきたお意味した。転生したルビアメラルダ直轄の警護隊の隊員を名乗らせて、本物を討つという。届いた情報のとおり。
「手筈どおり、藤紫色の刃を守って」
「了解!」
頭を切り替えて、キラが言う。平静を取り戻していると判った。ショータは返事をした。一直線に降りていくのを見送る。
チリン。ゴッ。鈴の鳴る音がした。肌と肌着がこすれて、顎を思い切り打たれる。出る時は、教えて欲しい。ショータは切実に願った。
視界に入る、黒い毛並み。両前足で、頭と耳を押さえていた。細かい芸だとショータは思う。振り返った黒猫は、ケロッとしていた。
「ミャア。……じゃなくて。どういたしますか?」
子猫の体格。併せて、鳴き方を少し、たどたどしく、と、ショータは頼んでおいた。つい、練習の通りに鳴いてしまった。当の黒猫自身が訂正した。
藤紫色の刃を守るのは、重要。居合わせたから、知っている。行く前に訊くのだから、気がかりがある。
「ジジ。見回ってきてくれ。くれぐれも、無茶や無理をするな。手に負えないと思ったら、すぐ、僕の所に来い!」
「はい。は~い!」
「はい。は、一回!」
「はい」
ショータはジジに命じる。母親みたいに、口うるさく。黒猫の軽口の返事。言い直させた。
首に結んだ赤いリボンに付いた金の鈴を鳴らしながら、ジジは外に向かう。
見送ったショータは、藤紫色を探す。見つけると、ヒマワリ色の光をまとう。一直線に降りる。
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