離れ小島・9

 素早く、エリンの傍にいく。説明を後ですると約束。担ぎ上げて、障壁の方へ。諒に籠を運ばせる。足元を走るリスが、服を伝って登る。胸元で、玉の形に戻った。


 球体形の障壁の中に入り、エリンを椅子に下ろす。守るように、諒に頼む。外に出た颯は、穴を閉じて向き直る。火花を散らす。ティライトとダークコアの方に。


「ダークコアさまは、光の柱から。ティライトさまは、闇の柱から。駒を引き出すのは、いかがでしょう?」


「そうだな。相手が有利になるのを防げる」


「そうですね。ただ、我らの駒になっていただけるか。別でしょうが」


 あらゆる世界を挟んで距離があっても、歪みを生じさせた。なだめるために、颯は提案する。空間を司るスィエルアスタの助けを借りて届けた。空間を凍らせるほどの冷気は、双方の頭を冷やす。高まった感情を抑えさせた。ダークコアとティライトがそれぞれの言葉で承諾する。揃って、前に進む。


 ティライトとダークコアが、揃って願う。空間を司るスィエルアスタに。互いの立ち位置を入れ替えてもらう。どちらにも柱を前にして、進むのをためらう。司る力とは、対極に当たる。下手をすれば、相手の力によって浄化されてしまう可能性があった。


 先に動いたのは、ダークコアだ。大股で光の柱に歩み寄る。右手を肩まで闇で包む。下から上への流れに突き入れた。指先が触れたものを、手を開いて掴み出す。


「あらっ!? いい男」


 光の柱と向き合う。ダークコアは出迎えた。女の切れ長の目を見返す。面白い女が釣れたと思う。クレアと名前を読み取る。クレアは赤系の紅を引いた口を開く。口を突いて出る素直な感想。低いが甘さを含む、ゾクッとさせる色気のある声。豊満な胸が際立つ、柔らかな生地で作られた光沢のある黒い色のワンピース。まっすぐな黒髪が、腰にかかる。


「うおっ! 美人! 背が高い。頭が小さい。足が長い。八頭身かな。モデルみたいだ」


 外の様子を覗いていた、諒がつぶやく。持っている魂核が、気遣って人智を超える力で翻訳する。目の前のテーブルに置かれた、果物が盛られた籠に前に上機嫌なエリン。ピク、と、反応する。脳裏に浮かぶ、姿。ふつふつと怒りがわく。最後の言葉がだめ押しして、立ち上がった。隣に移動する。外を覗いた。


 ドンッ! 障壁に与えられた衝撃。びっくりした颯は振り返る。壁際に立つ、エリンの姿。外の様子を見て、壁に体当たりしたと想像がつく。穴を開いてやる。転がるように出てきた。


「貴様か、クレアー!!! 毎回、毎回。あたしを巻き込むなー!!」


 外に出た、エリンの絶叫。映像のクレアとダークコアが振り返る。あらゆる世界を越えた向こう側にいる二名に届いた。失敗したと颯は思う。先に、説明すれば良かった。激昂した相手に、どんな言葉を掛けても伝わらない。経験上、知っていた。


「エリンちゃん!? そこのあなた。わたくしを向こうに渡しなさい」


 エリンと目が合う。なんていう格好をしているのか、問いたげな顔のクレアはする。命じられた、ダークコアは目を丸くした。高い地位にいる相手と判っていて、頼んできたからだ。場馴れしていて、願いを聞き届けてくれると踏んでいる。不快でもあったが、好奇心が上回った。フェウィンは、どう対応する。承諾して、叶えてやる。実際に送り届けたのは、スィエルアスタだが。


「そこのあなた。湯を張ったタライを用意して。そこのあなたも、見ていないで手伝いなさい」


 長い裾をたくしあげ、クレアは片側で結ぶ。まず、颯に命令する。障壁の向こう側にいる、諒を見つけて手招きした。美人に頼まれて、嬉々として外に出てきた。


「エリン、汚れを落とすわよ」


 クレアの剣幕に圧される。エリンの毒気が抜けて、承諾した。

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