離れ小島・8


「駒選びだ!」


 揃って、立ち上がる。双方の配下が現れた。しゃがんだまま進む。革張りの椅子を端まで運んだ。ダークコアとティライトが睨み合う。火花が散る。発した声は揃った。持てる力を解き放つ。それぞれの足元から上がる、闇と光に包まれる。姿が隠れた。中心にして、風が吹き荒れる。光が明滅する。巻き上げられた砂。包む壁に当たる。音を立てて震えた。


 挟んでいる、あらゆる世界を越える。闇も光も。狭間と世界を震わせる。本能の求めに応じて、颯は障壁を作る。応接セットを包む、玉の形をした。表面に水を張るように、無に返す闇の力を張った。立ち会うため、外は視通せる。諒が息を呑む。


 あらゆる世界の中心に当たる、離れ小島。光と闇が重なり合う。双方の力の量は互角。証明するように、相殺された。布を引っ張るように、二つの力が吸い込まれていく。怖いほど純粋な雪を思わせる白と、赤と黄色が混ざったオレンジ色。時間を司る力と、空間を司る力と視極める。大き過ぎる力が、歪みを生じさせたと颯は気づく。


 転がり出た。猫科の獣。白の毛並みに、灰色の模様。ただ、半袖の黄色のTシャツを着て、オレンジ色のショートパンツを穿いている。細長い尻尾は、白と灰色の縞模様。すぐさま、身を起こす。構えて、辺りを見回す。


「どこ? ここ」


 しなやかな体と動き。つぶやいた、一言。知性を持っていると教える。理解が難しい言葉だったが。諒に待っているように伝える。颯は障壁に穴を開けた。通った後に閉じる。警戒する獣人間に、近づいたものの距離を取る。尻をついて座った。


 自分の出番。胸元の魂核が玉の形を崩す。藤紫色の毛並みのリスに変化。トッ、トッ、トッ。軽い足取りで近づく。くりくりっとした黒い目で仰ぎ見る。獣人間は、興味深げなまなざしを向ける。しばらくして、互いに気持ちが通じ合う。手元まで呼び、撫でる。リスが前足で、颯を差し示す。颯は相手の黒い目と合わせる。不安な様子が読み取れた。


「俺の名前は、フェウィン。きみの名前は?」


「……。エリンです」


 動かず、颯は自己紹介をする。こわばった表情。リスが翻訳すると、エリンと名乗った。突然、異なる場所に放り出されたのだ。怖がるのが当たり前。まずは、説明を……。


「おい! 手助けいるか?」


 待ち切れず、諒は尋ねる。肩越しに、颯は振り返った。見よう見真似。障壁に穴を開けて、半身だけ出ていた。空間を凍らせるほどの冷たい空気に、動けなくなったと判る。刺すようなまなざしを向けて、向き直る。


 ギョッとした。エリンは口から大量のよだれを流す。視線の先を追って、諒が桃を両手に持っていると知った。手伝う気はなかったなと見て取る。


「記録係を務めてくれますか? 対価は果物で」


 失礼に当たらないように、報酬という形を颯は提案する。リスを介して、翻訳。エリンは頭を縦に振る。大きく、何度も。諒を手招きする。一旦、引っ込む。山ほど果物が積まれた籠を持って出てきた。


 戻ってきたリスが、籠を宙に浮かせる。四つ足で歩く、上を進む。エリンは目を丸くして、見詰めていたが。手元に降りてくる前に受け取った。地面に籠を置く。桃を両手で掴んで、交互に口に運んでいく。お決まりどおり、喉に詰まらせる。咳き込む背中を、リスが叩いてやった。諒が水差しとコップを、力で送ってやる。感謝して、水を注いで飲んだ。


 エリンに向けられる殺気。ティライトとダークコアによる。駒選びを妨げられたと誤解した。感知した颯は、とっさに、リスから力を引き出す。左右の手を広げて、放つ。ダークコアが放った力も、ティライトが放った力も。離れ小島に届く前。颯が放った力が当たって霧散した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る