離れ小島・2
「で、どうやって行くの?」
「俺の部屋のドアが、どこでも……になるだけ」
興味津々といった様子で、家族から訊かれる。颯は当たり前のように答えた。力の無駄遣いはしたくない。家族と亜理紗は目を輝かせる。言外の希望は、保留にした。
「じゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
悟と花菜、美琴と理人、亜理紗の顔を順に見て、颯は出掛ける旨を伝えた。パタパタ、と、スズメが飛んできた。亜理紗の波打つ髪の上に下りる。居たんだと思った。最後に、虹と目を合わせる。家族のことを頼んだ。
諒の方を見た。ギョッ、と、颯はする。ど緊張状態。
「ほら、行くぞ」
励ますために、諒の背中を叩く。先に、颯は歩き出した。玄関の方に行く。靴を持って、階段を登った。廊下を進んだ突き当たり。自室のドアを開いた。
「おお! キレイに片付いている」
「普通だろう。掃除機はかけたけど」
部屋に入った諒が、見回して一言。からかう、まなざしを向けてきた。机の上に置いてある魂核が付いたネックレスを取り上げた、颯は言う。彼を驚かせたと知る。考え方の違いか、思いつつネックレスを首に下げた。
「よく、説得できたな。フレイムくんを」
「亨介が誘ったんだ。友達の家に遊びに来るかって。今日、受けられなかった授業を教える条件を付けて。まだ、俺が体験していないから、魅力的だったんだろう」
「フレイムくんを寄越してくれて、ありがとな。おかげで、睡眠不足を解消できた」
「どういたしまして」
「颯くんは、取れたの?」
「帰ってきて、軽く食べた後に」
緊張からか、いつもよりも諒はしゃべる。さっきは、好奇心が上回ったと判った。フレイムがいなくて、せいせいするし。寂しいし。調子が狂うとは、颯は黙っていた。
「亨介が出した、全国一斉の共通模試の結果には、ある意味、驚かされたな。一発で、自分がいるのを判らせるためと言っていたが」
「真面目にやれって、叱られていたね。本人は理不尽という顔をしていたけど。運動部は、言い訳できなくなったよね。両立は難しいって」
「才能があると見込んだ選手を、全国から集めて合宿させる。呼ばれていたけど、どうするんだろうな」
「すごいことなのに、本人に自覚がないって言うのも。問題あるよな」
「ああ。落ち着いたな。そろそろ、良いか?」
「待った! 虹さんからもらったマントを、羽織って行って良いかな?」
「諒が羽織った方が心強いと言うなら、良いと思う」
昼間、全校生徒を驚かせた出来事を上げる。余計な緊張を、颯は解いてやりたかった。思い出した諒は同意する。当たり前の態度だった亨介の様子も。
解けたと見計らい、颯は声を掛ける。諒は止めて、持ってきた鞄から畳まれた黒い布を出す。広げると、真ん中に金の糸で刺繍された模様。転生前の虹の命を守ってきたという。穴が開いただけで、他人に渡すと言うのもどうかと颯は思う。皆の目の色が変わり、じゃんけんで彼に決まった。穴はかがってあった。
薦めた颯も、自分のマントを出して羽織る。藤紫色で、模様無しの。付いているフードを深くかぶる。見ていた諒も倣う。命が危険にさらされる特殊な場に行っても、身を守れる代物だ。
「時間を司るナイオスツァイト、空間を司るスィエルアスタ。闇を司るダークコアさまと、光を司るディライトさまが居る所につなげてもらって良いか?」
「かまわない。ただ、歪みを直しきれていない。多少のズレは、良いか」
「はい」
声のみで、伝え合う。両存在は、あらゆる世界で歪みを正している。ナイオスツァイトと、スィエルアスタの指示どおり、颯は自室のドアを閉める。諒に声を掛けて、揃って靴を履く。ドアを開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます