【SS】第一回 嫁にしてもらってうれしかったコスプレ選手権


 1巻出題編より前。篤の会社の飲み会でのお話。


◇ ◇ ◇ ◇


「というわけで始まりました、『第一回 嫁にしてもらって嬉しかったコスプレ選手権』。司会は私こと、新人三年目の乙原です」


「何が始まったの!?」


 会社の飲み会――の三次会。

 気の知れた同僚と梅田駅前のバーで飲み直していた僕は、唐突に始まった謎コーナーに盛大にむせ返った。


 カウンター席に肩を並べるのは五人の企業戦士。

 柏木専務。(39歳・既婚)

 杉田係長。(32歳・独身・彼女あり)

 鈴原主任。(32歳・既婚・僕)

 堤主任。(30歳・独身)

 乙原くん。(23歳・独身)


 やばい。

 事故の香りしかしない。


「というか、このメンバーで既婚者は僕と専務だけじゃない?」


「まぁ、細かいことは言いっこなしで」


「いや根幹でしょ」


「ではさっそく、柏木専務から」


「命知らずかよ」


 僕の追及をさらりとかわす乙原くん。

 半分寝ていた専務が肩を揺すられて「ふぇっ?」と声を上げる。杉田と僕が「相手にしないでくださいね」と視線を送ると、専務はこくこく頷いた。


「……えっとねぇ。僕の奥さんはあんまりそういうの好きじゃないんだけれど、一度だけ高校の制服を着てくれて」


「「答えるんかい!」」


 僕と杉田はカウンターに倒れ込んだ。

 してやったりと乙原くんが邪悪な笑みを浮かべる。専務が答えたのだから、それ以下の役職の僕たちが答えないわけにはいかない。


 まんまと罠にはめられた。


「それじゃ次は、人気小説家が彼女の杉田係長」


「だから命知らずかよ」


 えぇ、そうだなぁと杉田が真面目に考え出す。

 いや、考えるんかい。


「まぁ、エッチなコスプレはだいたいしてもらったけど」


「話の入り方がどピンクすぎる」


「やっぱりバニ――高校時代の制服かな」


「今、なんか誤魔化さなかった?」


 爽やかな顔で押し切る杉田。

 あんな美人にバニーコスなんてさせるんじゃない。金髪貧乳ツンデレバニーとか、恐れ多くてオタクでも妄想できないっての。


 僕は手元のジントニックをぐいっと飲み干した。

 やってらんないよこんなの。


「それじゃ、お隣の鈴原さん――と見せかけて堤さん!」


「うぇっ?」


 どこか他人事だった堤くん。

 お酒が苦手なので素面のはずだが、強い酒でも飲んだようにその顔が赤くなる。


 おや、独身と聞いていたのだが、この反応――さてはいい人がいるな?


「黙っていたんですが、一つ年上の女性と同棲していまして」


「そうなんだ」


「まぁ、コスプレは流石に頼めないですけど」


「年上だもんね、そりゃ難しいか」


「ただ、学生時代の制服を冗談で着たことがあって。それはキュンときましたね」


 あら、純情。

 そしてやっぱり制服か。


 男はみんな、愛する女性の制服姿が大好きなんだな。

 結論が出たところで、僕は空になったグラスを持って店員におかわりを頼んだ。


「さて。それじゃ大本命、鈴原さんの一番嬉しかったコスプレは?」


 まぁ、そりゃそうですよね。


 どこか終わったような空気を出せば話が流れるかと思ったけれどそうはいかない。

 気軽なノリと見せかけてそこそこキツいこの身内の空気よ。

 これは質問から逃げられないな。


 すぐに出てきたおかわりのジントニックを舐めれば炭酸に舌先がピリリと痺れる。少しすっきりした頭で、僕は千帆との夜の営みに思いを巡らせた――。


「…………やっぱり僕も制服だな」


「「「「その間はなに?」」」」


 秒でバレる嘘。


 いや、言えないでしょ。

 満場一致で「嫁の制服姿こそ至高!」という結論の直後に「けど、僕はバレー部のユニフォーム!」とか。


 酔っていても言えませんよ――そんなマニアックなコスプレ。


◇ ◇ ◇ ◇


※おまけの女性サイド(同時刻の千帆と文のテレビ電話女子会)


文 「最近、良平くんがバニーガールのコスプレしてくれってうるさくって。もう、いい歳して頭の中が高校生なんだから」


千帆「あのドスケベゴリラめ」


文 「千帆は鈴原くんにコスプレとかしてあげないの?」


千帆「うちはしないよ。高校時代のバレー部のユニフォームを着るくらいかな?」


文 「…………え?」


千帆「…………え?」


◇ ◇ ◇ ◇


 1巻発売記念SSの方、こちらでラストとなります。

 最後までお読みくださりありがとうございました。m(__)m

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