幼馴染だった妻と一緒に高校時代にタイムリープしたんだがどうして過去に戻ってきたのか理由が分からない。そして高校生の妻がエロい。
第3話 「お嫁さんにする? 新妻にする? それとも私?」で妻がエロい(1)
第3話 「お嫁さんにする? 新妻にする? それとも私?」で妻がエロい(1)
「へぇー、それじゃゴールデンウィークは他にどこも出かけないんですか?」
「そうだね。まぁ、コロナが収まったとはいえ、杉田みたいにふらっと旅行に行くわけにもいかないし。今年も家でおとなしくしているよ」
「本当におとなしくするんですかー? えー? 本当ですかー? 奥さんとよろしくにゃんにゃんするんじゃないですかー? やだー、やらしいー」
「いい歳した女性がそんなん言うもんじゃないと思うんだけどな」
「いい歳だから言えるんじゃないですか。わかってないですねセンパイ」
そう言って悪戯っぽく笑う三十一歳(公称:年齢不詳)パン屋勤めの女性。
体つきや物腰こそ大人びたが、やんちゃだった昔の面影を顔に残したままの彼女は、昔を偲ばせる笑顔を見せると僕をからかってきた。
高校の頃から、こんな調子で彼女に口で勝てた覚えはない。
阪急南茨木駅。
西口から北に歩いて十分。
カフェ&ベーカリー『いこい』。
平日の夜八時までやっているこの店には、僕たちの古い知り合いが勤めている。
三十歳を超えても、当店の看板娘を公言してはばからない彼女は相沢郁奈。
彼女は僕と千帆の高校時代の後輩だ。
もっとも、別に部活が一緒とかだった訳じゃない。
なんだか知らないうちに仲良くなっていて、大学進学後もこうして付き合っているのだ。人の縁というのはよく分からないものである。
しかしながら、出会った当時から何かと人を食う性格をしていた彼女に、僕はセンパイと呼ばれながら、一度も口でかなうことがなかった。
なんていうか、千帆とはまた違う感じで、翻弄されっぱなしの女性である。
さて、そんな彼女にどうして会いに来たかと言えば他でもない。
僕たちがここ――『いこい』の常連客であり、朝食のパンを買っているからだ。今日は僕が買い出し当番だったので、帰りしなに寄ったという次第である。
ただ――。
「いやしかし、お熱いですねぇ。そんな黄色いビニール袋持っちゃって」
「そこは触れないでくれよ相沢」
「……『0.02ミリうすうすくん』と見た!」
「触れるなって! ここお店でしょ! なに言ってんの!」
「いやぁ、あんまり堂々と持ってるからフリかなって?」
「セクハラでしょそんなことわざとしたら! しないよ!」
猫科動物のように目を光らせて相沢がいじってきたように、ちょっと僕は余計な物を持っていた。阪急南茨木駅東口のドラッグストアで買ってきた夜のお供である。
しかたないよね。
西口にはないんだから。
帰り道にドラッグストアがあるなら別だけど、ないから買うしかないじゃない。
そして、店員さんとは古なじみだし、我が家の事情もご存じだからスルーしてくれるかなって思うじゃない。
けどしてくれないんだなぁ、相沢は。
鬼畜。
この後輩まじで鬼畜。
鬼畜系猫女子相沢である。
三十歳になって少しは落ち着いたかなと思ったのに、未だにこんなんだからちょっと心配だ。別に、僕が心配する義理はないんだけれど、こんなんで結婚できるのかなって、他人事ながら考えちゃう。いや、ほんと僕が心配することじゃないけど。
けどまぁ、高校の時に比べればいくらかましかな。
あの頃は本当にもう、まったくつけいる隙もなかったから。僕がどれだけ、彼女の天真爛漫ぶりに振り回されたことか。思い出しただけで胃がむかむかする。
そんな僕の調子を感じ取ったのだろう。
あれぇと相沢が怪しく微笑む。
「どうしたんですかセンパイ? もしかして、まだ家じゃないのにムラムラ来ちゃったんすか? しょーがない人ですねぇ。奥さんがいるのに」
「してないよ。どっちかって言うとムカムカかな」
「そう言って、篤は決して妻にはぶつけることができない黒いリビドーを、目の前のうら若いパン屋の女性店員にどう吐き出そうかと考えた」
「考えぬ!」
「センパイ。センパイさえよければ、あたしは別にオッケーですよ?」
「オッケーじゃぬ!」
「慰謝料さえ払っていただければ。はい、三百万円になります」
「心臓に悪いからこういうのほんとやめろよ相沢」
ケタケタと笑って彼女はレジを打つ。それは僕が持ってきた食パンの値段だった。税込みで三百円ぴったし。手間のかからない良心的な値段設定にはいつも痛み入る。
けど看板娘のセクハラトークは考え物なので、そこはちゃんと指導してほしい。
うなじまで伸びる髪をバレッタでまとめて帽子の中に。
まさしく猫のような愛嬌のある髪型と顔にはいつも笑顔が溢れている。
身体は三十代にしては華奢。モデル体型でこそないけれど、標準からマイナス五キロくらいか。女性の理想のプロポーション――ただし140センチ代の身長は除く――という感じ。胸はちょっと控えめ。
まちがいが起こらないとは言い切れないくらいの美女。
たぶん、そういう話をしないだけで普通にモテる。
けど結婚の話を聞かない。
そんな不思議な女性だった。
まぁ、いくら古い友達だからって、いつになったら結婚するのなんて、気軽に聞ける話じゃないけれど。
「あーあー、けど、いいなー。結婚かー。あたしもそろそろいい歳だし、どこかにいい人いないかなー」
「いるんじゃないの? 探せば周りにいくらでも?」
「この歳になっちゃうと、男性に求めるスペックがやっぱり高くなるんですよね」
「たとえば?」
「年収は多くは望まないけれど正社員。お酒はほどほど、たばこは厳禁、ギャンブルはダメぜったい。清潔感のある格好を心がけていて、体力もジムに通ってちゃんとつけてる。休日は一人で遊びに出かけず家族サービス。家事は分担。けど、場合によっては融通します」
「難しいんじゃないかな、その条件は」
「そうですかね? 割と既婚男性ならこれくらいこなしてると思いますが?」
「だからなんでそこで僕を見るの。やめてよからかうのは」
いたずらっぽくにまにまと笑う相沢。
ほんとこいつは昔から、先輩をまったく敬わない。
こんな感じでからかってくるんだから。
一時期、ちょっと勘違いしかけたことがあるけれど、勘違いしなくて本当によかった。千帆と結婚してよかったなって、今になって思うよ。
比べるものじゃないとは思うけれどさ。
それで、千帆も千帆でちょっと意地悪なところあるけれどさ。
女性って怖いよね。
なんにしても、三十歳にしても小悪魔後輩オーラが衰えない相沢。
彼女は、「おまけにギャバ入りのパンを付けましょうか」なんてくだらない冗談を交えつつ、僕のレジを済ませた。
白いビニール袋に、五枚切りの食パンを入れて僕に渡す。
ふっとその指先が彼女の手の甲に当たると、またにまりといやらしい顔をした。
こいつ――。
「相沢、わざとやっただろう?」
「わざとって、なんのことですか?」
「こういうことしてると、ほんと男が寄りつかなくなるよ?」
「けどセンパイは毎週会いに来てくれるじゃないですか。うふ」
「やめよっかなここ通うの」
うそうそ冗談と笑う相沢からレジ袋をひったくる。そのまま、二度と来るかという感じを背中に漂わせて、僕は店を後にしようとした。
そんな僕の背中に、センパイと、相沢が不安そうに呼び止める。
別に止まらなくてもよかったのだけれど、ちょっと真剣な声色に脚が止まった。
なんだろうかと振り返れば、少し気恥ずかしそうに顔を赤らめる相沢がいる。
「……えっと」
「どうしたんだ、相沢?」
「……あー、そのー。私も結婚したら、センパイと千帆さんに、友人代表のスピーチをお願いしますね」
「結婚するの?」
「……まぁ、そのうちには」
分かった。じゃぁ、とっておきのスピーチを今から用意しておかえししてやる。
覚悟しとけよと笑って、僕はパン屋を後にした。
阪急南茨木駅から徒歩で二十分とちょっと。
住宅団地のど真ん中にある五階建て。築四十年の集合住宅。
UR宇野辺六号棟。三○三号室。そこが僕と千帆の愛の巣だ。
二人で家賃を折半して借りているそこは、若い世帯でもお手頃かつDIYリフォーム可物件として出されていた掘り出し物だ。ちょっと駅から不便な立地ではあるが、そこそこ静かで落ち着いて生活できるよい場所だった。
都会なのにこういう場所はなかなか少ないと思う。
田舎暮らしとかしたことないから分からないけれど。
階段を登って三階に。
さて、ようやく帰れたなと思って息をつくと、そのとき目の前の扉が開いた。
僕たちが暮らしている部屋ではない。
その手前。
扉の向こうからのっそりと顔を出したのは、くせっ毛な長い髪をゴムバンドで無理矢理結び、無地のハイネックにずいぶんとくすんだ色合いのロングスカートという、少しずぼらな感じの女性。しかしながら、その体つきは僕の妻よりダイナマイト。
いろんなところもついでに出ているが、おつりがくるくらいに魅力的な肉体を持った方だった。
何度見ても目に毒だな。
すごい。
相沢の色仕掛けは躱せる気がするけれど、彼女に迫られたらどうにかなりそう。
やぼったい厚底の眼鏡を揺らして彼女はこちらに迫ってくる。
寝ぼけているのだろう、このまま階段に行くと転げ落ちそうだ。
僕は妻の居る身として少し躊躇したけれど、ご近所付き合いを考えて、やっぱり彼女に声をかけることにした。
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