第8話 討伐!!<赤狼>

こちらに向かって迫ってくる、<赤狼>。それに対し、俺は剣を片手に持った状態で挑む。


「ウオオオオオオ!!」


 <赤狼>が、どんどん加速して近づいてくる。鋭利な牙と剥き出しにし、目を赤くするほど血を通わせている。


「<霊砲スピリットキャノン>、展開」


 後ろを振り返って確認すると、彼女はアイテムボックスから十数個の魔石を取り出すと、すかさず地面に強く叩きつけた。粉々に割れた魔石からは、何やらオーラのようなものが放たれているらしい。それを、手が吸い込んでいく。


発射ディスチャージ!!」


 彼女は左の人差し指だけを伸ばした。<赤狼>に標準を合わせると、指先から紫がかった、一筋の光が繰り出された。


 光は、俺の真横を通り過ぎてもなお伸びていく。そして、それは<赤狼>の体を貫通する。


「いったか?」


 少しだけ、足取りが遅くなったように思った。だが、致命傷にはなっていないらしい。擦り傷にすぎないようで、すぐに元通りの速さに戻ってしまう。


「いい打点になったと思ったのに……」

「いったでしょう? これはあくまで援護にすぎないって」


 モンスター一体につきひとつ魔石しか得られない。十数個となれば、その分だけモンスターを狩るか、他人から買い取るかしかない。それだけの努力の末に放てる一撃が、これほどのものなのか。<はじまりの草原>で出てくる敵とはいえ、<赤狼>には油断できなそうだ。


 すでに、狼との間合いは十メートルもないだろう。そろそろ、こちらの出番だ。


「<未来予知フューチャーサイト>」


 動きが、少し先まで見えた。<赤狼>は、俺に向かって飛びかかってくる。そして、押し倒したのちに、爪で体を引き裂き、体を噛みちぎられる未来。


 アイツを討伐するには、押し倒されることを回避する必要があるようだ。


「霊界堂。アイツに押し倒された時点で勝ち目はない。絶対にその事態は避けよう」

「了解」


 ここで、<赤狼>がためを作ってジャンプをした。この動きは、もう読めている。ガラ空きになったスペースに、俺は剣を振る。


「いけッ!!」


 しっかりと踏み込み、体を捉える。腹のあたりを、飛び込んでくる勢いを生かして引き裂く。滑るように、刃が通った。とはいえ、浅く食い込んだ程度で、これも致命傷にはならないはずだ。


 斬られたことで、<赤狼>はバランスを崩し、地面に強く打ちつけられる。赤黒い血が、腹から垂れた。


「これで終わりだ。<加速アクセラレーション>」


 狼が立ち上がろうとする前に、時間の動きを遅くする。その中で早く動けるのは、この俺、ただひとり。


 剣士バーンのときと比べると、あまり狼の動きは鈍っていない。悠長に動いている場合ではなさそうだ。


 狼の体を、何度も何度も、深く切り刻む。再起不能にさえすれば、勝ち目がある。少しずつこちらの<加速アクセラレーション>の効果も薄れていき、反撃を食らいかねないと判断した段階で、俺は<赤狼>と距離をとった。


 すると、時の流れは元に戻った。<赤狼>は体中から血を吹き出し、パタリと倒れた。体をピクピクとさせているが、ここから立ち上がる気配もない。


「霊界堂、念のため、もう一発だけ頼む」


 心子が狼の前に立ち、魔石を割って再度詠唱する。


「<霊砲スピリットキャノン>」


 入った角度が斜めだったこともあり、<霊砲スピリットキャノン>は狼の足から頭までを貫通した。それが決定打となり、<赤狼>は完全に行動を停止した。


 <赤狼>は透明で微細な立方体へと姿を変え、最後には光となって完全に消失した。流れていたはずの血も跡形もなく消え去った。


「討伐お疲れ」


 僕らは、拳を合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る