第4話ー2

「よっこいしょ~、のどっこいしょ~」

 そんな掛け声を上げながら山の藪をかき分け――――もとい、薙ぎ払って進むのは俺様の主であるカルマちゃん。

 坑道迄の案内役が啞然としてるのが分かるほど太い幹もお構いなしに切り倒して道にしてしまっている。

「あの……カルマちゃん、無駄な自然破壊はやめた方が」

「何をおっしゃるうさぎさん。坑道のゴブリンを退治したらこの道も村人が使うようになるんだよ。いわば行きがけの駄賃です」

 そう言ってどんどん道を開いていくカルマちゃん。


「あの……、そろそろ目的の坑道です。少し静かにした方が良いのではないですか」

 と、案内役の村人がびくびくしながらそう提案してきた。

「そうだな。カルマちゃん。道づくりはその辺で、静かにいこうよ」

「え?別にいいじゃん。正面からのカチコミで」

「良くねーよ。俺様達はゴブリン退治は初めてなんだぜ。弱いと言っても数が多いから油断すると痛い目を見るってロッキーも言ってただろ」

「ふふん、問題ないね。私に策がある」

「ほう、なんだそれは」

 胸を張って自慢げに語るカルマちゃんに俺様が訊ねると。

「数が問題なら集まる前にぶっ倒す」

「…………………………………………」

「連携なんか取らせずに各個撃破」

「そんなの囲まれるよ」

「囲まれる前にぶち抜く」

「坑道の中はあっちの方に地の利があるから」

「ならばそれごとぶっ壊す」

 駄目だこの人。

 天才なのに、いや天才だからこそか、考え方が強引だ。

 厄介なのがこの人の装備ならいくらでも可能ということだろう。

「もっと安全なのはないの」

「それなら坑道に毒ガスを流し込むとか」

「それじゃあ坑道が使えなくなるじゃん」

「だから正面突破が効率的」

「…………はい、もうそれでいいです」


「あの~、わたしもう帰っていいですか」

 案内役の村人がカルマちゃんにドン引きながらうったえて来た。

「あ、はい。この先の坑道でいいんですよね」

「はい、すぐに分かると思いますよ」

「ありがとうございます。気を付けて帰ってくださいね」

「はい、失礼します」

 そう言って村人は来た道をいそいそと戻って行った。

 それを見送った俺様達は。

「さて、ワタシ達も仕事を始めますか。日が暮れる前には片づけたいよね」

「慎重に――って言っても聞かないんだよね」

「ふふん、わらわら系の無双ゲームも大好きなんだ」

「だからコレは現実なんですよ」


 そして現実とは理不尽なものだったりする。

 わらわらと出て来るゴブリンの群れ。

 それをカルマちゃんは俺様を一薙ぎするだけで何匹も両断してしまうのだ。

 どれほどの数が居ても近づくことを許さない。

 リーチの長い俺様がゴブリンを薙ぎ倒すだけじゃない。

 俺様に搭載されてる機能のソニックブレード、簡単に言うと風の刃が飛んでいき敵を切り裂くのである。

 加えて。

 ひゅん。とゴブリンたちから一斉に矢が放たれる。

 近付けないならば遠距離攻撃でという判断だろう。

 しかし、距離を取ったゴブリンたちに対してカルマちゃんはその強力な足の力で一気に距離を詰めていく。

 放たれた無数の矢は俺様を振るい叩き落していく。数本の矢がカルマちゃんをかすめそうになったが、ヌルリとそれていく。

 これはカルマちゃんが創った「やもリンEX」の効果だ。

 攻撃の一切を受けずにゴブリンの集団に突撃したカルマちゃんはブ~ンブ~ンと俺様を振り回して次から次へとゴブリンを細切れにしていく。

 一方的な殺戮。

 カルマちゃんはそれを楽しんでいるようだった。

 ――――怖い。


「さて、大体片付きましたか」

 坑道内はゴブリンたちの緑色の血で辺り一面が汚れてしまっている。

 カルマちゃん自身も返り血で汚れてしまっているが、

「さ~て、サンプル回収サンプル回収っと」

 と、気にしたそぶりを見せずにゴブリンの血や頭部、内臓などを容器の中に入れていく。

 こうして見るとカルマちゃんってマッドサイエンティスト感がすごい。

 カルマちゃん単体ならかわいいのになぁ~。

「ふ~んふ~んふふ~ん」

 鼻歌交じりでゴブリンの死体漁りをするカルマちゃん。

「こんなもんでいいかな」

「それ、腐ったりなんかしない」

「大丈夫ですよ。防腐処理はばっちりです。もし腐ったら私たちの知らない菌か力が働いたということになります」

「何それ恐い」

「ふふ~ん、研究者魂が刺激されます」

 この世界にゾンビとかいてもカルマちゃんなら怖がらずに研究しちゃうんだろうなぁ~。


「それじゃあこのまま巣を破壊しますか。ロッキーさんの話では自然発生系の魔物は穢れた土地から生まれるらしいですけど、そういう場合はコアがあったりするそうです。」

「確かそのコアを放っておくとドンドンデカくなって、周りを異界化させるそうじゃないか」

「そう、それがダンジョン」

 俺様の合いの手にカルマちゃんは楽しそうに叫ぶ。

 それはもう笑顔でこぶしを握って上に突き上げるぐらいだ。


 ぐしゃ!


「わぷっ、何ですかコレ」

 カルマちゃんが突き上げた拳が何かを叩きつぶした。

 そしてそれと同時に何かがカルマちゃんの上に降り注いできた。

 その正体とは――――待て次回。

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