第1話ー4
「ステルスですか?」
お鍋の中身を焦がしちゃって、無事だった部分を泣くなく食べているカルマちゃんに説明してあげた。
「そういえばそんなものもありました」
と、納得してくれた。
「では、次はステルスを外して挑戦ですね」
と、やる気を出してくれているカルマちゃん。
「そこでなんだけど、俺様を置いて行かないか」
「何でですか」
と、カルマちゃんは怒った様に叫んだ。
「ザックさんは私を見捨てるのですか。」
「見捨てたりしないよ。ただ、俺様のような厳つい武器とか持っていたらみんな怯えるだろう」
「さっきは文句も言わずに付いて来たじゃないですか」
「ソレはここが町中だとは思ってなかったからだ。幸いにも、ステルス機能のおかげで騒ぎにはならなかったが」
「だめです。ザックはいつも私と一緒じゃなければダメなんです。」
そう言ってくれるのは俺様大歓迎である。
「それだとどうしてもこの禍々しくてごっつい図体は困るだろう」
「どこがですか。格好いいじゃないですか」
「そうだとしてもね。普通に街中だと目立ちゃうから。これがアクセサリーとか目立たない姿ならば――――」
「できますよ」
「はい?」
「ですからアクセサリーにする事はできますよ」
「……それを早く言わんかい」
「だって、今の方がカッコイイんですもん。」
そこは俺様的には嬉しい話だ。だが、合理的に考えて武器を持ったまま町中を歩くのはどうかと思う。
カルマちゃんはたぶん中二病なんだ。かっこよさ重視でTPOを考えていない。
ここは俺様がちゃんとしなければ。
「それじゃあ、御飯も食べたし、チャレンジ2行きましょうか」
「その前に、俺様をアクセサリーにするのを忘れるなよ」
「分かってます」
チャリッン・チャリッン。
フヨン・フヨン。
チャリッン・チャリッン。
フヨン・フヨン。
俺様は今、カルマちゃんのお胸の谷間で揺れてます。
どっちが前か分からないけど、たぶん背なかのあたりにやわらかくて暖かい感触が当たっていらっしゃる。
「どうですか?ペンダントにしましたけど揺れませんか」
「大丈夫、揺れても平気さ」
「そうですか良かったです」
そんな会話をしてから、カルマちゃんは改めて外に飛び出す。
「さて、ステルスは――ああ、こうだ。切れました。これで皆さんにも私が見えるはずです」
フンス、と鼻息荒く気合を入れたカルマちゃんだったのだが、
「ど、どっどっ、どうしましょう。ザックさん。みんなが、周りの皆さんが私に注目してます」
それはそうだろう。
いきなり現れた女の子が元気にはしゃいでいるのだから。
「せめてステルスは人目のつかないところで切るべきだったな」
「それを先に言ってくださいよ」
「しかも今の君はペンダントと会話する不思議ちゃんだ」
そう言われて周りの視線の意味に気が付いたカルマちゃんは、
「戦術的撤退!」
そう叫んで公園の外に飛び出してしまった。
公園の外は一見のどかな町に見えたのだが。
「ところどころにガラの悪いのが居るな」
それも明らかに堂々とだ。
「うう~、やってしまいました失敗しました恥ずかしいです」
しかし俺様のマスターはそんなのちっとも気にせず街をぶらりぶらりと歩いている。
そしたら案の定。
「げへっへっへ。お嬢ちゃん困っている様だな。なんならオジサンが助けてあげようか」
そのガラの悪いのに絡まれてしまていた。
男は垢だらけ――かと思いきやフローランスな香りを漂わせて、ちぢれた髪も実はワックスでセットしているみたいだった。
いやだからと言って信用のおける人物である保証がない。
というよりも怪しさ爆発だ。
だって町中だというのに赤茶けた傷だらけの鎧を纏い、背中にはバトルアックスが背負われていた。
何が一番許せないかと言うと最後のバトルアックスが俺様と被っていて許せない~~~。
「オジサンはロッキーっていうものさ。これでも正義の冒険者をやっている」
な~~にが「正義の冒険者をやっている」だ。胡散臭いにもほどがあるだろうがこの短足。
と俺様が警戒心バリバリなのに対して、我が主・カルマちゃんはと言うと。
「わ~~。お話が通じてます。ロッキーさんですねよろしくお願いします」
と、目をキラキラさせながらロッキーにお辞儀をしていた。
「お~いっちょっと待ってよカルマちゃん。いきなりヒトを信用しすぎだろ」
「そうですか?ロッキーさんはいい人ぽいですけど」
「おや?今どこからともなく声が聞こえたような」
おめぇは引っ込んでろ。
「いいかい、カルマちゃん。ここは異世界なんだよ。いい人かもしれないけど――――」
そこに叫び声が響いた。
「大変だあああ、暴れ牛だあああああああ!」
「大変だぁああああ、暴れ牛が向かってくるぞおおおお。」
その叫び声に通りは途端にパニックとなった。
「わー、わー。」「きゃあああ、きゃあああ。」騒ぎ立て逃げ惑う人でごった返す。
逃げるにしても非常口の案内もないのだから皆がバラバラに走るのは分かっているが、何と無様な。
「わぁぁぁぁぁぁん、わぁぁぁぁぁぁん!」
逃げ惑う人の中に小さな女の子が置き去りにされているのが見えた。
「あっ」
と、俺様が言う間もなくカルマちゃんが女の子に駆け寄って行って立ち上がらせる。
「大丈夫。お母さんは?」
「――わかんない」
「とりあえずここを離れよう」
そう言った矢先だった。
逃げ惑う人波がぱっかりと左右に分かれたのは。
そしてできた道の向こうから、猛然と土ぼこりを上げて突進してくる黒いやつがいた。
暴れ牛だ。
奴は真っすぐにカルマちゃん達の方に突進してきていた。
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