ぶっちゃけギルドの受付っていらないのでは?

ちびまるフォイ

最効率のクエスト処理

ある日のこと、ギルドの窓口にはいつもの受付がなかった。

ギルドの床を掃除しているおじさんに尋ねてみる。


「あれ? 昨日までいたギルド受付の人は?」


「ああ、実は窓口を廃止したんですよ。だから受付の人もいないんです」


「廃止? どうして?」


「だって、みんなクエストは掲示板を見るでしょう?

 ぶっちゃけ何のためにいるのか説明できます?」


「そう言われれば……そうかも」


「まあ、これからはクエスト受注はセルフでやってくださいね」


「わかりました」


冒険者はいつものようにクエストが張り出される掲示板へと向かった。

けれど掲示板には何ひとつクエストが貼り付けられてない。

掲示板の下には箱が置かれ、たくさんのクエストの紙が入っている。


「……あ、そっか。クエストを掲示板に張る人がいなくなったのか」


冒険者は足元にかがんで箱にごちゃまぜに入っている紙を仕分け始めた。

異世界に来る前にやっていた年賀状の仕分けアルバイトを思い出す。


「このクエストは難しいからパス。こっちのクエストは……遠いな。

 こっちは急ぎじゃないっぽいし……えーっと、こっちは……うーーん」


箱に詰まったクエストの束を仕分けていると、後ろから別の冒険者がやってきた。


「あ、ちょっと!! 今仕分けてるんだから勝手にいじるなよ!」


「はぁ? クエストはお前だけのものじゃないだろう。

 俺もセルフで見てこいって言われたんだ。ほら邪魔だよ」


別の冒険者はおしのけるとせっかく整頓していた紙の順番をぐちゃぐちゃにしはじめた。


「ああもうサイアクだ! これじゃまたイチからやり直しじゃないか!!」


気がつけばすでに外は暗くなっていた。

今から自分にぴったりなクエストを探しはじめたら日付が変わってしまう。

冒険者は仕方なく今日は諦めることにした。


翌日、ふたたびギルドへ訪れるとクエストの依頼箱は2つに増えていた。


新規クエストが来るたびに箱に依頼が継ぎ足し継ぎ足しで行われ、

入り切らなくなったら2つ目の箱が用意されて置かれていた。


悪いことに、どっちが昨日チェックした箱なのかわからないうえ

昨日のぶんと今日のぶんが混ざってしまっている。


「またイチからやり直しか……」


冒険者はふたたび足元の箱へと屈んでクエストのチェックをはじめた。


「これは依頼日が早くて、これは難しくて、これは遠いからやめとこう……」


単純に考えても昨日よりも作業量は2倍になっている。

そこに昨日やってきた冒険者がずしずしと歩いてきた。


「ん? まーーた、クエストをちまちまチェックしてんのか」


「昨日はお前のせいで全部やり直しになったんだ! 今日は触らせないぞ!!」


「そうかよ。じゃあいつになったら俺はチェックしていいんだ?」


「僕の整理整頓が終わってからだ!」


「んなの待ってたら日が暮れちまうよ」


冒険者は優先度や緊急性、距離の遠さなども見ずにクエストの箱へと手を突っ込む。

適当に複数枚のクエストをわしづかんでギルドの外へと出ていった。


「ふん、バカな奴。考えなしにクエストを受けやがって。

 どうせ後で非効率的に動き回って泣きを見るだろうな」


吐き捨てながら仕分け作業を続けていった。

2箱をチェックし終わる頃にはすっかり暗くなっていた。


「ああ、もうこんな時間だ。今日はさすがに無理か……。

 明日ならきっとクエストを受けられるだろう」


冒険者は今日もクエストを受けずに家路へついた。

翌日にギルドへやってくると、仕分けた2箱とは別に10箱が置かれていた。


「うそだろ……こ、こんなに……!?」


でも10箱をチェックしすることで、同じ町でこなせるクエストをまとめたり

簡単なクエストをまとめて消化できたりと効率化できるのは間違いないだろう。


クエストを最効率でこなすためには仕分け作業をやるしかない。


「やってやる……! やってやるぞぉぉぉーー!!」


冒険者はギルドを封鎖して他の奴らに整理整頓を邪魔されないようにし、

10箱ものクエストボックスを仕分けまくった。


三日三晩におよぶ地獄のクエスト仕分け作業はついに終焉を迎えた。


「終わった……やっと……つ、疲れた……」


仕分け終わったことで、どのクエストをどの順番でこなせば

行ったり来たりが少ないか、どの順番でこなせば確実に達成できるかの計画が立てられた。


冒険者は最もベストな計画になるようにクエストを選んで抜き取った。

最初の村へと訪れると、近くの村人に事情を聞いた。


「こんにちは、僕は冒険者です。この近くに畑を荒らすトードが出たとクエストを受けて来ました。場所を案内してください」


村人は一瞬ぽかんとした表情になったが、なにか思い出したように手を叩いた。


「それならとっくの昔に倒してもらったよ。

 クエスト依頼出してから、あんまりにも対応が遅いんで

 近くを通りがかかった冒険者に頼んでサクッと倒してもらったのさ」


話を聞くと、かつてギルドの依頼をわしづかみで持っていった冒険者が倒したという。

冒険者は気を取り直して話を続けた。


「そうですか……。それじゃ別のクエストで、この村にゴブリンがいたと聞いて……」


「それもずっと前に倒してもらったよ。ついでだったからね」


「他のクエストにおつかいの依頼がーー」

「解決済みだよ」


「洞窟調査の依頼はーー」

「それも終わってるね」


冒険者が持ってきたクエストはすべて達成済みになっていた。

最高効率でクエストをまとめて処理するはずだったのに。


せっかくギルドから村まで歩いてきたが、何のクエストも達成できずに戻ることになる。


村人はとっくのとうに終わってるクエストばかり持ってきた冒険者へ言った。



「あんた、こんな簡単なクエストをやるのに

 なんでこんなに時間かかってるんだい?」

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