利益探偵と不信探偵

春野仙

プロローグ

 病院地下の薄暗い部屋に横たわる二つの物。


 それは間違いなく『物』だった。


 掛けられたシーツを取ることも無く、ただ二人の兄弟がそれを見つめていた。


「遺産は俺達が山分けでいいそうだ。俺達みたいな中高生にはあり得ない額だから、名目上はじいちゃんとばあちゃんに預かってもらうことになるが」


 利益を重視する人間にとってお金は極めて大事なものだ。


 無論、人の命には遠く及ばないが。


「お前はこの後、じいちゃん達と暮らせ。いつまでも死人に拘るなよ」


 お前は、という言葉に違和感を拾い、思わず聞き返す。


「兄さんはどうするんだ?」


 この問いに答えは無く、代わりに一枚の紙を渡された。


「もし、真実が知りたくなったらこの番号に掛けろ。ヒントくらいはもらえるだろうからな」


 さらに兄の冷たい声が部屋に響き渡る。


「お前は探偵に向いていない」


 そのハッキリとした言葉に息を飲んだ。


 自分の夢が、兄への憧れが否定された瞬間だった。


 兄は黙って出口へ向かう。


 最後に振り向くことなく言った言葉は今も鮮明に覚えている。


「時に真実は人を狂わす。有名な言葉だから覚えておくといい」


 それが、俺が最後に見た兄の姿となった。

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