第3話 レーナ・ラックノーツ
兄のローワンがレーナに持ってきた縁談相手は伯爵家の嫡子アゼスト・テンネル。
自分と同じ金色の髪に若葉色の優しい瞳のアゼストは王子様の様だと一目でレーナは好きになった。
何より彼は伯爵位継承を控えた未来の伯爵様。
──ライリーの相手にはない約束された爵位──
レーナの自尊心を満たすものそれはライリーより優遇してもらう事。
いつも公平だと言う兄がライリーの相手よりも優しくライリーの相手にはない爵位が約束されたアゼストをレーナの相手に選んだ。
兄は自分をライリーより優遇している。そう思うだけでレーナは満たされた。
アゼストは湖や砂浜にレーナを誘い、観劇や食事にレーナを連れて行ってくれた。
彼は物作りが好きで一緒に出かけた先で手にした草花や貝殻でレーナへのプレゼントを作ってくれたりもした。
いつもライリーと同じものを持たされていたレーナがアゼストが作る物に特別感を感じ、彼に夢中になるのにそれほど時間は必要なかった。
今日はアゼストと砂浜へ出掛け、綺麗な貝殻を拾っていた手元を眺めて次は何を作ってくれるのか楽しみだとレーナは微笑み、アゼストはレーナに若葉色の宝石が付いた銀細工のネックレスをプレゼントしてくれた。
レーナは嬉しさのあまりローワンの元へ駆け込んだ。
「お兄様!アゼスト様に素敵なものを作っていただいたのよ」
執務机で書類を封筒に入れながらローワンは穏やかな笑みで「良かったね」とレーナの頭を撫でる。満足気にレーナは頬を緩ませた。
「お兄様、わたしアゼスト様と婚約したいわ」
「まあ、まてまて、そんなに急ぐ事はないよ」
「だってアゼスト様はわたしを優遇してくれるのよ。私だけのものをくださるの。お兄様の様に同じものじゃないのよ?」
兄の気の利かなさを責めるレーナにローワンは「婚約はもう少し様子を見てからだよ」と宥め、部屋へと返した。
・
・
・
レーナはライリーのネックレスを見て頬を膨らませていた。
ライリーのネックレスがとても大きくとても贅沢なものだったからだ。
「お姉様はズルイです!」
そんな大きな宝石をもらうなんて。
ライリーの縁談相手はクローバー侯爵家の次男、ジュリアン・クローバー。その彼がライリーに贈ったネックレスの宝石はジュリアンの瞳の色だ。
髪の色、瞳の色。レーナの相手アゼストと同じなのだからローワンは縁談相手も「公平」にしたのだと呆れたが、それでもレーナにはライリーの相手よりも優しく未来の伯爵様のアゼストを選んだのだと満足して、レーナはあまりライリーの縁談相手に興味を持って来なかったのだ。
しかし、ライリーの縁談が上手く行けばいくつものホテルやレストランを経営し、お金に不自由しない贅沢な生活が出来る。現に宝石もドレスもライリーは沢山贈られている。そこでレーナに嫉妬が芽生えた。
いくらアゼストが伯爵を継ぐとしても領地経営をする貴族なら贅沢は出来ない。そこからから得る収入で生活をするのだから。領地を持ち、爵位のある貴族は「品位」を求められる。品位を無くした貴族がその権力を勘違いした時、民衆は容赦なく牙を剥く。
ライリーの相手ジュリアンは貴族ではあるが爵位はない。しかし莫大な資産を持ちその伴侶は贅沢が出来る。
その証拠と言わんばかりの大きな若葉色の宝石は色取り取りの宝石が囲み贅沢を極めている。
繊細な銀細工に取り付けられた小さな若葉色の宝石が一つだけのレーナのネックレスが見窄らしくなった。
正直言ってジュリアンの贈ったネックレスの方がレーナの好みだ。
「アゼスト様は伯爵になる方。その様な方がレーナを思って作られたネックレスの方がどんな宝石よりも輝いて見えるわ」
宝石は大きな方が輝くものだ。
アゼストから贈られるアクセサリーは全て手作り。センスは悪くないが宝石が少ない。
観劇も食事にも連れて行ってくれるが本当に「たまに」だ。ほとんどの行き先は湖や砂浜。
いくらレーナでも気付く。連れて行ってくれる場所は「お金」がかからない所だ。
確かにアゼストは顔合わせの時に「テンネル家は領民あってこその家だ贅沢はさせられないだろう」とレーナに詫びていた。
だからこそ手作りのプレゼントをしてくれる領民思いの優しい人なのだとアゼストに一目惚れしたレーナには問題のない事だったが⋯⋯ジュリアンがライリーに贈るプレゼントの豪華さと贅沢さを「羨ましい」とも思っていた。
一度羨ましいと思い始めると人が手にしているものが良く見えるもの。自分の手にある一つのネックレスを質素だと思い始めればなんと見窄らしく見えるのか。ジュリアンは構えないお詫びだと贈ったと言うがそんな贅沢なものが貰えるのなら構われなくても良い。寧ろ自由にさせてもらえ、贅沢が出来る。
そのネックレスがレーナは無性に羨ましくて仕方がなくなってきた。
ライリーはお詫びで「贅沢」が出来る。レーナは「愛情」と言う名の我慢を押し付けられる。
アゼストの愛情より贅沢が出来るライリーが羨ましい。
自分の方がジュリアンに相応しい。レーナの心はライリーからジュリアンをどうしたら奪えるのかと忙しく動き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます