第2話 ライリー・ラックノーツ
兄のローワンがライリーに持ってきた縁談相手は侯爵家の次男。ジュリアン・クローバー。
自分と同じ金色の髪に若葉色の瞳。外見が優れている上にジュリアンは侯爵家。一目でライリーは好きになった。
ジュリアンはいくつものホテルやレストランを展開している大商会の頭取で、侯爵位を継げなくともクローバー侯爵家の系譜だ。
──レーナの相手よりもお金持ち──
ライリーの自尊心を満たすものそれはレーナより優れたものを手に入れる事。
いつも公平だと同じものを渡してくる兄がレーナの相手よりも身分が高くレーナの相手よりもお金持ちをライリーの相手に選んだ。
兄は自分をレーナより思ってくれている。そう思うだけでライリーは満たされた。
ジュリアンは事ある毎にライリーへプレゼントを届けてくれた。
花に、リボン、アクセサリー。
いつもレーナと同じものを持たされていたライリーがジュリアンに夢中になるのにそれほど時間は必要なかった。
今日もジュリアンからのプレゼントが届いた。
ライリーの好きな色で作られた夜会用のドレス。
カードにはクローバー侯爵家で開かれる夜会でのエスコートの誘いがされていた。
それを読んだライリーは嬉しさのあまりローワンの元へカードを見せに急いだ。
「お兄様!ジュリアン様から夜会のお誘いをいただいたわ」
執務机で書き物をしていたローワンはいつもの穏やかな笑みで「良かったね」とライリーの頭を撫でる。いつまでも子供扱いするローワンにライリーはムッとして拗ねるがその表情は嬉しさを滲ませている。
「もうっ!わたくし子供じゃありませんのよ。それよりお兄様、わたくしジュリアン様と婚約したいわ」
「まあ、まてまて、そんなに急ぐ事はないよ」
「だってジュリアン様はわたくしの欲しいものをくださるの。お兄様の様にレーナと同じものじゃないのよ?」
兄の気の利かなさを責めるライリーにローワンは「婚約はもう少し様子を見てからだよ」と宥め、部屋へと返した。
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ライリーの気分は最悪だった。
それもこれも目の前でレーナがぷんぷんと頬を膨らませ駄々をこねているからだ。
「レーナ、何かしら?」
事の発端はジュリアンから贈られたネックレス。ジュリアンの瞳と同じ若葉色の宝石が付いているのだが、同じ若葉色の宝石が付いたネックレスをレーナもプレゼントされていた。
レーナの縁談相手はテンネル伯爵家の嫡子アゼスト・テンネル。兄と同じ伯爵家の跡取りだ。
そのアゼストがレーナに贈ったネックレスの宝石もアゼストの瞳の色だ。
髪の色、瞳の色。ライリーの相手ジュリアンと同じなのだからローワンは縁談相手にも「公平」を求めたのかと呆れるが、それでもライリーにはレーナの相手よりも身分が高くお金持ちのジュリアンを選んだのだと満足して、ライリーはあまりレーナの縁談相手に興味を持って来なかったのだ。
「お姉様はズルイです!」
そう言ってレーナは頬を膨らませる。
縁談がうまく行けばレーナは伯爵夫人だというのに何がズルいのか⋯⋯。そこでライリーに嫉妬が芽生えた。
いくらジュリアンが侯爵家の出でもクローバー侯爵を継ぐ事はない。
商会の頭取ではあっても「ただの貴族」なのだ。
レーナの相手アゼストは侯爵よりは低いが伯爵位を継ぐ。そしてその伴侶は伯爵夫人となる。
レーナがズルいと妬むライリーのネックレスは大きな若葉色の宝石を色取り取りの宝石が囲んだ大きなもの。レーナのネックレスは繊細な銀細工に取り付けられた小さな若葉色の宝石が一つのもの。
正直言ってアゼストの贈ったネックレスの方がライリーの好みだ。
レーナはライリーのネックレスの方が宝石が多く、大きいからズルいと言う。
「ジュリアン様は侯爵家の方でお金持ちなのはズルいです!大きくて沢山宝石がついているのはズルいです!」
それを言うならライリーから見ればルーナの方がズルい。
ジュリアンは贈り物をしてはくれるが仕事が忙しく殆どが手紙のやり取りだ。
観劇に行きたい、食事に行きたいと言っても時間が合わない。その都度お詫びだとプレゼントが届く。
確かにジュリアンは顔合わせの時に「自分は仕事が多く忙しい。寂しい思いをさせてしまうだろう」とライリーに詫びていた。
忙しいからこそ贈り物も手紙も頻繁なのだとジュリアンに一目惚れしたライリーには問題のない事だったが。
ただ、アゼストとレーナが観劇に出かけたり食事に行ったりとしているのを「羨ましい」とも思っていた。
一度羨ましいと思い始めると人が手にしているものが良く見えるものだ。レーナが手にしている一つのネックレス。自分は「お詫び」だと贈られたが、アゼストはレーナに似合うと思って贈ったのだろうそのネックレスがライリーは無性に羨ましくて仕方がなくなってきた。
ライリーは「お詫び」でレーナは「愛情」。
卑屈な考えが湧き、アゼストの愛情をどうしたら手に入れられるかライリーの心は荒み始めた。
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