第38話 技術革新(その2)

 火山の噴火災害で助け出されたドワーフ族が、俺の拠点としている岩場の砦付近で住み始めた。

 彼等の参加は石器時代から鉄器時代へと技術の進歩と向上があった。

 人が増えると諸問題が発生する。


 ドワーフ族の里では金と鉄鉱石が産出される。

 最初のうちは俺達がドワーフ族の里に行くためにある程度道路が整備されていたが、鉱物搬送のために荷馬車が行きかうようになっていった。

 最初の道路では荷馬車を行き違いさせて走れるほど道幅も充分で無く、路面も一部は石畳で整備されているとはいえ、されていない部分も多いので雨が降ると泥沼のような状態になってしまう。

 それでも、荷馬車が行きかううちに段々と道路が改善されていった。


 これはドワーフ族の鍛冶師達によるところが大きい。

 彼等は鍛冶師であると共に優秀な山師である。

 足りなくなったドワーフ族の里から産出される鉱物を自らの手で掘り出しに行くために荷馬車に同乗した際に道路を改善していったのだ。


 ドワーフ族の里の生き残りは少ない、荷馬車が行きかい経済が活性化してドワーフ族にも恩恵のおこぼれれを頂戴するようになると、ドワーフ族の村長さんが砦からドワーフ族の里までは道路を造る事を本格的に認めてくれたのもある。

 それで土魔法が使えるドワーフ族がドワーフ族の里に金や鉄鉱石の原石を堀に行くときの往復の度に道路を改善修理してくれたのだ。


 将来の事を考えると道路の改善は必要なことだ。

孫氏の兵法にも

「兵は拙速を聞く。」

という、いかに素早く部隊運用ができるかということだ。

 拙速の為にも道路の改善が必要だ。


 戦争の時、道路の状態が改善されれば、相手にとっても同様に有利だと言う人もいるが地の利を得ているのが俺達の方だ。

 砦からドワーフ族の里まで何度か金や鉱物を運ぶため馬車を走らせた。・・・道路はかなり改善されてきたが、馬車がすぐ壊れた。


 最初は結界魔法が使える真達がいたから荷馬車を浮かせて何とかなったが、実際に結界魔法が使えない人が馭者ぎょしゃになって荷馬車を走らせたら大変だった。

 馬車の車輪が真円でなくて、車輪自体の直径がそろっていない、軸も木製で真円で無く、俺達がドワーフ族の里から戻る時に乗り心地を考えて、ドワーフ族の鍛冶職人に一応板バネやバネを使った緩衝装置(ショックアブソーバー)を教えて造ってもらっていたが、それでも肝心の車輪や木の軸の関係で乗り心地や操作性も悪くて壊れやすいのだ。


 真円についてはコンパスを利用して、円の作り方を教えた。

 馬車の車輪は木製でエルフ族が作っている⁉

 彼等にも度量制度・・・長さや重さなど・・・う~んエルフ族には教えていなかった!

 ドワーフ族の鍛冶職人が作ってくれたメートル基準器が役に立った。


 馬車の車輪を木魔法が得意なエルフ族に造らせている時にふと思った。

 亜人のエルフ族やドワーフ族だけに物造りが独占されるわけにはいかないと思うのだ、この砦でも多数を占める人類も技術の担い手になってもらわなければいけない、そうだ丸いものを作り出すと言えば旋盤だ!


 それで俺の知る旋盤の技術等について教えることにした。

 問題は旋盤を動かす動力源だ。

 動力源としては川の水を使う、蒸気機関も考えたが水車が手っ取り早い、ただ水スライムと言う問題があるのだが。

 水車や旋盤を作ると聞いてザルーダの爺さんや重傷だったドワーフ族の里の村長や収入役の奥さんが話を聞いて俄然やる気を出した。


 ザルーダの爺さんが俺の図面に描かれた水車の模型を造ってみた。

 流石はエルフ族、木魔法で瞬く間に造ったが、1本の木で造ったので回らない。

 単なる置物か!こんなもの造る方が難しいだろう。


 この水車は軸と軸受けに分割すれば動かすことができる。

 それで砦近くにある大河と呼べるほどの水量のあるに川に出来上がった水車の模型を設置して見た。

 ゴトゴトと音をたててまわり始めた。

 御陰で動力が手にはいった。


 本格的な水車を設置する時見物人が増えた。

 今度は旋盤だ。

 この旋盤は基本的な構造で、削る木の両端を軸受けに挿して、片方の軸受けを水車の動力で回す。

 回っている木に刃物を当てると見事に丸い棒が出来上がっていく。


 見物人がどよめいた。

 知識も石器時代程度なので驚くのは無理もない。

 水車の水を使って水路を作れば、村の田畑の水不足の解消にもなる。・・・問題はこの川に棲んでいる水スライムをどうするかだ。

 今回は水車は動力としての利用だけだ。

 それでも石臼で物を磨り潰すたり、脱穀作業の動力源にもなるのだ。

 もっと発展させれば水力発電も夢ではないのだ。・・・俺が少年工科学校に受験すると聞いて勉強のためにと鹿児島の大学教授の叔父さんが送ってくれた電験の教科書や、高校の物理の教科書を俺と真の二人で穴の開くまで読んでいる。


 出来上がった木製用の旋盤によって馬車の軸が真円になり、車輪の直径も揃えて真円にして、さらに緩衝装置は反射炉でできた金属から板バネが造られこれらが馬車や荷馬車に付けられた。

 おかげで馬車の乗り心地や操作性が格段に良くなった。

 またそのころには、蛇のようにのたうち回り曲がりくねった道路が直線道路になり路面も良くなっているので馬で7日以上かかっていたのが、ほぼ半分の日数で行けるようになっていった。


 いくら石畳の道路も重い鉱物を積んだ荷馬車が行きかうとわだちが掘られてしまい、短期間の間でも何度も道路の修復をおこなわなければいけない。・・・う~ん無駄な労力だ!そうだレールを引こう‼

 木製レールも直ぐ壊れてしまうが、まだ元居た世界の鉄製のレールまで造る技術は無い。

 鉄は反射炉を使っていくらでも出来るようになっているのだが・・・。


 それに重い物を乗せると折角丸く出来た木製の軸や車輪が壊れてしまった。

 金属製の軸や車輪になるのは時間の問題だが・・・。


 あまり慌てることは無い。


 荷馬車が木製のレールを走るようになり、砦とドワーフ族の里の間の鉱物資源の搬送が活発になって御陰で簡単な宿場町が出来上がっていった。・・・人口が少しだけだが増えた。人頭税の関係で浮浪者のような人間属の少年達とドワーフの国に逃げ出していたドワーフ族の里の元住人達がうわさを聞きつけて集まって来たのだ。


 またドワーフの国から戻ってきたドワーフ族の里の元住人に交じって、浮浪者のような家族が3組、15名程の男女のドワーフ族が少し離れてついて来ていた。

 ドワーフ族の里の元住人達ともあまりどころか全く話さない。

 何方かというとドワーフ族の里の元住人達はついて来た浮浪者のようなドワーフ族の家族を迷惑に思っているようだ。


 このままでは、らちが明かない、浮浪者のようなドワーフ族の家族に話を聞いてみる。

 彼等は陶芸家集団だった。

 特に武器造りしか興味の無い鍛冶職人集団のドワーフ族の中にあって、同族とはいえ土魔法を使って陶芸品を造り出す陶芸家集団をこころよく思っていなかった。


 ドワーフの国内において彼等は不当な差別待遇を受けていたので、希望を持って我が女勇者が建国している夢の国に着の身着のまま移住を決意したのだ。・・・う~ん夢の国か⁉・・・それよりも陶器を造ることが出来るならこれをこの国の特産にしよう!

 この世界ではエルフ族の木の食器類かドワーフ族の銀の食器類しか見かけなかった。・・・どうしても陶器は壊れやすいからだ。

 陶芸家集団を迎えいれた。・・・う~ん技術はまだ縄文式土器だな!轆轤ろくろや登り窯の技術を教えていくか‼

 旋盤の技術を伝えたのだ、轆轤は同様に教えやすいはずだ。


 浮浪者のような少年達や陶芸家集団等、砦の住民が増えたせいで、砦周りの小高い丘周辺森林地帯の樹木が切り払われて、その樹木で住民の家屋が建てられていった。

 樹木が切り払われた跡は、人口が増え食糧事情が悪化してきたために樹木を植林する代わりに田畑が造られていった。


 住民が増えたことで最も大きな課題は飲料水だ。

 今のところ砦近くの水スライムなどの住んでいない綺麗な湖の水や水魔法で生活用水は何とか確保されている。

 砦から離れて樹木を切り倒して開墾した田畑の水が充分に確保できていないのだ。

 雨水を溜めて利用しているのだが、先に水車を設置した大河はあるが、その川には水スライムが大量に住んでいる。

 今のところ水車は動力源としてのみ使われているが、水スライムこいつらが水利を邪魔しているのだ。


 水スライムの天敵は古代魚である。

 古代魚は以前俺達が召喚されたアマエリヤ城の隠し通路か出て、エルフ族の隠れ里に向かう途中、小川まで来た時に古代魚に襲われたことがある。

 その古代魚を捕まえてここに持ってくることにした。


 魔法の袋に入れて運ぼうと考えたが、生き物は魔法の袋には入らないから、荷馬車の荷台に木製のプールを作り、古代魚が逃げ出さないように金網で蓋をつくった。

 かなりの重量になるので馬は2頭立てにしたが・・・。

 これでは樹木を切り出し重さに耐える石畳の道路を造りながら行かなければいけない、俺達の住むカイル地方を越えてアマエリヤ帝国の帝都付近まで・・・こ、これはアマエリヤ帝国に喧嘩を売りに行くようなものだ。

 

 古代魚を連れてくるのはとても無理だ!

 それでも田畑に撒く水はそんなに待っているわけには行かないので、近くの大河から目的の開墾された田畑まで、水路を作り近場のスライムが住む川から水車を利用して灌漑用水を流してみた。


「案ずるよりは産むがやすし」


 水車によって汲み上げられた水が、用水を伝って田畑に流れると水スライムは乾いた田畑で干し上がるように亡くなって土の栄養分になった。

 ただ残った麻酔針が厄介だった。

 この麻酔針に下手に刺さると昏倒して半日程眠ってしまうと言う問題はあるが、命に別状はない。

 それに麻酔針も耕して少しでも折れると麻酔薬が流れ出てそれが土の栄養に変わっていった。


 道路や馬車の利便性を上げている間に砦の防衛能力も上げる。

 あれもこれもやるのは良くないが砦の防衛は喫緊の課題だ。

 水車の御陰で田畑の水問題が解消された。

 今度は川が近い事もあるので、砦の周りにほりを掘ってスライムのウジャウジャいる川の水を流し込んで天然の防衛施設にする。


 流石!魔法が使える世界は仕事が速い・・・少年盗賊団等人類には魔法を使う為の器官を持つ者が極端に少ないので、ドワーフ族だけでなくエルフ族の巫女さんや巫女見習にも協力をお願いした。・・・内堀どころか岩場の砦から人口が増えて、砦の周りに住む人の安全の為に外堀まで掘られた。


 水スライムは乾燥すれば干からびてしまう。

 堀に流れ込んだ水の一部を簀の子にかけると水スライムが麻酔針を残して干からびる。

 ひょんなことから麻酔針が大量に手に入るようになった。

 しかし麻酔針は危険だ!悪用されないために俺がいくらでも入る魔法の袋に入れて管理する。


 水スライムがいなくなったとはいえ、硬水で他に何が棲んでいるか分からないのでドワーフ族の里の出入り口付近で使った器械を作り蒸気を集めて安全な水を作り出した。

 これで砦の生活用水が大量に手に入った。


 生活の潤いを持たせるために砦の正面には安全な浅い池と噴水を造り、裏側には温水プールも造った。

 この世界の人は川や海で遊んだ事がない、水に親しむためにも遊べる場所を造ったのだ。

 温水プールは軍事訓練にも役立った。・・・目の保養にも⁉


 防衛の為に内堀を掘った土や外堀を掘った土で城壁をつくった。

 その内堀や外堀、城壁のせいで外観は人口はそれ程でもないが砦と言うよりも城塞都市になってきた。


 人が増えたのは良いが服装が石器時代の住人だ!

 獣の皮を女性は貫頭衣の様に着て、男性は腰に巻きつけている。・・・う~ん!これは見苦しい。


 俺が

「服装もどうにかしなければ⁉」

つぶやいたところで、ザルーダの爺さんが

きこりのアンドレの住むカイナ村に行け。」

と言う、なんでもアンドレの住む村はこの世界では珍しい機織りを特産としている。

 これでアンドレの住むカイナ村に行く事になったのだった。

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