第37話 技術革新(その1)

 ドワーフ族の里から大規模な地震災害から救い出したドワーフ族は34名と少なかったが、彼等が砦に加わった御陰で、石器時代の文明から青銅器時代を飛び越えて一気に鉄器時代へと技術革新が行われた。

 移住してきた彼等のために鍛冶工房が建てられ、鍛冶村が出来た。


 鉄器時代の到来で鍛冶工房が建てられたと言っても、俺達が希望していた生活必需品の鍋や釜がすぐ作られたわけではない⁉

 彼等はどうしても武器製造が鍛冶職人の最高の栄誉であり誇りと考えているために鍋や釜などの生活必需品の作製や、鍬や鋤などの鉄製の農機具の作製を頼んでも首を縦に振らないのだ。・・・不思議なことだが山師であるドワーフ族は自らが鍛えた鶴嘴を手にして鉱物を掘り出しているが、鶴嘴は農機具の鋤や鍬とは別物だという。


 彼等は口々に

「鍋や釜等の生活必需品の製作は鍛冶見習いがやる事であり、誇り高い鍛冶職人は武器しか作らない!

 土まみれになる農機具など問題にならない‼

 今までの石製の農機具ではどうして駄目なのか?」

と言うのだ。


 しょうがないね将来の文明開化の布石の荒療治だ!

 蒸気機関等の産業革命をする為にも、武器しか作れない鍛冶職人はいらない‼

 俺はそんなことを口にする鍛冶職人達の目の前に腰の愛剣を抜き出した。


 彼等の目が爛々と輝く、この時代の製鉄技術が劣っている事を目の当たりにしたのだ。

 日本刀は不純物のほとんどない玉鋼と言われる鉄の塊を何度も何度も鍛造を繰り返して強さと鋭利な輝きを見せる。


 一方この世界の剣は西洋刀と同じで鋭利だが武骨な鍛造刀だ。

 この差に気付くほどの技量がドワーフ族の鍛冶職人にはある。

 鍛冶職人としてのその誇りが、俺や真が持つ日本刀の優美な輝きに自信が打ち砕かれた瞬間である。


 それに彼等は板バネやバネの仕組みを理解しただけで緩衝装置(ショックアブソーバー)を造り上げるほどの発明家で努力家なのだ。・・・彼等に気の毒な手や足の無い子供達を見せてバネ仕掛けの義手や義足を造ってもらうことにした。発明を要することはどうやら率先してやってくれるらしい。

 ドワーフ族の鍛冶職人は俺の聞きかじりの鍛冶方法を聞き、お互いに試行錯誤をしながら基本からやり直すことになった。


 鍋や釜、鋤や鍬が出来上がってきたが大きさがバラバラだ。

 それにここで諸問題が判明した!


 まず製鉄技術が貧弱だ。

 ドワーフ族は土魔法を使えるので成分抽出魔法で鉄鉱石から鉄を抽出して鍛造している為に製品の大きさや重さが統一されず、均一な規格品が無い。・・・度量制度が無かったのも問題だ。

 規格品を統一するのが一番簡単なのが鋳物だが、この世界は土魔法を使うドワーフ族が鍛冶仕事を独占したために鉄製品が一般的になった。

 これによってあまり高温でなくても鋳物を作り出せる青銅器時代が無くなってしまった。

 いきなり鉄器時代が到来して青銅器時代の鋳物を作り出す技術が陽の目を見ることが無くなってしまった。

 これは大問題だ。


 さらに言えば、この世界の技術についてだが、魔法で今までは何とかしていた、今まではこれで何とでもなったのが技術の改良や発展の妨げになった。

 俺達の住む世界とこの世界との技術とのかかわりであるが、俺達の前に召喚された勇者は武田信虎だ。

 彼はおよそ500年程前、戦国時代の1521年に勇者召喚の儀式で、この世界に呼び出されている。

 戦国時代を終焉に導いた新兵器、鉄砲伝来がその後の1542年で、勇者召喚後の約20年後に種子島に伝来している。

 彼が持ってきた科学技術の知識は鉄砲伝来以前のものだ。


 話をもどすが、やはり問題は鋳物だ。

 武田信虎自身の刀・・・今は真の腰にあるが・・・も鍛造品だ。

 鋳物を使った規格の統一の例としては俺達の元居た世界では和同開珎などの貨幣が鋳物で造られて出土していた例がある。

 この世界では、貨幣経済といってもアマエリヤ帝国発行の金貨しかないが、これも鋳物ではなく魔法で固めたもので大きさや品質に統一性を欠く。


 アマエリヤ帝国発行の金貨があるにはあるが、統一性を欠き、発行数が極端に少なく、偽金貨や不純物が多く金の含有量が少ない悪貨が横行している為、金貨の価値が下落している。・・・う~ん『悪貨は良貨を駆逐す』というグレシャムの法則を地でいっている。

 それによって経済は物々交換が主で、金や銀、鉄などの塊が硬貨の代わりになっているのが現状である。・・・そうは言っても度量制度が確立されていないので鉱物の塊がこぶし大とか言っているが大きさが均一ではない!

 経済を握るのは世上の安定にもつながる、災害のあったドワーフ族の里から金が掘り出されてくるので、砦発行の金貨や銀貨、銅貨を造ることにした。


 災害に遭ったドワーフ族は気の毒だが、ドワーフ族の里で今回の火山活動の結果地底深くに眠っていた質の良い金が地上に押し上げられてきたことは僥倖ぎょうこうであった。

 それにドワーフ族は良き山師でもあったことから、砦の近くで有力な銀山や鉄鉱石の取れる山を探し出してくれた。

 金山の他には銀山も手に入れたことになる。

 これで資金が潤沢になった。


 孫氏の兵法にも

爵禄しゃくろく百金をしみて、・・・」

とある。軍資金の重要性を説いているのだ。


 金山や銀山を手に入れたことから砦発行の金貨や銀貨等の作製だ、金貨や銀貨等の見本は俺や真が持っていた財布の中の小銭だ。

 ドワーフ族の鍛冶職人達だ真剣な顔で小銭を見て金貨を造っていた。


 しかし大きさや重さに統一性が無いのだ。

 はかり自体が無いので、出来上がった金貨の重さがバラバラになってしまった。

 これはドワーフ族の里で水を作る器機をつくる時にメートル法を伝えた時と同じ衝撃だ。

 基準となる重さが無いのも驚きだった。

 俺達が持ち込んだ小銭で1円玉の重さは確か丁度1グラムだ、これを基準にしよう!

 天秤を作って重さの調整をする。


 それでも規格の統一というには鍛造よりも鋳造の方が優れている。

 問題は鋳造技術だ。

 いくら火魔法が得意なドワーフ族の鍛冶職人でも魔法で金属をドロドロに溶かすほどの高温は出せない、それにいくら土魔法の成分分析で金属の塊をつくっても1日で人の拳程の塊ができれば良い方なのだ。


 ドワーフ族の魔法では効率が悪い、たたら製鉄も考えたが俺の祖父が住む鹿児島には世界遺産にもなった反射炉の址が集成館にある。

 うろ覚えの知識でドワーフ族やエルフ族と一緒になって反射炉も作ってみた。

 二度程失敗した。

 三度目の正直で成功した。


 これに伴って鍛造の技術も格段に進歩した。

 硬貨だけではない、念願だった俺の爺さんの猟銃の弾も無尽蔵に造ることが出来るようになった。

 

 反射炉によって不純物を含まない鉱物が出来上がった。

 これによって金属製品が大量に造り出すことが出来るようになったことに伴って、ドワーフ族の里の鉱山から無尽蔵の金や鉄鉱石が掘り出され砦へと送り出されるようになった。

 金や鉄鉱石の原石が荷馬車に積み込まれて次々とドワーフ族の里から砦の周りに造った鍛冶村に送られてくる。


 金や鉱物が大量に城塞都市に山積みされた。

 彼等は城塞都市内にある鍛冶村、工業地帯に鹿児島の世界遺産で覚えていた反射炉が建てられたことから、色々な金属製品を造り始めた。

 鉄製の片刃や両刃の剣、盾そして金属製の槍の穂先や弓矢の鏃が造られた。

 それに裁縫用の針なども造られていった。・・・ドワーフ族は鍛冶師として優秀で前世の俺達が持ち込んだ裁縫用の針を見て職人魂に火を付けられた。凄いものが沢山できた。


 金属製品は、この砦の最初の住人である少年盗賊団にも恩恵が与えられた。

 彼等は少年盗賊団18名は両親から棄てられた際に復讐を恐れて、手足を折ったり切り飛ばして捨てた。

 欠損したその子達の手足には金属のバネの力を利用した義手や義足が出来上がった。


 上手く走れなかった子供達が走れるようになり、物を握れなかった手が盾や弓を握っている。

 今までは出来なかったことが出来るようになったのだ、きつい軍事訓練も笑顔でこなしている。

 それを何処で聞きつけたか、手足が折れたり欠損した浮浪者のような少年が半年ほどの間に百人程も集まってきていた。


 新たにきた少年兵は男爵家の双子のドーンとソドムが別メニューで鍛えている。

 それに軍制の整備だ元アマエリヤ帝国第一騎士団長のソルジャーのおっさんがいるのでこの当時としては最高の部隊に仕上がっている。


 ただ部隊の主力が、義手義足の少年兵達なので体力に難がある。

 軍事力の強化と骨の折れた少年兵の治療にも時間と手間がかかったのだ。

 骨折箇所を放っておいたので、手足の長さが違ったり仮関節が出来たりしているのでこれを気長に治療している。・・・この治療は本当に骨が折れる!


 集まって来た浮浪者の少年達を風呂に入れて、綺麗になった彼等を見ると肌の白さと服の汚さが際立って見える。

 それに彼等の布の面積、夏場に向かっているから良いようなものの今後の事を考えると服装は重要だ。・・・温水プールを風呂代わりにして素っ裸な子供達が泳いでいる水着も買わなければ、これは無いかも無ければ作るか⁉


 そう言えば樵のアンドレのカイナ村は機織りでも有名なところだ早速行って見るか。

 樵のアンドレを忘れたわけではない、秋から長い冬を超える間に自分の足場である城塞都市の発展とドワーフ族の里までの道路整備、荷車の性能向上や砦にいた少年盗賊団と同様に折れたり欠損した手足の代わりの義足や義手をつくる事の方に時間を取られていたのだ。

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