第28話 天使族
俺は樵のアンドレを探しにカナイ村に向かう途中襲ってきた盗賊団の少年達を捕縛した。
この盗賊団の首魁は16歳になるハンコク・ジュオンと言う名前の俺と同年代の女性だ。
彼女は伯爵家の長女として産まれ、13歳になった年に魔法暴走が起きて魔法を使う為の器官が両目に発現して失明した。
彼女には信頼する同年の女官シンディがいた。
彼女にはまた親友とも呼べる同年の双子の男の子がいる。
ドナルド男爵家のドーンとソドムの二人だ。
貴族令嬢の
彼女が魔法暴走を起こす少し前に帝都内で武道大会が行われ、二人は優勝者と準優勝者になった。
その大会の優勝者は近衛騎士団に準優勝者は第一騎士団の団員になれるという破格の副賞がついていたが、その権利は金を貰った双子の父親男爵によって辞退されて他人の手に渡った。
それを憐れみ二人に第一騎士団の騎士見習いにしようとしたのが、当時の第一騎士団長ソルジャーのおっさんだった。
それも騎士団長ソルジャーのおっさんが行方不明になったことからその話も流れた。・・・ソルジャーのおっさん達が行方不明となったのは時系列的には皇帝がいなくなる前で、宰相は少しづつ自分の足場を固めていったようだ。
俺が捕らえた少年盗賊団の頭目の元伯爵家令嬢ハンコク・ジュオンを尋問する。
盲しいた彼女は見えないので分からないかもしれないが、彼女を良く知るザルーダの爺さんとソルジャーのおっさんが同席する。
ザルーダの爺さんとソルジャーのおっさんがジュオンに声を掛けたが、盲たことから何もかも信じられないのか強情そうだ。
ジュオンの信頼する女官シンディの首には奴隷の首輪が付けられていた。
この奴隷の首輪にはアマエリヤ帝国の帝都に近づけないという呪いがかかっていると言うものだ。
帝都に入ればたちまちこの女官の首が絞まって亡くなるのだ。
俺はその奴隷の首輪を切り飛ばした。
ジュオンが膝を折った。・・・俺の配下になると言うのだ。
盲目の美少女と、それに献身的に尽くす美少女の女官か!・・・そう思った途端真の機嫌が悪くなった。
男爵家の双子が入ってきた。
盲目の美少女の後ろに膝をついた。
彼等には先にソルジャーのおっさんが会っている。
ソルジャーのおっさんが認めるほどの実力者だ、ソルジャーのおっさんの配下に加えて欲しいと思ったが、いまの彼等はジュオンの配下だ。
ジュオンが膝を折らない限りそれは無理だったが部屋に入るとあの誇り高いジュオンが俺に対して膝を折っていた。
これでソルジャーのおっさんの配下に加えられることになった。
この砦の中で見つけた双子の女の子を除いて他の少年窃盗団に否やは無かった。
問題はその双子の女の子だ。
双子の女の子の首には奴隷の首輪をつけられている性奴隷として売られそうになっているところをジュオン達が奴隷商を襲って助け出したのだ。
奴隷は山ほどいる、その中でも性奴隷に落とされる女の子は超絶美少女でないと買い手がつかない。
性奴隷の中には特殊な技能を持っている者がいる。
性奴隷だから性技に特化していれば良いが、一部には暗殺等の武技に特化してその 性奴隷を政敵に服従したように見せかけて送り、性奴隷の美少女と寝屋で同衾した途端、性奴隷が本当に天使になってあの世に連れて行くのだ。
それがこの双子だ。
奴隷商を倒したものの双子を檻から出すことが出来なかった・・・いや一度出したことがあった。
檻から出した途端凶暴に暴れ回り、近くにいた者を殺し回るのだ。・・・奴隷の首輪に呪いが掛けられていたのだ。シンディの呪いは帝都に近づくなと言うものだったが、二人には付近に寄ってくる者は奴隷商以外は殺害しろという恐ろしい呪いだ。
呪いを解除する方法は、呪いをかけた奴隷商が別の命令を与えるか、奴隷の首輪を切り落すしか方法が無い。
奴隷商を倒してしまっているので檻から出された二人は暴れ回った。
それでジュオンが結界魔法で二人を捕まえて、シンディと男爵家の双子が三人がかりで昏倒させて檻に放り込んだ。
この時盗賊団の多数の仲間が亡くなった。
檻に入ったまま双子が連れられてきた。
汚物まみれで腐臭の塊だ。
目だけがギラギラしてまるで野獣だ。
問題の奴隷の首輪は着けられたままで、その奴隷の首輪には付近にいる者を殺しまくれと呪いがかかっているのだ。
一人ずつ檻から出して奴隷の首輪を切り飛ばすことにした。
ジュオンが檻を開けて双子を呼ぶ、歯を剥き出して檻から飛び出してくる。
二人目も続いて檻から飛び出そうとするが、ソルジャーのおっさんが蓋をする。
ジュオンをシンディと男爵の双子が守る。
一瞬檻から飛び出した野獣が結界魔法に捕まって止まる、その隙を逃すことなく俺が後ろから盆の窪を手刀で叩いて気を失わせる。
シンディの時と同様に柱に体を括り付ける。
奴隷の首輪に線が見えた。
一気に切り落とす。
「ゴトッ」
と音がして奴隷の首輪が落ちた。
ぐったりしているが柱に括り付けたままにして、次また二人目を檻からだした。
二人目の野獣は前の野獣の失敗を見て檻から出る時、慎重に動いた。
ただソルジャーのおっさんを忘れていた。
ソルジャーのおっさんの杖が足元に飛んできて、二匹目の野獣が倒れた。
その隙に俺は軽く叩いて気絶させて、一匹目と同様に柱に縛り付けて奴隷の首輪を切ることにした。
俺が呼吸を整えて奴隷の首輪を見つめる、淡く線が見えた。
その線に向かって刀を振り落とした。
その瞬間二匹目の野獣が気が付いたのか首を動かした。
「ゴトッ」
と音がして奴隷の首輪が落ちたが、二匹目の野獣の首にも薄く一本の線が入った。
その線にプップッと血が噴き出した。・・・この失敗で俺は落ち込んだ。
奴隷の首輪を切り落したので二匹の野獣を解き放った。
戒めを解いた途端、二匹の野獣の背から白い翼が大きく生えた。
二匹の野獣は天使族だ!
哄笑しながら飛びあがった。
羽を使って天使族攻撃を仕掛けてきた。・・・俺達に向かって背中の翼から羽を飛ばしてくるのだ。羽に当たった奴は水スライムの催眠針と同じで鼾をかいて寝ている。
俺は向かって来る羽を打ち落とす。
真が俺の肩を使って飛びあがり、二匹の野獣の天使族の翼をへし折った。
二匹の野獣が翼を折られた痛みで転がりまわった。
ザルーダの爺さんが魔法の稽古だ!この二匹の野獣の治療をしてやれと言う。
俺が奴隷の首輪を切った時に失敗してを傷つけた女の子の傷口を水魔法で洗い流す。
それを見てザルーダの爺さんが驚いて尋ねた。何故傷口を洗うのかと?
傷口を洗浄して、細菌や雑菌を洗い流すと答えたが良く分からないようだ。
二匹の野獣はこれだけ風呂に入っていないので臭いうえに雑菌まみれだ。
首の傷口付近を軽く汚れを拭き取ったら、真白な肌が現れた。
その傷口に魔力を流す
「ア、ア~ン」
等と野獣が色っぽい声を上げる。
俺の付けた刀傷が白く輝きながら傷口を塞いでいく。
問題は背中の折れた翼の治療だ。
翼の骨折で酷そうだ。
まずは臭い、体中が垢と汚物の塊だ。
水魔法で体中の汚れを洗い流した。・・・垢と汚物で茶色くなっていた肌が真白になり、頭髪も輝くような銀髪が現れた。
流石は天使族で性奴隷にされる少女だ!手入れもされていなかった長い銀髪の間からわずかに覗く素顔でも美少女だとわかる。
それを見て真が
「後は任せて。」
と言って、別室に女性陣だけで土魔法で風呂を作り、水魔法でお湯を張って天使族の二人の体を洗う。
手入れもされず無闇に長かった髪も肩先あたりで切り揃えて、超絶美少女が現れた。
風呂からあがった天使族の二人の折れた羽に添え木をする。
二人の体を温めて休ませる。
その間に折れた羽に治癒魔法を施す。しかし苦悶に歪む超絶美少女の顔を見ると・・・俺自身が鬼畜に思えた。
翌日二人の翼は治っていた。
俺は二人の目の前に俺が倒した皇弟ソンダイク・サイクーンが持っていた奴隷の首輪を放り出した。
二人は震えあがった。・・・本当に俺って鬼畜だな。
二人は泣きながら許しを請うのだ・・・野獣と思ったが知性はあるようだ。
二人の天使族は16歳で、名前はアンソワーとアンドリューと言うそうだ。
翼が治ったことから添え木を翼から取ってあげる。
作業の途中で顔をまじまじと見たが性奴隷になるだけはある、超絶美少女だ。
思わず、下半身がムズムズする。・・・それを察したのか真に頭を叩かれて睨まれた。
仲間が増えたが、年少者ばかりで手足が折れている者や手足の欠損者が多い。
装備も整っていない。
この砦にいた者は天使族を含めて18名、俺達も含めて23名だ。
ザルーダの爺さんと相談してエルフ族の隠れ里から誰かこのアジトに派遣してもらうことにした。
何とこの砦にザルーガさん夫婦と3人の巫女さん、それに次代を担うエルフ族の若者男女合わせて総勢21名が派遣されてきた。
ザルーガさんはエルフ族の隠れ里の村長さんで、緑の魔石に仕える7人の巫女さんは村の助役や収入役などザルーガさんのブレーン的存在の人が派遣されたのだ。
人口200人程度のエルフの隠れ里から出せるギリギリのところだ。
とはいえ、この長い冬の御陰で子供のできにくいエルフ族の既婚の女性でお腹の大きい方が多い。・・・今年はベビーラッシュになりそうだ。ザルーガさんの奥さんも身重だ。アリアナに弟か妹が出来るのか⁉
隠れ里から送られてきたザルーガさんや巫女さん達の御陰で、この砦の総人口は44名になった。
隠れ里の方が大丈夫か心配になったが、隠れ里の緑の魔石は安定しており残りの巫女と巫女見習も何人か残しているので大丈夫だそうだ。
それにベビーラッシュになって人口が増えれば食糧難になる。
この砦付近を開墾して食糧事情の改善をしようとも思っているようだ。
この小高い丘の防衛強化と山頂に城を建てることにした。
その前に巫女さん達も来たことから山頂にエルフの隠れ里と同様に社を建てて、砦周辺を結界魔法で囲くことにした。
結界石は馬車に乗せていた地竜の緑色魔石を社に収めた。
結界魔法が使えるジュオンは、この社でエルフ族の三人の巫女さんの指導のもと修行をする事になった。
ジュオン付きの女官のシンディは魔法を使う為の器官が無い為に魔法を使えないが中々の努力家でこの世界では珍しく文章を読めたり書けたりする。
羊皮紙を使って戸籍造りとこの世界には無い地図作りをしてもらう事にした。
一応地図はある事はあるが軍事的に使われることが多くて、わざとか間違いも多くて距離の単位が曖昧で今までの俺の表現の馬で何日、人で何日と言うやつなので実際の距離とあっていない。
つまり度量性が確立していないので役に立たないそうだ。・・・手元にこの時代の地図が無いので何とも言えないが?
ザルーダの爺さん曰く、あっても何世紀も前に作られたものだそうだ。
手始めにアジトにすることにしたこの砦周辺の地図作りだ。
地図の度量制度の基準としたのは俺達の持ちこんだ物差しだ。
羊皮紙に地図を描き、一目で分かるように等高線による模型を造り上げることにした。
シンディの他に、この地図作りに積極的に参加したのが俺と真、ザルーダの爺さんと弟子のアリアナだ。
この世界最高の知識人で宮廷魔法使い筆頭のザルーダの爺さんでも地図作りは全く未知の世界だった。
地図作りのおかげで副産物が出た。
付近を探検して水スライム等の水生魔獣の住んでいない小川や温泉、それに石鹸代わりになるムクロジという樹木や漆の木などだ。
わりと寒い地方なので柿の木もあったが、動物も見向きもしないほどの渋柿だ。
干し柿にして見たがどうなることやら⁈
それにこの世界で初めてのダンジョンを見つけたのだ!
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