第27話 少年盗賊団の首領の呟き
私の名前はハンコク・ジュオン、伯爵家の長女として産まれた。
私は現在16歳だが13歳の年に私の体に魔法暴走が起きた。
魔法暴走が起きれば魔法を使う為の器官が発現する。
運の悪いことに私の両目がその器官になった。・・・私は視力を失った。エルフ族の隠れ里である儀式に参加すれば、魔法を使う為の器官が心臓に発現してエルフのように長命にもなれるそうだ。
私は魔法暴走によって結界魔法を手に入れることができたが、かわりに視力を失ってしまった。
目が見えない私は廃嫡された。
伯爵家の後釜を狙っている姉弟は私も含めて10人もいるのだ。
伯爵家とすれば目が見えなくなった私は邪魔でしかなくなったのだ。
湖のような青い目をしていたことから、水の伯爵令嬢と呼ばれ10歳で社交界にデビューしてから社交界の華と呼ばれていた。
その私の目が白濁して見えなくなったのだ。
盲て、社交界に出ることも無くなった私に父親である伯爵は価値を見いだせなくなり放逐したのだ。
私には物心がついたころから私付きになった女官がいる。
名前をシンディという。
同年代の少女で親友だ。
周りに人がいない時は私のお菓子を半分にする。
夜こっそりと二人で一つの布団で
私が盲てから1年もすると、そのシンディの首に奴隷の首輪が巻かれた。
奴隷の首輪には呪いが掛けられていた24時間以内にアマエリヤ帝国の帝都から出て行く事と、帝都に近づけないという二つの呪いだ。
奴隷の首輪の呪いは実行しないとシンディの首を絞めて殺し、更に絞まって首を切り飛ばしてしまう。
私は友人を殺すことはできないため、父親の命に従ってシンディを連れて行く当てもなく帝都を離れた。
私にはシンディと同じ親友とも呼べる同年の双子の男の子がいる。
伯爵家配下の男爵家の次男と三男、ドナルド男爵家のドーンとソドムの兄弟だ。
私が6歳ほどになると貴族令嬢の
父親から配下の同年代の息子達で武道の稽古仲間として紹介された。
毎日のように男爵家の双子と剣を振った。・・・二人は将来的には私直属の騎士になる事が約束されていた。
そのうちシンディも隠れて剣を振るようになり、共通の秘密が出来た。
四人が仲良くなり、二人の兄弟は私の武道の稽古仲間であり、そのうちにボディーガードになった。
私が魔法暴走を起こす少し前に武道大会が行われた。
その優勝者は近衛騎士団に準優勝者は第一騎士団の団員になれるという破格の副賞がついた。
二人は優勝者と準優勝者になった。
伯爵家に取り入った上級貴族から横槍が入り、二人は団員になれなかった。
本当は違う、上級貴族がドーンとソドムの父親に多額の金を握らせて団員になる事を辞退させたのだ。
男爵家の双子は父親の男爵が金を貰って騎士になる道を途絶えさせられた。
その金は男爵家の長男の猟官運動の資金にされ男爵としては破格の高位の地位に就けた。
それを知った当時の第一騎士団長ソルジャーが二人を騎士団見習いにしようとしたのだ。
私はちょうどその頃、魔法暴走を起こして盲てしまった。
それからしばらくしてアマエリヤ帝国の当時の皇帝アマエリヤ・ダイクーンが行方不明になってしまった。
それに伴って第一騎士団長のソルジャーまでもが行方不明になったのだ。
これによって二人の騎士団見習いの話も流れた。
私はシンディとともにアマエリヤ帝国の帝都から夜中密かに出て行く事になった。・・・私は盲ているので夜も昼も無いが、人々が眠りにつき寒い夜風に押されるようにして帝都を出た。
帝都の外では男爵家の双子が待っていた。
男爵は放逐された盲しいた伯爵令嬢を憐れんで双子のドーンとソドムを私のボデイガードにしたのだ。・・・そんな美談ではない、多額の賄賂を貰って双子の騎士への道を閉ざした。男爵とすればその事実を知ったあとに待つものは双子の怒りと復讐心だ。双子を伯爵令嬢もろとも亡き者にするつもりだった。
ただドーンとソドムの本心は私の友人として、私が魔力暴走を起こしてしまい廃嫡されたことを憐れんで帝都の外で待っていたのだ。
この時も伯爵家から男爵家の双子に多額の支度金が支払われた。・・・伯爵にとっては棄てた娘に対する謝罪の気持ちであった。しかし男爵家の双子にはその支度金は回らなかった。二人には僅かな旅費と小遣い、そして今まで使っていた訓練用の剣と槍を与えられただけだった。
伯爵家からの支度金は男爵の四男の末子が子爵の令嬢を娶り入り婿になるために支払われた。
男爵は美少年の末子を可愛がっており、一番のババ(大阪弁で糞の事)を踏んだのはこの二人だったのかもしれない。
男爵家の双子は馬に乗り、腰には使い慣れた訓練用の剣と手に槍を持っていた。
私もシンディも馬に乗ることはできたが、盲た今ではシンディの後ろに乗っている。
四人は放浪の旅に出た。
王城を離れて直ぐに男爵家が放った刺客に襲われた。
その数は20人にだった。
刺客に気付いた双子の警告の声に私は結界魔法を使った。
緑色に輝く結界が4人を包み、射られた弓矢がことごとく弾き返された。
男爵家の双子の
「やれる。」
という声を聞いて結界魔法を解く。
男爵家の双子は流石に同年代の武道大会とはいえ優勝者と準優勝者だ、二人で上手くお互いをかばい合いながら刺客を葬っていく。
私とシンディに襲いかかってくる刺客はシンディが相手をする。
私は弓矢が降り注ぐ間結界魔法を使っていた為、魔力切れを起こして腕をあげるのもしんどい。・・・魔力量の不足だ!何とかしなければ。
シンディが時間を稼いでいる間に男爵家の双子が戻って来て刺客を始末する。
刺客はお互いに連携して攻撃してこない。
私と男爵家の双子の首をあげた者に特別報奨金、多額なボーナスを貰えるのだ。
それで連携して攻撃しようとした時には後の祭りだ。
残った刺客はもうあとわずかだ。
最後の刺客は生きて捕らえた。
最後の刺客が放った言葉は
「お前たちの首には伯爵様と男爵によって多額の賞金がかかっているのだ。
どうせ、何時かは死ぬのだ。
それでもせいぜい頑張りな。」
と言って死んだ。
奴の胸には矢が刺さっていた。
新たな追手だ!急いで4人で逃げ出した。
逃げ回っている途中で出会ったのが、野菜泥棒をして農民につかまり殴られ、蹴られたりしていた彼等
「少年盗賊団」
だった。
彼等は農民の次男以下の子供達だ。
この世界には人頭税なるものがある。
長男長女以外の者が10歳以上になると地方領主が税を徴収する。・・・金があろうとなかろうと、長男長女以外の者が10歳以上になればその税が課せられるのだ。その税額も夫婦二人で支払っている税金よりも高額なのだ。
農民にとってはたまったものではない。
それで10歳になるまでわずかな間だが、子供達は牛馬のように働かされて棄てられる。・・・見目麗しい女の子は性奴隷として奴隷商に売られる。大多数の男の子や女の子はよほどのことがない限り買い手は無い、捨てられる子供が毎年何千人といるのだ。必然的に10歳ぐらいで食べ盛りの子供達は奴隷商も買わない。
ほんの一握りだが、村の農奴になれるものがいる。
この世界では徴兵制が採用される。村人10人につき1人だ。
世上の安定していない世界だけに徴兵される機会は多い。
高い傭兵を雇うよりも、何もないときは農奴として働かせ徴兵された時は兵士として差し出せばよい。
働き手を戦場に出して怪我でもされたら大変だ。・・・医療とは貴族と大富豪の為にあるのだ。王城のそばには、この世界の医療の神様を祭った病院(神殿)があるにはあるが、多額の寄付をその病院(神殿)にした者だけがその病院で治療を受けることが出来るのだ。
徴兵されたからと言って帝都防衛の近衛騎士団、貴族中心の第一騎士団の正騎士団員になれるわけではない。
よくて第二騎士団の兵士や輜重兵として徴兵されるのだ。
徴兵された兵は国に集められて訓練を受けるわけではない。
ろくな装備も渡されないで戦場それも攻撃部隊の先兵となって突撃する。・・・戦術が突撃しか無い様なので訓練など必要が無いのだ。
そんな兵士だ死んだ時は当然だが怪我をすれば治療もされずに山に棄てられる。
替わりはいくらでもいる。
10歳になって人頭税が払えずに棄てられる者の中でも体が大きく力が強い奴を選んで農奴にするのだ。
農奴以外で棄てられた子供達は食べる為には何でもする。
棄てた親に復讐することもある。
それが怖いために子供を捨てる前に手足を折ったり、切り取ったりする。
10歳で棄てれた子供達は生きていくのは大変だ、野菜泥棒をして農民に殴られている彼等はそんな境遇だ。
彼等を私達は助け出した。
私達には追手がかかる身ではあるが、私達も彼等も食べていかなければならない状況なのだ。
私やシンディそれに男爵家の双子で彼等を指揮した。
ルールを作った大量に野菜は盗まない。
農民が困っていたら手伝ってあげるなどだ。・・・農作業をこの時覚えた。
組織だった行動で捕まることも無くなった。
そのうち仲間が増えていった。
裏切りもあった。
私や男爵家の双子の首に多額の賞金がかかっていることを知って寝首を搔こうとした奴がいた。
賞金稼ぎで襲ってきた者達もいた。
敵対する盗賊団もいた。
全て撃退したが代償も大きかった。
手足を失った子供達は多数亡くなった。帝都から持ってでた武器の類は全て駄目になり、逃走用の馬が死んでしまった。
逃走できなくなった私達は身を守るためにアジトを作る事にした。
私は逃走中に結界魔法の他に、土魔法と生活魔法の火や水の魔法を使うことが出来るようになった。
それに僅かではあるが聖魔法、治癒魔法を使うことが出来る。
魔力量が少ないため大怪我は無理だ。
火や水の魔法は本当に生活をする為だけのもので、火の塊を飛ばしたり、大量の水をぶつけたりすることはできなかった。・・・それにそんなことが出来たとしても相手が見えなければ無用の長物なのだ。そう思っていたので、生活をするだけのものに限って使っていたこともある。
火や水の魔法で障壁を作るとしても結界魔法の方が強固なものができる。
目の見えない私が火や水の魔法の障壁を使うと仲間を巻き込みそうだ。
結界魔法は私が仲間認定している者は自由に出入りする事が出来るので安全だ。
アジトを作る格好の場所を見つけた。
それは森の中にある小高い丘で、この丘は岩場で古代人が硬い岩場を
伯爵家にいた頃の知識を利用して、このアジトを守るために大きな石弓もつくった。
今年の秋はよかった。
雪が降り始め大量のドルウダが亡くなっているのを見つけたのだ。
地竜とドルウダが共倒れている現場だ。・・・それを仕掛けた大男がいた。
雪融けが終わり地竜と大量の残ったドルウダが運ばれていった。
私達もその前にお零れを頂戴している。
その大男が若い女とエルフ族の子供を連れて金になりそうな立派な馬車に乗って出かけた。
私は大男が地竜とドルウダを相打ちさせて共倒れさせたので本当の実力の強さは知らないが、私にもたのもしい男爵家の双子と配下にした者達がいる。
数の上で負けることは無いと思った。
それに夜、急襲すればやれると思った。
その思いは間違いだと悟った。・・・その時は遅かった、化け物だった。
堅牢だと思っていた砦が落とされて、私は縄目に掛かって大男の前に引き摺りだされた。
賞金首の私は慰め者にされて殺されると思った。・・・縄が切られて、もうダメだと思った。声が聞こえた。懐かしい声だ。
私の伯爵家と第一騎士団長の地位を競い合っている、男爵家の双子が敬愛してやまない、元第一騎士団長ナイト・ソルジャーの声だった。
それに私が魔力暴走を起こしたときに治療をしてくれた王宮筆頭魔導士のザルーダさんの声だった。
シンディが連れてこられたようだ。
大男がシンディを柱に括り付けているようだ。
シンディを虐めないでお願い。
大男がシンディに
「動くな首・・・切る。」
と囁いた。
やめて、誰かが、柔らかい乳房で女の人とわかる、その人が私を抑える。
私は結界魔法でシンディを守ろうとする。
私の結界魔法が押さえている女の人が放つ結界魔法で相殺される。
「エイ」
という鋭い気合が響く。
「ゴトッ」
と物が落ちる音がした。
ソルジャーもザルーダもお見事と言う。
何が見事なものか私の首も切って、涙が出てきた。
柔らかい乳房の女性が抑えた手を離すと、懐かしい香りの女の子が私に抱き付いてきた。
シンディだ!シンディの首が付いている!いや付いているはずの奴隷の首輪が無い!
大男がシンディの首ならぬ奴隷の首輪を切り飛ばしてくれたのだ。
友を亡くした悔しさの涙が感謝の涙になった。
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