第17話 地竜とドルウダ
前勇者武田信虎の直系の子孫、勇者として召喚された武田真を得ることはこの世界の覇王となることができる。
その欲望に突き動かされてアマエリヤ帝国の武道師範マアシャルが真を誘拐したのだ。
俺は真を奪回すべく湖畔においてマーシャルとの闘いとなった。
俺はマアシャルを湖に蹴り飛ばして、真を守ろうと駆け寄った時、湖に落ちたマアシャルの異変には直ぐ気が付いた。
「見るな!」
俺は真を大きな体で抱いてマアシャルが水スライムに食われる
マアシャルが消えた後、俺は真の
真の可愛い唇が現れた。
その唇を奪いたかった。
気恥ずかしくてマアシャルが消えた湖に目を向けた。・・・閃いた。強烈に俺を引き付ける真の唇から注意を逸らすためにも作業をする。
いた!小動物を見つけたので棒手裏剣で倒す。
小動物を刀の下げ緒を解いて括り付けて湖に放り込んだ。
水スライムがその小動物に纏わりついた。・・・マアシャルを食べても貪欲な奴等だ。
透明な薄い幕が小動物の体を覆う、水スライムの塊だ。
水スライムが
砂地に上がった水スライムが慌てた。
逃げようとするが水分が砂地に吸い取られてあっという間に乾燥していく。
水スライムが岸近くの浅瀬まで来ないわけが分かった。
乾燥して残ったのが水スライムの強力な麻酔針という魔石だった。
俺は皮手袋をして真を縛っていた縄の切れ端と真のマスクに利用したハンカチを濡らす。
濡れた縄の切れ端に麻酔針を刺していく。
これをハンカチで覆った。・・・これで俺の戦い方の幅が広がった。それに麻酔針をザルーダの爺さんに見せたら何かの役に立つだろう。
俺はその後、遺品になったマアシャルの剣を拾って焚火をしていた野営地に戻ろうとしたところで、真から
「靴履いていないから抱いて行って。」
と言われた。・・・エッ!背負ってじゃなくて、抱いて!
そう言われて真の思わず足元を見た。
この世界の青白い二つの月明かりが、スリットの深いアオザイの服で白く健康的に伸びた真の脚が扇情的だ。
俺の下半身がうずく、不味い真に見られたくない、気恥ずかしいが真をお姫様抱っこで抱き上げた。
可愛い顔が今度はすぐそばにある。
目と目が合った。
「助けてくれて、ありがとう。」
と言われて頬にキスされた。
舞い上がった。
何処をどう歩いたかは分からないが俺達は野営地に着いた。
俺は囚われて純潔を散らしそうになった真を助けて野営地に戻ると、ソルジャーやザルーガ父娘が心配そうに待ていた。
俺は木の枝の上から、真を追いかける時に身代わりになった木を落とした。
『ドスッ』
という木が落ちる音で、皆が起きだして見たのはマアシャルのナイフが刺さった木だった。
残った皆は、手練れのマアシャルが勇者の真を誘拐して淳一がそれを追ったのだと思った。
心配していたのに嬉しそうに俺に抱きかかえられて戻ってきた真にアリアナは怒っていた。
まだ時間は遅い、しばらくの間寝ることにした。
ソルジャーはマアシャルの裏切りを思うと寝られないと言って寝ずの番を代わってくれた。
俺は見張りについていた木に登って枝に腰かけて眠っていた、この世界の二つの月が地平線に沈み代わりに朝日が昇ってきた。
その朝日で目を覚ました俺は、朝日に向かって俺が倒した武道師範のマアシャルの冥福を祈る。
木から降りて、焚火を起こしてお湯を沸かしてこの世界のお茶を飲む。
夕食の残りのスープを温め直す。
スープの匂いで集まった皆に朝食を食べながら真と共に昨夜の状況を説明する。
朝食も食べ終わったので、俺達を襲った皇弟ソーンダイク・サイクーンの部下が残した馬等総頭数104頭を連れてエルフ族の隠れ里に戻ることにした。
皇弟の部下の馬が1頭でもアマエリヤ城に戻ると皇弟サイクーンに何かあったと思われて捜索部隊が出されることになる。
これから冬季間になるので雪が降っても皇弟サイクーンが戻らなければ捜索部隊が雪解けを待って出されるのだ。
この世界のこの地方にどれだけの期間雪が降り、どれほどの量降るか分からない。
馬を放って危険な状態になるよりも馬は全て連れて行く事にした。
流石に馬の数が多いのでエルフ族の隠れ里に戻るのに時間がかかりそうだ。
森林地帯を抜けて山岳地帯の低木の地域に入ると、天候が悪くなりちらほらと雪が降ってきた。
異変を感じた。
山岳地帯の低木の中を何かがつけてくる。
目を凝らすと何頭もの大型の獣が低木や山岳地帯の岩影を使って隠れながらつけてくるのを見つけた。
マーシャルを倒してから、どういうわけか五感が研ぎ澄まされて更に遠くが見えるようになったのだ。
ザルーガに大型の獣の位置を指差して教えるが、ザルーガには遠すぎて見えないようだ。
真は何とか見えるが、他のアリアナもソルジャーも見えないと言う。
まあいい、ザルーガに見える大型の獣の特徴について聞かれたので
「6本足で肉食獣の狼のように見える。」
と言ううとザルーガが蒼白になって
「ドルウダだ!
火葬の臭いに集まってきたのだ!急ぐぞ!」
と言って先を急ぐ。
ドルウダは1頭見つけたら10頭以上のグループが隠れ潜んでいると言う、俺が見つけたのは10頭や20頭ではない100頭以上が見える。
その数百頭に膨れ上がったドルウダが確実に俺達を追い詰めていく。
山岳地帯の低木の地帯からさらに低木が少なくなった岩場に入った。
その頃には降った雪が積もって足場が悪くなってくる。
ここまでくると、姿を隠す場所も少なくなったためか、流石に皆がドルウダを見ることができる。
その頃には見えていた数百頭のドルウダが数千頭にまで増えている。
ドルウダは6本の足を器用に使って雪の降り積もった岩場を駆けあがってくる。
ドルウダは岩場で姿がもう丸見えなので、なりふり構わず襲ってきたのだ。
かなり離れているが大きな横穴が見えた。
「あそこに逃げ込もう!」
と俺が提案するがザルーガが、駄目だと言って拒否する。
ザルーガは
「あの横穴は地竜の巣穴だ。馬もろとも全員が食われてしまう。
それよりも馬1頭をこの場に残してドルウダに与えよう、そうすれば時間が稼げる。」
と言う。
馬は100頭以上いるのだ、試しに馬1頭をこの場に残したが、何百いや何千頭もの涎を垂らしながら駆け上がってくるドルウダには
「焼け石に水」
だ何の時間稼ぎにもならなかった。
食べられなかったドルウダは空腹で目を血走らせ、馬を食べたドルウダは血の臭いに酔って俺達を追走する足に力が入ったようだ。
俺は
「地竜の巣穴に向かう考えがある。」
と言って馬車から皇弟の兵士が持っていた両刃の剣を何本か手に持つ。
黒々とした地竜の巣穴に近づいた。
巣穴から生臭い、獣臭い臭いが漂い出て鼻を打つ。
地竜の巣穴の出入口付近で左右の岩場に真やザルーガが張り付く、俺は馬に乗ったまま巣穴に入って行く。
現段階では俺が走るよりこの黒い馬の方が速い。
ある意味今回の作戦はスピードの勝負だ。
巣穴に入ると、黒いとにかくデカイ獣が眠っている。
巣穴の洞窟内に響く馬の蹄の音で獣が黄色い目を覚ました。
それも四つも目がある。・・・地竜の特徴だ。
眠りを邪魔されたのを怒ったのか、地竜が
「グウ~ワアー」
と大声をあげる。
声と共に生臭い息が吹きかけられた。
黒馬は落ち着いている。
俺は馬上から両刃の剣を投擲術を使って投げる。
見事に両刃の剣が右目の上の目に突き刺さった。
「グ~ワアー」
と痛みで大声を上げて、俺に襲いかかってくる。
俺は急いで巣穴の外に向かって黒馬を走らせる。
『ズダン』『ズダン』『ズダダン』
と地竜は6本の足を器用に使って俺を追いかけて走る。
俺が囮になって地竜を巣穴から外に連れ出したのだ。
地竜を連れて俺が向かう先はドルウダの群れだ。
地竜を誘い出した巣穴に真が馬を連れて逃げ込む。
真は懐中電灯や充電式のランタンを使って巣穴に残った地竜がいないかを確認する。
真が丸く懐中電灯を振る。
他の地竜がいない合図だ、それを受けてザルーガ達が洞窟に入って土魔法で入り口を塞ぐ。
俺が戻ってこれるほどの隙間を開けてだ。
地竜の巣穴に入った馬どもは地竜の臭いで興奮している。
ザルーガ達が魔力が切れて腰を落とした。
俺は地竜を引き連れてドルウダの群れに向かって行く。
ドルウダどもも驚いた。
非力な人間が向かってきたのだ。・・・獲物が自暴自棄になって自ら喰われに来たと思った。間違いだった。
そいつの後ろから
『ズダン』『ズダン』『ズダダン』
と大きな体の地竜が四つある眼のうち三つの目を怒らせて走っている。
地竜の潰された目から鉄臭い血の臭いが漂ってきた。
ドルウダが地竜の血の臭いに更に酔った。
ドルウダは歯を剥き出して俺に飛びかかって襲ってきた。
俺は急角度で曲がる。
俺が曲がったおかげで、俺に飛びかかろうとしたドルウダが地竜と激突した。
俺は地竜の横をすり抜ける。
地竜は、そうはさせじとでかい尾を振る。
黒馬はその尾をひらりと飛び越えた。
でかい尾は勢い余って俺を追いかけて来ていたドルウダを一薙ぎで一掃する。
獲物を狩るのを邪魔された地竜とドルウダが戦い始めた。
俺はそのおかげで地竜の巣穴に逃げ込む事が出来た。
巣穴の中には両刃の剣を構えた真が待ち受けていた。
俺が黒馬と巣穴に飛び込んだ途端、ザルーガ達が巣穴の入り口を残った魔力をすべて使って塞いだ。
獲物を逃して怒ったドルウダと地竜の戦いになった。
俺が地竜の巣穴に逃げ込んで、振り返って見たものは大きなトカゲに群がる黒い蟻のような姿だった。
この戦いが終わるまでは、どうせ地竜の巣穴に閉じ込められたのだ。
この巣穴の中を探検する事にした。
ザルーガ達は土魔法で地竜の巣穴の入り口を完全に塞いで魔力切れで動けないので俺と真の二人でだ。
俺の手回しの懐中電灯で奥へ向かった。
洞窟の奥には、地竜の寝床があった。
地竜の寝床は木の枝や得物にした他の動物達の骨や皮で出来ていた。
その寝床のうえには地竜の卵が3つ置かれていた。
地竜の卵よりもその地竜の寝床の奥に人が立って歩けるほどの洞窟を見つけた。
その洞窟の中に入ると真がいきなり、怖いのか腕を絡めてきた。
若い女性の匂い立つような甘い香りとさらりとした髪が目の前を揺れる。
硬派で女性に免疫の無い俺には毒だ!思わず抱きしめてしまいたくなる!
矢張り真は良いライバルで別の意味で強敵だ⁉
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