第12話
私は衝撃に備えて体を丸めて目を瞑った。
しかし、いつまで経っても絵画にぶつかる気配がない。
ぼふっ。
「へっ?」
誰かに抱き止められたような柔らかい感触が私を包み、ゆっくりと地面に下ろされた。
訳が分からないが、怪我をせずにすんだようだ。
私がゆっくりと目を開けると、
そこには見渡す限りに青々とした草原が広がっていた。
唖然として、自然の絨毯の上にぺたんと座る。
広間にいたはずなのに、どうして野原に?
そよ風に揺れる草木に、やわらかに照りつける日光。
とても心地よい場所だ。
母にねだって、家族みんなでピクニックしたら楽しいだろうな。
思わずリラックスしてしまうほどに素敵な場所だった。
「どこだろー、ここ……?」
城の外ではないようだ。
ぐるりと見渡すも、見知ったものは見当たらない。
そもそも私が知っているのはうちの家だけだし。
「ここは絵の中の世界かしら~」
「コレット!」
見知った声に私は喜色を表した。
ちゃんとあとについてきてくれたんだ。
見知らぬ土地で知っている人(?)に会うとこんなにまでほっとするのか。
訳の分からない場所――コレットは絵の中と言っていたが――を一人でさ迷うはめにならなくて本当によかった。
「えのなかなの?」
「びっくりしたかしら? お城に飾られた絵の一つは宝物庫に続く扉になっているのよ~」
まさか絵の中にもう一つの世界あるなんて……。
さすがはファンタジー。
そう言われてみると、額縁が両開きの扉をモチーフにしたつくりをしていたな。
たくさんの展示品のうち、一つだけが宝物庫につながる扉になっているだなんて、教えてもらわなきゃ絶対気づけないって。
そういえば帰るときもあの扉を通るのだろうか。
だったら見失ってはマズい……。
後ろを振り向くも、私が通ってきたはずの扉はすでに跡形もなく消えていた。
「か、かえり……どうするの?」
扉がないと帰れないじゃん!
「目的を果たせば、この世界から出られるわ~。つまり螺旋の宝玉に触れれば帰還できるの」
帰還って、魔物の体内に取り込まれたみたいな言い方しなくても……。
嫌な響きだ。
私の脳裏にウツボカズラという植物が思い浮かんだ。
食虫植物の一種。魅力的なフェロモンで獲物を釣り、内部の消化液で溶かしてしまう。
それが今の状況に似ていた。
財宝に釣られた私はまんまと妙な世界に入りこんでしまった。
飛んで火にいる夏の虫……というのは違うが、「バカめ! ひっかかったな!」と敵に言われそうな失態である。
さらにファンタジーで定番なアレが私の想像を補強する。
入るのは容易く、出るのには条件を達成する必要があるというルール。
クリアすることで報酬を手に入れられるどこかで聞いたことのあるシステム。
……これってダンジョンなのでは?
「ち、ちなみに、おたからみつけれなかったら?」
「その時は一生このままなのよ~。大丈夫! ここにいるとお腹もすかないし、年も取らないから!」
それじゃ飼い殺しじゃないか!
先に言ってくれ! そんなにやばいところだったら無理して来なかったよ!
「ばっ、ばっ――」
「ば?」
「コレットのばかぁ――――――!!」
装備なしでダンジョンとか馬鹿なの? 死ぬの?
私は小山を登っていた。
目指す先は、そのてっぺんに建つ建造物。
コレット
「ひぃ~、ひぃ~」
汗だくになりながら私は大地を踏みしめる。
真夏のグラウンドくらいきつい。スポーツドリンクを浴びたい。
「なんで……わたしが、こんな、こと……」
私まだ二才だぞ!
今日は王宮散々走り回ってそのあとのハイキングとか――児童虐待はんたい!
のどが乾かないだけ助かるが、汗を流しているのに水分を摂取せず動ける現状に、寒気がする。
何も摂取しなくとも生きていけるというコレットの発言が真実味を帯びる。
いつの間にか改造人間にされてないだろうな。
かわいすぎるわが身を思って、涙しそうになる。
「頑張るかしら~」
その横を、汗一つかかずに優雅に飛ぶコレットが応援する。
自分がきつい思いしているときに、隣で楽をしているやつを見るのが一番腹立つ。
「……あるいて」
「へ?」
「コレットもあるいて」
驚いた顔をしているが、日本には連帯責任という言葉があってだな。
人間は自分が楽をできないなら平等を訴えるんだ。一つ勉強になったね。
「どうして羽を持つ私が無様に地を這わねばいけないかしら~?」
「だってずるいもん。こんなにきついのコレットのせいなんだから」
そもそも私がきつい思いをしているのは、説明なしでダンジョンにぶち込んだコレットのせいだ。
その元凶が快適にしているのはいかがなものか。
「つかれた……じゃあおんぶして」
「わかったわおんぶ――って潰れてしまうかしら⁉」
「できないの?」
「千年鍛えても無理よ~」
小山にそびえる建物は、出発したときから少しも大きさが変わっていない。
こんなに歩いたのに全然近づいていないじゃないか!
あとどれほど歩けばたどり着くのか――
「やだ――! もうあるくのやめる――!」
私は地面に転がって駄々をこねた。
ごろごろするたびに草の匂いが濃くなっていく。
もう一歩たりとも歩くものか!
「うーん、しかたないから私の風魔法でてっぺんまで運ぶかしら~」
「そうするっ!」
私は即座に同意した。
そんなことできるなら先に言ってよ!
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