第26話 懺悔
軍資金を整えた母は都の外れに小さなアパートを借りた。
自己破産者の母は入居審査の問題で不動産屋をいくつかまわらねばならなかった。
“お手あて”を条件にガマガエルが保証人になった。
女心はいくつになっても複雑だ。
Nと母を引きはなせて安堵したガマガエルは、Nに母の居場所を教えなかった。
また、ガマガエルは母の近況を把握することで、周囲にNの影がないかどうかを確認しているようだった。
“差し戻し”をせず、あかの他人になったというのに、Nは母の捜索願(※現在の行方不明者届)を提出した。
その噂を聞きつけた母は、管轄の警察署に出むいてすべてを吐露し、Nに自分の居場所を教えないように計らった。
そのあと、母は私と再会したのだ。
祖母の具合がよくない。
日内変動(うつ病の一日の気分や体調の変化)が激しいと、面談でホームの職員から指摘があった。
日ごと夕方になると、ぽろぽろ泣くのだと言う。
九十代後半だ。
『いつまで持つだろう……』
私は祖母と母を引きあわせることにした。
「生きてるうちに謝っておかないと一生後悔するよ!」
嫌がる母を説得する。
数日後、意を決した母は、私といっしょにホームに向かった。
穏やかな午後だった。
祖母の状態も悪くない。
「あれ?◯◯◯(母の名前)さんかい?」
祖母は母を覚えていた。
周囲から人が外れると、母は
「ごめんね。お婆ちゃんごめんね……」
と祖母の骨張って小さくまるまった背中をさすった。
何度も何度もそうする母を見て
『会わせてよかった。もう充分だ……』
そう思った。
祖母と母には嫁姑のただならぬ確執があった。
同居を解消したあとも、父と母が離婚したあとも、父が亡くなったあとも、母には大いなる不満と矛盾があっただろう……。
それは私には想像できないことだ。
認知症病棟のエレベーターボタンにはパスワードがあり、つどつど変更される。
私は新たに表示されたパスワードを入力してエレベーターを呼んだ。
母はそれを不思議そうに見ていた。
「会ってスッキリしたでしょう?何か食べていこうか?」
私の誘いに母が頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます