第23話 官報
今度の闇金業者は封書だった。
それは相変わらず母宛に届く。
封を開けると“官報から辿った”と断りがあった。
今度は直筆ではない。
官報は日本国の機関紙で、行政機関の休日を除けば基本的に毎日刊行されている。
一般的な情報のほか、行旅死亡人の情報や、破産者の氏名と住所が破産法の規定によって掲載される。
そのタイミングは、破産手続き開始決定の一週間から十日後と、免責許可決定の二週間から三週間後の二回だ。
便箋には破産の痛手に寄りそう丁寧で同情的な文面のあとで“それでも、お金は貸せますよー”といったチャラい誘い文句が続いていた。
遠い北国の住所が明記されている。
全国北から南まで“数打ちゃあたる”の論法だろうか?
二匹目のどじょうを狙う、彼らの執念が恐ろしかった。
そして私は、そのとき初めて、母が自己破産していた事実を知った。
すべてを失った母はどこにいるのだろう?
Nにがらくたのように棄てられてしまったのだろうか……?
暑い夏の日の午後だった。
日陰を探して住宅街を抜けながら自転車を走らせていたときのことだ。
「お姉ちゃーん!」
私は静謐な道に急ブレーキの音をたてた。
母のか弱いSOSが聞こえた気がしたのだ。
ふり返るが誰もいない。
家々の窓は閉ざされて人影もない。
空は真っ青で雲ひとつない……。
その数日前、母の夢を見た。
手足を拘束された母が、小さな泡をたてながら冷たい水底に沈んでいく夢だ。
『もう生きていないのかもしれない……』
私はふたたび自転車のペダルをこぎだした。
私は自分が生きるので必死だった。
もはや、母にはなんの執着もなかった。
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