第177話 新生徒会長誕生

 【緊急職員会議】


「うーん、困りましたなぁ……まさか、このような結果になるとは」


「でも規則は守らなければ!! 生徒会長に就任できるのは学年人気投票上位者だけです!!」


「そうなんですけどねぇ……」


本願寺ほんがんじ学園長や大谷おおたに教頭はどう思われますか?」


「そうですな……私の考えはですな……」


「本願寺学園長も私も同じ考えです!! ここは人気投票制度提案者の黒田先生の意見をお聞きしてからとういことで……ですよね、学園長!?」


「えっ? ああ、そうですな……それでは……」


「それでは黒田先生の意見をお聞きしましょうか!!」


「はーい、私の意見はですねぇ……」




 【自習中の一年一組】


 はぁ……五時限目は自習のはずなのに誰一人、勉強なんてやっていないというか……


 何でクラス全員が俺を囲んでいるんだ!?


「お、おい……伊緒奈? この状況を俺はどうすればいいんだ?」


「フフフ……私にはどうする事もできないわ。だってみんなの気持ちがよく分かるしね」


「そ、そうです!! 伊緒奈さんのおっしゃる通りです!! 昨日の応援演説で颯さんの姿を見て驚き、演説を聞いて涙を流し、そして今日は予想を覆しての颯さんに票が過半数入ったんですから!!」


 いや、俺だって驚いているに決まっているじゃないか。


「でもさ、ルール的に俺が生徒会長になるはずないんだし、伊緒奈が生徒会長になるのが当然だろ? それと俺がイメチェンをした理由は昨日、さんざん話したんだしさ……何でみんな俺の周りに集まるんだよ!?」


 そんな俺の質問に安藤が答える。


「昨日の説明だけで俺達が理解できると思うのか? 俺は全然理解できていないぞ。ってか、どうすればお前みたいにモテることが出来るんだ!? 教えてくれたらお前を解放してやるよ!!」


 バカなのかこいつは? いや、バカだよな。


「安藤君の質問はどうでもいいからさ、もう一度、竹中君のここまでの経緯を詳しく教えてくれないかなぁ?」


「ど、どうでもいいって何だよ!?」


「どうでもいいわよ。竹中君にそんな質問をしている時点で安藤君がモテる事はあり得ないから」


「うぐっ!!」


 やはり女子ってこえぇぇ……

 これからも女子に対しての口の利き方は気を付けないといけないな。


「まぁ、私達は颯君がイメチェンをしていなくても彼の良さは十分に分かっていたけどね」


 私達? ってか、


「何で静香さん達、三年生がうちの教室にいるんですか!?」


「だって今は自習時間じゃない」


「いや、だから自分の教室で勉強をしないと……」


「ハハハ、颯君は真面目だね~? 自習っていうのは『自由きままに好きな場所で好きな事を習う』ってことじゃないの~」


「茂香さん、それは都合の良過ぎる解釈ですよ!!」


「颯君、私達は昨日、君とゆっくり話ができなかったので、全教師がいないこの自由な状況を利用させてもらったの」


 ケイトさん、それは無謀じゃないですか?


 ガラッ…ガラガラッ


「あーっ!? 本当だーっ!! 本当に颯先輩がイケメンになってる~っ!!」


「み、美月!? 何でお前が高等部にいるんだよ!? 授業をサボって来たのか? それはさすがにアウトだろ!?」


「ハハハ、それは大丈夫ですよ~今日は中等部の先生達も全員、緊急職員会議に召集されていて中等部も全クラス自習なんですよ~」


「全然、大丈夫じゃねぇよ!!」


「 「 「キャーッ!! 竹中君の突っ込みカッコイイ!!」 」 」


 はぁ……陽キャになっても疲れるな。


「颯~」


 ん?


「うわっ!? 俊哉いたのかよ? 全然、気付かなかったぞ!!」


「ハハハ……失礼な奴だなぁ……でもいいや。俺は昨日からめちゃくちゃ気分が良いんだ。颯の応援演説の中で俺の名前を一番に出してくれたのが嬉しかったからなぁ……今の俺は最高に幸せな気分なんだよぉ……」


 それくらいで幸せな気分になれるのか?


 でも俊哉が本当に幸せなのは演説の後に陽菜さんと付き合う事になったからだって事は今は面倒だし触れないでおこう。


「いずれにしても伊緒奈? 生徒会長になるのは絶対に伊緒奈だから今のうちに生徒会役員を考えていた方がいいんじゃないか?」


「まぁ、考えてはいるけどねぇ……でも無駄になっちゃうかもしれないよぉ」


「無駄にはならないよ。絶対に伊緒奈が生徒会長だからさ!!」


「フフ、それじゃぁ颯君が副会長ってことでよろしくねぇ?」


「えーっ!? お、俺が副会長だって!? そ、それは無理があるだろう?」


「えーっ? 昨日の応援演説で颯君、私の支えになるって言ってくれたじゃないのぉ? だから一番近くで支えてくれないと困るわぁ……」


「うぐっ!!」


 そう言えばそんな事を言ってしまったような……



 ピンポンパンポーン


 えっ? 自習時間に校内放送だと?


『お呼び出しを申し上げます。一年一組の竹中颯君、至急、会議室に来てください』


「えっ!? お、俺が呼び出し??」


「フフフ……そろそろ呼ばれると思っていたけどね……」


 そうなのか、伊緒奈!?


「颯君、私達三年生が会議室まで付いて行ってあげましょうか?」

「そうそう、颯君が投票一位になったのは私達の責任でもあるからね~」

「そうね。私達のグループは全員、颯君に一票入れちゃったしさ……」


「えっ!?」


 そ、そういうことだったのか。だから俺の票があんなにも……

 しかしこの人達の影響力は今更だけど半端ねぇよな?


「しかしアレですよねぇ? 颯先輩が生徒会長になっちゃうと『竹中颯争奪戦』は振り出しに戻っちゃいますよねぇ?」


「 「 「!!!!」 」 」


 その事をすっかり忘れていたぞ!!

 そうだよな? 美月の言う通りだ。


 でも俺の票はきっと無効になるだろうし、事実上は伊緒奈が勝利したことになるんだろうから、伊緒奈が生徒会長になれば当初の作戦通りにいけるんじゃないのか?


 と、とりあえず今は急いで会議室に行かなければ……




 【会議室内】



「竹中君、急に呼び出して申し訳ないね? 早速なんだが緊急職員会議の結果、君が特例で新生徒会長に就任する事を認める結論が出たんだよ。それで後は君の気持ち次第なんだが、どうだね? 生徒会長を引き受けてくれるかい?」


「えーっ!?」


「竹中君、本願寺学園長の仰る通りだ。君が引き受けてくれさえすれば何も問題はない。あれだけの票が君に入ったんだ。自信を持って堂々と生徒会長を務めてもらいたいのだが……それにこれは君がお世話になった黒田先生の願いでもあるのだよ」


「く、黒田先生の……?」チラッ……


 俺が黒田先生の方を見ると先生はニコニコしながら『うんうん』と頷いている。


「でも……僕みたいな生徒会を一度も経験した事の無い素人がいきなり生徒会長なんて務まるのでしょうか?」


 俺が不安げな表情で言うと、黒田先生が急に立ち上がりこう言った。


「それは大丈夫よ!! 会長をサポートする生徒会役員は本来、副会長、書記の二名だけど、君が不安がると思って今回はそれ以外に会計、会計監査を追加した四名を選出してくれて構わないから。それで君の不安は解消するんじゃない? ウフ♡」


「そ、それは助かるといいますか……」


「竹中君なら大丈夫。きっとこの学園を更に素敵な学園にできるわ。私も全力でサポートするから……ねっ?」


 本当に俺なんかに生徒会長なんてできるのか?


 少し前の俺だったら絶対に不可能だ。でも……


 今の俺には信頼できるたくさんの仲間が……


 うーん…………


 よし……


「わ、分かりました。完全に不安が消えたわけではないですが、頑張ってみます」


 おーーーっ!!!! パチパチパチ パチパチパチ


 会議室内に先生達の拍手の音が鳴り響いた。


「あっ、それと四名の役員だけど、明日の朝までに選出してちょうだいね? そして午後から生徒会役員の就任式を行うからよろしくねぇ?」


「は、はい……」


 



 はぁ……


 俺が会議室を出ると『ブブブッ』とズボンのポケットに入れていたスマホが震えた。


「ん? こんな時間に誰からだろう?」


 俺はポケットからスマホを取り出しライン画面を開いた。するとトーク画面に信じられない文章が……


『屋上で待っています。 神影』


「!!!!」

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