第176話 颯、語る

「それでは続きまして、もう一人の生徒会長候補、徳川伊緒奈さんの応援演説をする竹中颯君よろしくお願いします!!」


 つ、遂に来た。覚悟を決めろ、俺!!


 俺はゆっくりと壇上の前に立つ。


 ザワザワ……ザワザワ…… ザワザワ……ザワザワ……


「えっ!? あの子が竹中君なの?? ちょっと静香、どういうことなの!?」


「・・・・・・」


「静香ってば!! って、ん? この子、立ったまま気絶しているわ……でもまぁ、良い意味でショックだよねぇ……」



「み、皆さん、こんにちは。徳川伊緒奈さんの応援演説をさせて頂きます、一年の竹中颯といいます。どうぞ最後までよろしくお願いします!!」



「ケイトちゃん? さっき羽柴さんが『刮目せよ!!』って言っていたのはこの事だよね~? ケイトちゃんは颯君がイメチェンをして応援演説をするって事は知っていたの~?」


「私が知っている訳ないじゃない。でも……まさか颯君がイメチェンをして出て来るなんて……それも凄く似合っていてカッコイイし……♡」



「よ、よしのん!! 颯っちが……颯っちが……遂に中身だけでなく見た目までイケメンになってしまったっつーの!!」


「ち、千夏ちゃん、見れば分かります。これはあまりにも衝撃的ね。私の好きなタレントにソックリですし……更に颯君の事が好きになりました♡」



 なんか会場が凄くざわついているけど、やはり俺の見た目についてだろうか?


 でも俺の事を知っているのは学園でも一部の人だけだし……


 という事は人気者の伊緒奈の応援演説をするのが俺みたいな冴えない男でみんなガッカリしてのざわつきなんだな?


 はぁ……いくらイメチェンをしたからといって、人間、そう簡単に変われるもんじゃないつてことだな……


 しかし凹んでいる場合じゃないぞ。俺は昔の俺に戻るって決めたんだから……男が一度そう決めたからには誰になんと思われても貫き通さないと……よしっ!!


「小学生の頃、あるクラスメイトの女の子をイジメから助けたことがキッカケとなり、僕もクラス全員からイジメられるようになりました。それまで明るかった僕の性格は一変し、誰も信じられなくなってしまい、そして家に引きこもるようになりました……」



「え? 颯がイジメに!? ひ、陽菜ちゃん、知ってた?」


「うん、私が知ったのは合宿前だけどね……」

 まぁ、それを知ったからこそ徳川さんに合同合宿の提案をしたのだけど……



「ずっと引きこもっていた僕ですがある時、『私立仙石学園中等部』の存在を知りました。そして家族に心配をかけたくなかった僕は地元の中学ではなく『仙石学園中等部』に入学する為に必死に勉強するように……その姿を見て喜んでくれた両親は家庭教師をつけてくれました。その家庭教師こそ『仙石学園伝説の生徒会長』と語り継がれている黒田かなえさん……そうです。僕の現担任の黒田先生です。その事を知ったのは最近なのですが……」


「 「 「えーっ!? そ、そうなんだ!?」 」 」



「黒田先生、彼の言っている事は本当なの?」


「ハハハ、そうですねぇ……少し照れちゃいますけど……でも彼は当時、本当に頑張っていましたよぉ……」それにイケメンになっちゃってぇ……まぁ、颯君がイケメンなのは知っていたけどねぇ……



「僕は黒田先生のお陰で無事に『仙石学園中等部』に入学することができました。しかし僕は小学生の頃のトラウマがあり、人と話すのが苦手になっていたので目立たない様に静かに中学生活をおくるように……逆に陰キャだとイジメの対象になるかもと不安もありましたが幸い、この学園はイジメが無く、僕としては本当に助かりました。この学園にイジメが無いのは高等部に導入されている『人気投票制度』のお陰だという事を後で知り納得しました……」



「はっ!?」


「静香、やっと目が覚めたみたいね? こんな記念すべき日に気絶している場合じゃないわよ。しっかり竹中君の姿を見て演説を聞かないと、彼に失礼よ!!」


「そ、そうねカンナ……私としたことが情けない……それにしても……」

 颯君、凄くカッコイイ……引き込まれるのは『瞳』だけじゃなかったんだね……



「ただ僕はその『人気投票制度』によって誰も嫌われる様な事をしたくないからイジメが無いだけなのだと思っていましたし、現に今もそうだとは思っています。でも高等部に進級してから僕の周りは一変しました。まず同じクラスの外部入学者である前田君が僕みたいな地味な人間に気さくに声をかけてくれ『友達』だと言ってくれたのです。最初は戸惑いましたが彼は本気で僕を『友達』だと言ってくれているのが日に日に分かり、口には出していませんが本当に嬉しかった……」


「は、颯……グスンッ……」


「俊哉、男の子が泣かないの……グスン……」



「そして前田君に続いてクラスメイトの徳川さんも僕に話しかけてくれました。先程、言いましたが彼女に対しては当初、僕みたいな陰キャからも好かれたいから声をかけてくれているのだと正直、疑っていました……」


「フフフ……でしょうね……でも……」



「でも、それは間違いでした。彼女はある人から僕の過去を全て知らされていたうえに、尚且つ中等部時代、僕に何度か助けられたことをずっと恩に感じてくれて、何とかして明るかった頃の僕に戻そうとしてくれていた、とても思いやりのある優しい女の子でした。彼女の人柄は周りにいる友人達とのやり取りを見てもよく分かります。徳川さんは本当に誠実で素敵な人だと今はハッキリと言えます」



「い、伊緒奈さん……グスンッ……私、颯さんの過去は前に聞いて知っていますけど、改めて聞いても涙が止まりません……グスンッ……」


「グスン……だねぇ太鳳ちゃん……あら、魔冬も泣いているわねぇ?」


「だ、だびでだんがいだいばよ(泣いてなんかいないわよ)……グスン……」



「徳川さんやその友人達のお陰で日に日に僕の心は変化していくことに。そして数名の先輩達や別のクラスの人達とも交流する様になっていき、あれだけ友達なんて信用できない、自分はずっと一人でいいと思っていたのに……今は知り合えた全ての人達と一生、付き合っていきたいという思いになっている自分がいます。これも仙石学園のお陰であり、僕を支えてくれた徳川さんをはじめ、知り合った全ての人達のお陰であると思っています」



「ケイトちゃん? 全ての人達って私達のことも入っているのかな~?」


「当たり前じゃない。数名の先輩達って言ってくれているのだから……グスン……」



「なので僕は徳川さんが生徒会長になったアカツキには今まで僕の事を陰から支えてくれたお返しに今度は僕が徳川さんを支えたいと思っています。そしてこんな陰キャな僕でも楽しく学園生活をさせてくれている仙石学園がますます楽しい学園になる為に頑張りたいと思っていますので、どうか皆さん、徳川伊緒奈に清き一票を宜しくお願い致します!! これで僕の応援演説を終わります。ご清聴ありがとうございました……」


 ふぅ……やっと終わった……しゃべり過ぎたかな、俺?



 シ――――――――――――――――――――――――ン


 みんな、引いてしまっているんじゃ……

 うわ、ヤバい……マジで俺、喋り過ぎたのかも。


 パチパチパチ……


 パチパチパチ パチパチパチ


 うぉぉぉおおおおおおお!!!!

 きゃぁぁぁぁあああああ!!!!


「へっ?」


「 「 「素晴らしい演説だったぞーっ!!」 」 」

「 「 「感動したわーっ!!」 」 」

「 「 「竹中君、こっち向いて~っ!!」 」 」


 こっち向いてって何!?



「決まったわね~?」「そうね……決まったわ……」

「決まりましたね……?」「ああ、決まっちまったっつーの」

「カンナ、計画を実行するわよ……」


「 「あ、安藤……」 」

「ああ、本日をもって『竹中颯だけが何故モテるの会』は解散だ。そして新たに『竹中颯みたいになるにはどうすればいいの会』を発足するぞ!!」

「 「名前長過ぎだろ!?」 」



「た、竹中君……あ、ありがとうございました……そ、それでは続きまして生徒会長候補の徳川伊緒奈さんに演説を行っていただきますので、皆さん、お静かにお願いします」


 俺の演説って伊緒奈の応援に役立てたのだろうか……?


 足を引っ張ってしまっていたら申し訳ないけど、今話したことは全て俺の本当の気持ちだしなぁ……




「私が生徒会長候補の一年、徳川伊緒奈です。私も羽柴さんと同じく一言だけにします。どうか皆さん……今、頭に浮かんでいる人の名前を是非、投票用紙に記入してください。私がお願いするのはそれだけです……宜しくお願い致します!!」


 えっ!? それだけ!?


 もしかして俺が喋り過ぎたから時間を気にして短くしたのか!?


 あちゃぁ……伊緒奈に悪いことをしてしまったよなぁ……後で謝らなくては……




 そして次の日、生徒会長選挙投票が行われ昼休みに投票結果が一階下足箱前ホールの壁に貼り出されたのだが……



 1位 竹中 颯    777票

 2位 徳川 伊緒奈  256票

 3位 羽柴 陽菜   147票



 ピンポンパンポーン


『全校生徒にお知らせします。午後から緊急職員会議を行いますので五時限目の授業は全クラス自習とします』






――――――――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


まさかの結果に!!

果たして……!?

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