第172話 衝撃の真実
「ただいま……」
「颯、お帰り~ってあれ? あなたは……」
「母さん、この子の事知ってるのかい?」
「ええ、知っているわよ。今月に入ってから毎日、家の前で颯の帰りを待っていたから。でも今だから言うけど、その子に口止めされていたのよ。自分が来たことを知られると颯が理由をつけて家に帰って来なくなるかもしれないからって……でもようやく会えたんだね? 良かったわぁ」
「何で口止めなんかしたんだよ? 俺が家に帰らないわけ無いじゃん」
「そ、そうなんだけど、でも私が竹中君に会いに来たことが分かったら竹中君、ワザと遅い時間に帰っていたかもしれないし……一応、私も門限があるから……」
なるほど、そうかもしれないな。俺はこいつの事が嫌いなんだし、出来るだけ会わない様にしていたかもしれない……
「分かったよ。まぁ、とりあえずあがれよ? 今日はちゃんと話を聞くからさ……」
はぁ、これで今日の俺の描いていた予定は全てパーになっちまうな。
【颯の部屋】
「それじゃぁ、ごゆっくりねぇ?」
「は、はい……ありがとうございます……」
母さんはそう言ってお茶とお菓子を置いて俺の部屋から出て行った。
森蘭子からは緊張感が漂っている。
「じゃぁ、早速だけど話を聞かせてもらおうか?」
俺はまだ少しだけ今日経てた予定を諦めていなかったので森蘭子をせかしてしまう。
「うん、そうだね。手短にって約束だし……まず最初に今から話す内容は事実だけど竹中君が信じてくれるかどうかは自信が無いというか……」
「大丈夫さ、信じるよ」
「え?」
「毎日、俺に会う為に家に通ってくれていたんだし、さすがに嘘は言わないと思うから」
「あ、ありがとう……まずは竹中君に正式に謝罪させて欲しい。小学生の頃、クラス全員であなたと明智さんをイジメてしまってゴメンなさい。許してもらえるとは思っていないけど、今は心の底から反省している……本当にゴメンなさい……」
俺は森蘭子の謝罪を聞き、当時の事が脳裏に蘇って来た。
そして、やはり怒りが込み上げて来たけど、なんとか我慢した。
「ああ、本当は明智にも直接、謝罪してもらいたいけど、まぁ、明智はこの町にいないから仕方無いよなぁ……」
「ううん、明智さんはこの町にいるよ。夏休みに竹中君と会った数日後に明智さんから突然、連絡が来て……会うのはとても怖かったけど、やはりケジメをつけないといけないと思って……それで私は明智さんにも直接会って、謝罪させてもらったの……」
「なっ、何だって!? あ、明智が……神影がこの町にいるっていうのか!?」
「う、うん……でも一時的に日本に帰国しているって言っていたから、もう日本にはいないかもしれないと思うけど……」
な、何で神影は俺に連絡してくれなかったんだ!?
俺の事はもう忘れてしまったというのか?
もしそうなら俺は今まで何の為に勉強を頑張ってきたんだよ……
「竹中君、話を進めてもいいかな?」
「え? ああ、進めてくれ」
とりあえず神影の事は後にして今は森蘭子の話を聞かなくては……
「乃恵瑠ちゃんから聞いたと思うけど……私は竹中君の事がずっと好きだったの……それで四年生になっても同じクラスになれたからとても嬉しかった……」
前に乃恵瑠さんからそう聞いたけど、当時、そんな感じには見えなかったんだけどなぁ……まぁ、今でもよく言われるけど俺は恋愛に関してめちゃくちゃ鈍感だから気付かなかっただけかもしれないけど……
「私は今年こそ竹中君に想いを伝えようと思っていた矢先、想定外の事が二つも起こってしまったんだぁ……」
「想定外?」
「うん、私が竹中君に想いを伝える決心をして直ぐに幼馴染で私のことを小さい頃から実の妹の様に可愛がってくれていた乃恵瑠ちゃんに相談を受けて知ってしまったの。そう、乃恵瑠ちゃんも竹中君の事が好きだという事を……そして私に仲を取り持って欲しいって……凄く嫌だったけどお世話になっている乃恵瑠ちゃんを悲しませることは私には出来なかった」
「でも俺は小三の時に乃恵瑠さんを助けて以降、一度も森から乃恵瑠さんを紹介してもらっていないはずだけど……」
「うん、そうだよ。私は乃恵瑠ちゃんを竹中君に紹介していないわ。ずっと躊躇していたから……でもさすがに乃恵瑠ちゃんの圧が日に日にきつくなってきて引き延ばせなくなってきて、そろそろ二人を引き合わせなければと思った矢先に明智さんが転校してきたの」
なるほどな。それで乃恵瑠さんの為に神影をイジメて学校に通わせない様にしようとしたのか?
「竹中君は常に誰にでも優しい人だったから当然、転校生の明智さんにも直ぐに声をかけて色々とお世話をしていたよね? そしていつの間にか二人でいる時間が長くなっていたよね?」
それで嫉妬もあって神影を執拗にイジメるようになったんだな?
「私は二人の仲睦まじい姿を見ていて明智さんには敵わないって思ったわ。明智さんって見た目は地味だったけど、勉強も凄く出来るし……優しくて思いやりもあったし……だから私は乃恵瑠ちゃんに本当の事を言った。私も本当は竹中君の事が好きだったけど明智さんには敵わないので諦めるから乃恵瑠ちゃんも諦める様に言ったんだ……」
「えっ!?」
なんか俺の想像と違ってきているような……
「でも……乃恵瑠ちゃんは諦められなかった。だからダメもとで竹中君に告白しようとしたんだけど、突然、引っ越しの話が出て来ちゃって……そのショックで乃恵瑠ちゃんの悪い方の性格が出てしまって……」
悪い方の性格??
「乃恵瑠ちゃんは昔から自分の思い通りにしないと気が済まないところがあったの。それでもどうにもならない時は諦めるというよりも全てをめちゃくちゃにしてしまうというか……」
「全てをめちゃくちゃにするって何だよ!? 俺が知っている乃恵瑠さんらしくない話だな……」
「ここからは竹中君に信じてもらうしかない話なんだけど……乃恵瑠ちゃんは引っ越し直前に私を呼んでこう言った。蘭子ちゃん、お願い!! 私が好きになった人をあんな瓶底メガネをした地味子なんかに取られたくないの!! まだ蘭子ちゃんと竹中君が付き合うのなら我慢できるわ。でもあんな地味子となんて……だからお願い!! あんな子、この学校にいられなくなるくらいにイジメてちょうだい!! って……」
「う、嘘だろ……あの乃恵瑠さんが……」
「私は乃恵瑠ちゃんの言葉に乗せられた。私が竹中君と付き合うのなら我慢できるっていう言葉に負けてしまったの。そしてそこからは竹中君も知っている通り、私が中心になって明智神影のイジメが始まった……本当に私はバカな女だった……」
その後、神影は森蘭子が抱いていた内容とは違ったが急遽、海外に引っ越す事になり、俺達の小学校を去ってしまうが、引き続き今度は俺がイジメの対象になってしまった理由、それは……
神影がいなくなってもずっと神影の影を追っている様な感じだった俺を森蘭子には耐えられなかったらしい。
そして耐えられない気持ちから俺に対する憎しみへと変化していき、気付いたら男子達にもお願いして俺をイジメのターゲットにしたという事だ。
「これが真実です……ほ、本当にゴメンなさい!! 許してもらえるとは思っていないし、乃恵瑠ちゃんのせいでイジメが始まったと言っている訳では無いの。いくら言われてやったからといっても実行したのは私だから……一生、罪は背負うつもりだから……ただ、どうしても真実を知って欲しくて……グスン……」
森蘭子の話がもし全て本当だとしたらイジメの黒幕は乃恵瑠さんって事になる。
合宿での乃恵瑠さんの態度や、最後のラインの内容、そして前に詩音が言っていた乃恵瑠さんに対するイメージを考えると納得できる様な気もする。
そう言えばこの話は神影も聞いているんだよな?
「それで、神影は許してくれたのか?」
「そ、それが……竹中君と会ってから許すかどうかを決めるって……」
「え? 俺に会うって!?」
って事は……神影は俺を忘れていないって事だよな!?
それを聞いて少しホッとしたけど……森蘭子め、始めにそれを言えって。
「そして最後に明智さんはこうも言ったわ。九月三十日に全てがハッキリするからそれまで待ってちょうだいって。私には何のことだかよく分からないけど……竹中君なら分かるのかな?」
九月三十日?
その日って生徒会長選挙の日だけど……
しかし神影には全然関係の無い事だしなぁ……
でも、その日に神影が再び日本に帰って来て俺に会ってくれるのだろうか?
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