第116話 明智神影との思い出

 【学年人気投票前日の朝】


 ピピピ ピピピ ピピピ


 うーん、もう朝かよぉぉ?


 うう、体中が痛い様な……まぁ、昨夜のバイトも結構、忙しかったからなぁ……力仕事も多かったし……


 でも魔冬がよく手伝ってくれるから助かってはいるんだけど、その都度、伊緒奈の機嫌が悪くなるから精神的にはキツイよな……


「さぁ、起きよう!! 早くしないと乃恵瑠さんが来てしまうぞ」


 乃恵瑠さんはあれから毎朝、俺の家に来て一緒に登校している。


 さすがの俺も乃恵瑠さんと一緒に登校するのは慣れてはきたけど、相変わらず周りの視線には慣れていない。


 やっぱ『なんであの陰キャなんだ?』という風に見られている気がして心が痛い。



「おはよう……今日も父さん、早く出勤なんだなぁ?」


「あっ、お兄ちゃん、おはよう!!」


「おはよう颯、そうなのよぉ。お父さん一番電車に乗るって言って出勤したわぁ」


「へぇ、そうなんだぁ……父さんも大変だなぁ……」


「おはよう、颯君!! お母様の作られたお味噌汁、凄く美味しいねぇ!?」


「ああ、おはようござ……へっ? え、えーっ!?」


 の、乃恵瑠さんが何故、我が家の朝食を一緒に!?


「の、乃恵瑠さん、な、何で……!?」


「あら、ゴメンね? 驚かせちゃったかな? 今日は早く目が覚めちゃってね、颯君の家の前で待たせてもらおうと思っていたら、お母様がゴミ出しする時に会っちゃって……で、一緒に朝食どう? つて言っていただいてね、お言葉に甘えさせてもらったって事なの」


 母さんがゴミ出しする時間ってかなり早い時間だと思うんだが……


 まぁ、いいか。そこを追及するのは止めておこう。


「お兄ちゃん? 早く食べないと乃恵瑠先輩大絶賛のお母さんのお味噌汁が冷めちゃうわよ!!」


「え? ああ、そうだな……い、いただきます……」


「しかし、お母さんとっても嬉しいわぁ。こんな可愛い子にお味噌汁を褒めてもらえるなんてねぇ……乃恵瑠ちゃん、これからも颯の事をよろしくお願いねぇ?」


「は、はい!! 颯君の事は私にお任せください!!」


 はぁ……乃恵瑠さんがドンドン竹中家に入り込んできているぞ……


 本来なら、こんな美少女とこうやって朝からワイワイする事は幸せなんだろうけどなぁ……全然、そんな気持ちになれない俺がいる。


 やっぱ、俺の性格が『陰キャ』だからなのだろうか?


 うーん、まぁ、それもあるけど、やはり俺が『仙石学園』に通っている目的が『普通の男子高校生』みたいに彼女をつくるとかじゃ無いからだろう。


 俺は将来、明智神影あけちみかげと釣り合える様な男になる為に今は勉強を頑張らないといけないんだ。そして神影と再会した時に……


 ん? ちょっと待てよ。俺は神影と再会した時にどうしたいんだ?


 『お前と同じくらい頭が良くなったぜぇ』とでも言いたいのか?

 いや、それは無いな。別に俺は神影をライバルだとは思っていない。どちらかと言えば『尊敬対象』だ。あれだけ皆にイジメられても落ち込むことなくテストで毎回ダントツ一位だった神影を尊敬していたんだ……


 それじゃぁ、御影に対して俺は知らず知らずの間に『恋愛感情』があったとか……?


 イヤイヤイヤッ、それも無いだろ!?


 あの頃の神影は今の俺と同じで凄く地味な子で『陰キャオタク女子』だったんだ。そんな子に対して当時まだ『陽キャ』だった俺が惚れるわけ無いだろう。


 俺が御影をイジメから助けようとしたのも『正義感』からだったはずだし……


 でも……神影の性格はとても良かったよな。


 とても優しい子だったのは間違いない。それなのに何で御影はイジメの対象になってしまったんだろうか?


 転校初日から俺は神影に声をかけていたけど、頭が良いのを鼻にかけずに普通に接してくれていたし、勉強も教えてくれた。それに俺が教科書を忘れた時は自分の教科書を貸してもくれたっけな……


 まぁ、あいつは教科書なんて必要無いくらいにめちゃくちゃ頭が良かったけどな。


 俺はそんな優しい神影に対していつの間にか惹かれていたんだろうか?


 だから、そんな御影をイジメている奴等が許せなかったのだろうか?


 うーん……よく分からないなぁ……っていうか、小学生でそんな気持ちになるもんなのか? でも乃恵瑠さんは小学生の時に俺の事を……


 まぁ、人それぞれって事だよな?



「颯君、どうしたの? 早く食べないと遅刻しちゃうわよ?」


「え? ああ、そうですね!! ヤバい、早く食べないと!!」


「乃恵瑠先輩、すみませ~ん。お兄ちゃん、たまに考え事をし過ぎて全然、お箸が動かない時があるんですよぉぉ。ほんと、変なお兄ちゃんでしょう?」


「フフフ……そんな事は無いわよ。考え事をしている颯君の顔も素敵だなぁって思いながら私も朝食をいただいていたしね」


「は、はぁ……」




 【電車内】


 ガタンゴトーン ガタンゴトーン


「ん?」


 ちょっと待てよ?


「え? どうしたの、颯君?」


「い、いやぁ……」


 なんだか今日は色々と思い出す日だよな?


 前から乃恵瑠さんと通学していて違和感があったんだが、ようやくその違和感の理由が分かったぞ。


 俺が生徒会室で乃恵瑠さんに告白された時、たしか五年生の時に親の仕事の都合で転校したって言ってなかったか?


 っていう事は今の乃恵瑠さんは俺の家の近所に住んでいないんじゃないのか?


「の、乃恵瑠さん? 乃恵瑠さんの家って本当はどこにあるんですか? 俺の近所じゃないですよね?」


「フフフ……バレちゃったぁ? 直ぐにバレるかと思っていたけど颯君、全然気付いていないみたいだったから安心していたんだけどなぁ……」


「それじゃぁ、本当は俺の家から遠くて毎朝、無理して一緒に登校していたのでは?」


「フフフ……それは大丈夫よ。私の家は南の方で颯君の最寄り駅は通学途中なの。だから今までよりは少し早く家を出ているけど、さほど影響は無いわ」


「そ、そうなんですか……それなら良いんですが……」


「あら? 私が無理しているんじゃないかって心配してくれたのね? やっぱり颯君って優しいなぁ……ますます、大好きになっちゃうわ。それよりも今朝は何を考え事していたの? もし良ければ教えて欲しいなぁ」


「え? いやぁ……小四の頃に転校してきた子の事を少し思い出しちゃいまして……」


「へぇ……颯君が小四の頃に転校してきた子かぁ……たしかその子の名前って『明智神影』っていったよね?」


「えっ!? な、何で乃恵瑠さんが御影の名前を知っているんですか!?」





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


乃恵瑠の家は颯と近所では無い事が発覚!!

それは別にいいとして……

しかし乃恵瑠が明智神影の事を知っていた事に対しては驚く颯であった。


『学年人気投票』前日に何やら波乱の予感が?

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る