第115話 石田美月

 【人気投票二日前の羽柴陣営、俊哉視点】


「が、学年人気投票まであと二日かぁ……なんか緊張してきたわね?」


「フフフ……緋色ひいろちゃんが緊張してどうするのよ? 私はワクワクしているわ」


 宇喜多さんの気持ちはよく分かるぞ。

 

 投票日が近づくにつれて陽菜ちゃんよりも、俺達応援者の方が緊張してきた感じだし。


 でも、さすがは陽菜ちゃんだなぁ……

 肝が据わっているというか……


「でも陽菜ちゃん? 最近、上杉さん推しの直江さんも人気が上がってきたって情報が入っているけど大丈夫なのかい? 俺は少し不安になってきたんだけど……」


「別に俊哉が不安になる必要はないわよぉ。まぁ、大丈夫じゃない。っていうか、直江さんと同じクラスの緋色ちゃんはどう思う?」


「そうね、前田君の言う通り、直江さんの人気は上がっているわ。うちのクラスの半分近くが直江さん推しの様に思えるかな……」


 クラスの半分が直江さん推しっていうのはかなりヤバくないか?


「フフフ……という事は残りの半分は私に投票してくれる可能性があるってことよね?」


「た、多分ね……私も結構頑張ったから残りは織田さんじゃなく陽菜ちゃんに投票してくれるとは思うけど……」


「それで十分よ。直江さんがいるクラスで半分の人達が私に投票してくれるだけでも凄い事だと思うよ。さすが緋色ちゃんね? 本当にありがとな?」


「や、やめてよ!? そ、そんなお礼なんか言われたって嬉しくなんか無いんだからね!!」


 宇喜多緋色さんはツンデレ系なんだな?


 ん? 宇喜多さんの隣に座っている黒田マーサさんはさっきからうつむいたままだけど、どうかしたのかな?


「あ、あのぉ……黒田さん、どうかされたのですか? なんか元気が無い様な気がするんですが……」


「う、うん……」


 黒田さんは俺の顔を見て答えづらい表情をしているのが分かる。すると俺の横に座っている陽菜ちゃんの双子の弟、羽柴陽呂はしばひろ君が代わりに答えてくれた。


「俊哉君、実はね……マーサちゃんは織田さんと同じクラスでね、なかなか陽菜を応援してくれる人をつくれなかったんだよ。まぁ、俺からすれば、それは仕方の無い事だと思うし、別に気にしなくていいと思うんだけどね」


「き、気にするわよ!! いくら織田さんと同じクラスだからといっても数名くらいは陽菜ちゃんの味方にできると思っていたのに……なんかとても悔しくてさ……陽呂君の五組は全員、陽菜ちゃんに票を入れる約束が取れているんでしょ?」


「え? まぁ、そうだけどさ……俺のクラスはこれといって人気のある人がいないから票を集めやすかっただけだよ」


 いや、この陽呂君は結構、女子に人気があるはずだぞ。


 きっと、そんな陽呂君が陽菜ちゃんに票を入れて欲しいとお願いしたからみんな協力してくれる事になったんだと思うぞ……


 しかしアレだな?

 案外、黒田さんって真面目なんだなぁ……?


「マーサちゃん、なんか私の為に悔しい思いをさせちゃってゴメンね? でも大丈夫だから。そんな崩しにくいところを崩す為に中等部の美月みづきちゃんがいるんだから……」


 美月ちゃん? ああ、中等部の石田美月か……


 そういえば、投票権の無い中等部の子が何故、ここにいるのかよく分からなかったけど、やはり何か重要な役割があるんだな?


「美月ちゃん? マーサちゃんが安心できる様な報告はあるかしら?」


「はい、ありますよ。それでは簡単に報告させていただきましょうか?」


「うん、お願いするわ」


 この石田美月は一体、どんな報告をするのだろう……

 髪が水色ツインテール美少女、石田美月が怪しげな笑顔で口を開いた。


「黒田先輩? 二年一組の生徒さん達の中で中等部に弟や妹がいる人達が何名いるかご存じですか?」


「え? そんな事、私が知っているはず無いじゃない」


「そうですよねぇ……実はですね、一組四十名のうち半分の二十名の方に弟や妹、もしくは従妹などの身内が中等部に在学しているんです」


 えっ? そ、そんなにもいるのか?

 これは少し驚きの情報だな。


「それで、そのうち姉弟仲良しっていう人が十五名程いまして……更に弟や妹にお願いされると、ついつい聞いてしまう方が十名くらいおられるみたいです……」


「そ、それがどうしたのよ? そんな情報を知ったところで……あっ!?」


 黒田さんも石田さんが何を言おうとしているのか気付いたみたいだけど、さすがの俺も気付いてしまったぞ……


「黒田先輩、お分かりいただけたみたいですね? そうです。私は中等部副会長という事も有り私のお願いを聞いてくれる友人が多いんです。勿論、一組の生徒さん達の弟や妹とも……」


「って事は表向き織田さんの応援をしているけど、実際は十名程裏切る人が出てくるということなのね?」


「はい、そういう事です。まぁ、十名全員が絶対に陽菜様に投票するという保証はできませんが、少なくとも全員が織田会長の味方では無いということは間違いありません」


「ね? 美月ちゃんが何故ここにいるのか理解できたでしょ? だから心配しなくていいんだよぉ」


「そ、そうね……少しホッとしたわ……でも、まさか陽菜ちゃんがそんな作戦を考えていたなんて……ある意味、恐怖を感じてしまうわ……」


 同感だ!! さすがに幼馴染で昔から陽菜ちゃんの事を知っている俺でも引いてしまう作戦だな。


「陽呂君や宇喜多さんは、この作戦を知っていたのですか?」


「いや、知らなかったよ。でも、まぁ石田さんがいるって事はそういう事なんだろうなぁとは思っていたけどね」


 さすがは陽呂君だなぁ……


「ってことは石田さん、二年一組に限らず他のクラスも……」


「そうですよ。もう手は打っています!! だから今回の『学年人気投票』では陽菜様が一位になると私は信じています。そして秋の『生徒会長選挙』の際には全学年対象にこの作戦を実行しますので、間違いなく生徒会長になるのは陽菜様でしょう!!」


 この石田美月って子はマジで陽菜ちゃんを崇拝しているみたいだな。

 こんな子が来年、高等部に進級してくるって考えるだけで身震いしてきたぞ。


 ど、どうしよう?


 この作戦も颯や伊緒奈ちゃんに伝えるべきだろうか?


 石田さん曰く、もう手は打っているみたいだから今更、情報を流してもどうする事はできないかもしれないけど……一応、伝える必要はあるよな……





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


陽菜陣営に何故、中等部の石田美月がいるのかが分かり、驚く俊哉。

乃恵瑠よりも陽菜が優勢なったのか?

そして先での生徒会長選挙にも影響が出るのか?


『学年人気投票』まであと二日

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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