第113話 伊達魔冬の奇策

 【人気投票二週間前の片倉邸】


「はぁ……」


「ため息なんかついてどうしたの、魔冬?」


「うん……最近、長曾我部さんや島津さんの人気が急上昇しているみたいだから……当初は私と徳川さんとの一騎打ちだと思っていたのに……」


「まぁ、その二人の人気が上がってきたというよりもバックに毛利さんや武田さんがいるからだと思うんだけどねぇ……その二人は中等部の頃から根強い人気があったし崇拝している一年生も多いと思うわよ」


「だ、だから困っているんじゃない!!」


「まぁまぁ、魔冬……そんな事で怒らないでくれないかな? いつも冷静な魔冬なのに珍しいわねぇ?」


「そうだぞ、魔冬!! 今更、焦っても仕方が無いよ。それにその件も含めて話し合う為に今日は小町ちゃんの家に集まっているんだし……」


「でも、忍ちゃんだってさっきから何も良い案が浮かばないじゃない?」


「そりゃぁ、私は魔冬みたいに頭良く無いし、あんたや小町ちゃんに良い案が浮かばないのに私が浮かぶはず無いじゃん」


「うう……そ、それじゃぁ、蕾ちゃんはどう? 何か良い案は無いかな?」


「そうよね!? 蕾はアメリカで暮らしていた時にボーイフレンドがたくさんいたって言っていたし、魔冬が今以上に人気者になれる方法とかあるんじゃないの!?」


「そうですねぇ……まず一つお聞きしたいのですが……魔冬さんは生徒会長になれば全てが終わると思っておられるのですか?」


「えっ? そ、そうねぇ……生徒会長になった人が颯君とお付き合いできるのだから、それで終わりだと思っているけど……ち、違うの?」


「うーん……違うといいますか……私の考えですが今回、竹中君がそういった条件を出されたというのは違う見方をすれば告白した人の中に竹中君は、ずば抜けて好きな人がいなかったという事だと思うんです」


「うっ、そうかもしれないわね……本当に好きな人がいれば、こんな条件なんて出さなかったでしょうね。好きな人意外は断っていたかも……」


「はい、だから私の想像なんですが誰が生徒会長になっても、その人が竹中君とお付き合いする事になったとしても結局、竹中君がその人の事を本当に好きにならない限りうまくいかないと思うんです」


「言われてみればそうね……生徒会長になって颯君と付き合う事ができたそしても、それはゴールではなく場合によればスタートになってしまうと……」


「その通りです。私の中で『人気投票』なんて関係無いのではと思っています。まして生徒会長になってお付き合いできてもそれは始まりに過ぎないんです。相性が合わなければ直ぐに破局です。なので私から見て一番優勢なのは徳川さんと織田会長だと思っています。何故だかお分かりですか?」


「あ、私……蕾ちゃんが何を言おうとしているのか分かった気がするわ!!」


「さすが片倉先輩ですね? 魔冬さんはどうですか?」


「うーん……徳川さんは何となく分かるわ。颯君と同じクラスだし、委員長、副委員長の関係で一緒に行動する機会も多いし……お互いの性格が分かりやすいし……」


「それだけでは無いですよ」


「えっ?」


「竹中君のアルバイト先はどこですか?」


「あっ!? と、徳川さんの自宅だわ!!」


「そうです。徳川さんは学園以外でも竹中君と接触する機会が多いんですよ。って事は他の告白した人達よりも徳川さんに対して情が入ってしまうと思いませんか? そしてその情が徳川さんの努力次第で愛情に変わっていくということも……」


「うう……私としたことが……目先の勝利にこだわり過ぎていたようね? 織田会長が何故、優勢なのかも理解できたわ。要するに織田会長は颯君と同じ地元というのを利用して毎朝、一緒に通学しているから颯君に近い存在になれたって事よね?」


「そういう事です。理解していただけて嬉しいです」


「って事はアレね? 別に魔冬は人気投票や生徒会長にこだわる必要は無くて、もっと先の事を睨んで行動すべきなのよね!?」


「そういう事です、忍さん」


「フフフ……それなら話は早いわ。ってか、魔冬が取る行動なんて簡単よ!!」


「えっ? 小町ちゃん、何か良い案があるの?」


「うん、あるある~っ!! 本当は竹中君と付き合う条件が生徒会長って言われる前に考えていた案なんだけどねぇ、条件の事ばかり私も考えていたから言わなかったのよ」


「ど、どんな案なの……?」


「魔冬が竹中君に近づく事ができる最良の案よ!!」





 【学年人気投票一週間前の徳川邸】



「えっ? 今日から新しいメイドさんのアルバイトが来るんですか、春日さん?」


 もしかしてメイドさんって全員、アルバイトだったのか?


「そうよ。一人、産休に入る子が出たのよ。それで急遽、アルバイトを雇う事になったの……産休……ああ、羨ましいわねぇ……」


「そ、そうなんですかぁ……ん? 今、羨ましいって言わなかったか?」


 もしかして春日さん以外のメイドさんは既婚者なのかもしれないぞ。春日さんの目が凄く恨めしい感じがしているし……


「そ、それでどんな人が来られるんですか?」


「え? ああ、伊緒奈お嬢様や竹中君と同じ学園の一年生の子よ。たしか名前は……『イタチ』さんだったかしら?」


『イタチ』? 


珍しい苗字だな? それに俺と同級生の女子なのか? な、なんか緊張するよな……



「春日さん、今日アルバイトの子が来るんでしょ?」


「あっ、はいそうです、伊緒奈お嬢様……」


「今回は春日さんに面接等をお願いしたけど大丈夫かしら? 春日さんは珍しいモノ好きだし……」


「ハハハ、大丈夫ですよ。ご心配なく。『イタチ』という珍しい苗字なだけで顔もスタイルも良くて、それに礼儀正しいお嬢さんでしたよ」


「まぁ、それなら良いんだけど……え、イタチ??」


 え? 春日さんってしっかり者のイメージだけど、伊緒奈からすれば違うのか?



 ピーンポーン……


「あっ? 来たみたいですね。私が迎えに行かせてもらいます」


 ドキドキ……一体、どんな子が来るんだろう?


「連れて参りました。彼女が今日からメイドとして働いていただきます『イタチ』さんです」


「 「えっ!?」 」


 ま、ま、まさか……!?


「か、春日さん!? こ、こ、この子は……」


「えっ、どうされました、伊緒奈お嬢様?」


「フフフ……皆さん、これから宜しくお願い致します……」


「春日さん!! こ、この子は『イタチ』じゃなくて『伊達』って読むのよ!! 伊達魔冬よ!!」


 はぁ……伊達さんがバイト仲間になるなんて……


 不安な気持ちにしかなれないぞ……



―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


魔冬がバイト仲間!?

これは徳川邸でも修羅場の予感が……

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆


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