第95話 伊緒奈の告白

 俺は無事にデートを終えた。


 それも六回もだ!!


 普通、こんな短期間に六回もデートする奴なんていないよな!?

 まして、六回とも違う女性とだなんて……


 俺は一生分のデートをしてしまったんじゃないのか?


 はたから見ればめちゃくちゃ羨ましがられて当然の経験をしてしまったけど、俺からすれば寿命を削った思いだよ。


 はぁ、疲れたなぁ……でも……楽しかったという思いも残っているのはたしかだ。


 

 で、今は夜……


 こんな複雑な心境の俺は現在、何故か伊緒奈の自宅のテスト勉強によく使用している部屋にいる。


 勿論、伊緒奈一派も一緒だ。


 茂香さんと別れた直後に伊緒奈一派に囲まれここまで連れて来られたのだ。


「い、伊緒奈? い、今から何かするのかい? 俺、めちゃくちゃ腹が減っているから早く家に帰って夕飯を食べたいんだけど……」


「フフフ……まずは颯君、六回ものデートお疲れ様。それに他の人達もデートの監視お疲れ様……それで今から皆の労をねぎらう為に我が家で一緒にディナーをご馳走させてもらいたいの」


「えつ!?」


「うわーっ!! 伊緒奈さんのお家のご飯が頂けるのですか!? 颯君、これはとても幸せなことなのよ。伊緒奈さんのお家の料理は一流シェフが作るんだから!!」


「そ、そうなんだ……でも今夜は母さんが夕飯作っていると思うし……」


 頼む。めちゃくちゃ疲れているから今日は家に帰してくれよ?


「颯君、安心して。お母様にはコスプレ大会が始まる前に颯君の夕飯はいりませんからとラインしておいたから……」


「えーっ!? そ、そうなのかい!?」


 オイオイオイッ、伊緒奈さん!?


 あんた、いつの間に母さんとライン友達になっていたんだ!?




「うわぁああ、とっても美味しいわ~っ!! 春日さん、この料理は何て名前の料理なの?」


「ああ、これはタイ料理で『ヤム・タクライ・サムグルー・タイ・ターン』っていう料理よ」


「へ? へぇ……」


 プッ……太鳳、言えなんだな? まぁ、俺もだけど……


「ところで華子? まさか、お前があの『コスプレ大会』に出場しているとは思わなかったぞ!!」


 えっ? 服部さんが出場していたって?


「うん、ゴメンね……負けてしまって……」


「ちょっと華子? 負けた事を謝るのはおかしいんじゃないの?」


「え? 何で……?」


「まぁまぁ知由ちゃん、別に華ちゃんが『コスプレ大会』に出場したって構わないじゃない? 別にずっと颯君達のデートを監視しないといけない訳では無いんだし……ねぇ、伊緒奈さん?」


「うん、そうね。プライベート優先で良いし……それにしても華ちゃん、惜しかったわねぇ? 毛利さん達が出場していなかったら華ちゃんが優勝だったもんねぇ?」


「えっ?」


 ま、まさか……


「もしかして、あの『クノイちゃん』のコスプレをしていたのは服部さんだったのかい!?」


「うん、そうよ……颯君は『クノイちゃん』を知っているのね?」


「も、勿論だよ!! クノイちゃんは俺が二番目に好きなキャラなんだ!! そ、それにしても凄くクノイちゃんに似ていて可愛かったぞ!! す、凄いクオリティだよ!! ほんと惜しかったよなぁ……」


「あ、ありがとう……ポッ」


「あーっ!? 華ちゃんが照れている顔、私初めて見たかも!!」


「て、照れてないし……」


「本当だねぇ、太鳳ちゃん……それにしても颯さんは女の子を褒めるのがお上手ですねぇ? 今度、私も褒めて頂けませんか?」


「えっ!?」


「あっ!? 大人しい八雲が颯君には積極的になっているわ!!」


「酒井さん、それはどういう意味ですか?」


「えっ? な、なんで春日さん、そんな怖い顔をしているの? 私、変な事言ったかしら?」


「いえ別に……ね、伊緒奈お嬢様?」


「春日さん、何がね?よ!! 急に私に振らないでくれるかなぁ?」


「申し訳ございません……いずれにしても伊緒奈お嬢様? そろそろ『本題』に入られてはいかがですか?」


 本題? っていうか、伊緒奈の奴、まだ何か企んでいるのか!?


「そうね……そろそろ本題というか、颯君の『デート大会』を締めくくりましょうか」


 伊緒奈、デート大会っていう呼び方は止めて欲しいぞ!!


「い、伊緒奈? 締めくくりって……?」


「フフフ……今回のデートで颯君が皆さんに伝えたのは何だったかしら?」


「え? ああ、めちゃくちゃ恥ずかしいけど……俺と付き合う為の条件を伝えたけど……」


「だよね? 生徒会長、もしくは生徒会長になった人を応援した人と付き合うって伝えたよね? でも前に言った通り、今回の選挙で私が生徒会長になって颯君の『偽の恋人』になるって言ったじゃない?」


「ああ、そう言っていたよな……」


「でもね、このまま私が生徒会長になったとしても私と颯君とは『偽の恋人』にはなれないのよ……」


 え? 何でなれないんだ?


「あっそっか……このままではもし生徒会長になっても伊緒奈ちゃんは颯君と付き合えないわねぇ」


「さすが知由ちゃんね。そう、このままではダメなの。だから颯君、今から私が言う事を気楽な気持ちで聞いてちょうだいね?」


「え? ああ、聞くのは聞くけども……」


 伊緒奈は一体、俺に何を言う気なんだ?


「伊緒奈お嬢様、頑張ってください!!」


「もう、春日さんは黙ってて!! そ、それじゃぁ言うわね?」


「あ、ああ……」ゴクリ……


「た、竹中颯君……私はあなたの事を……とても優しいあなたの事を……中等部の頃から好きでした。だから私と……私とお付き合いしてもらえませんか? ポッ……」


 えっ?


「え――――――っ!!??」


「だ、だから気楽に聞いてちょうだいって言ったじゃない……今の告白はお芝居なの。私が颯君の事が好きだという設定にしないと私が生徒会長になっても他の人達が納得しないでしょ?」


「な、なるほど……そういう事かぁ……良く分かったよ……さすが伊緒奈だな?」


「で、でしょう!?」


「い、伊緒奈お嬢様……」


 しかし伊緒奈の奴、マジで芝居が上手いよな?


 一瞬、マジで告白してきたのかと勘違いしそうになってしまった自分がめちゃくちゃ恥ずかしいぜ……


 いずれにしても俺の『デート大会』……という呼び方は納得していないが、無事に終わったのは確かでしばらくは一安心だよなぁ……


 さぁ、明日から期末試験の勉強を頑張らなくては……




―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


これで長かった『デート編』は終了です。

次回から新章開始!!

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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