第9章 中間テスト編

第45話 平穏な日常

 『中庭の合戦』から一週間が経った。


 約束通り、織田会長達はあれから俺に何も言ってこない。


 高等部に進級してからこんなに平和な日々が続いたのは初めてだと思う。


 とりあえず来月中旬に行われる『中間テスト』まではこんな感じの生活ができると思うと俺は嬉しくてたまらない。


 こんなに嬉しいのに逆に家では妹の詩音しおんや母さんが中等部の頃の様に心配してくるのはおかしいだろ!?


 今の俺は充実しているんだぞ!!



 ただ、先週までと一つだけ変わらない事もある。


 それは徳川達と一緒に弁当を食べていることだ。


 これは俺としては不本意だし、いつの間にかそれに慣れてしまっている俺が恐ろしい事でもある。




「そういえば最近、颯君の周りが静かになった様な気がするよね?」


「えっ? ああ、そうだね……」


 徳川、お前はあの時、隠れながら最後まで見ていたんだろ?


 今の状況になった理由を全部知っているくせに、よくそんな何も知らないみたいな顔で言えるよな?


「この一週間、三年生も生徒会も何の動きも無いのは少し気味が悪いですよね?」


 本多、お前もかよ?

 本当は知っているんだろ?


 三年生と生徒会限定で言っている時点でおかしいだろ!?


 俺が学園の人気者三人に告白されて窮地に追い込まれたことを……


「でも颯!! あの三人はともかく、陽菜ちゃんだけはお前には譲らねぇからな!!」


「 「おい、こら、前田君!!」 」


 前田、お前はバカ正直な男だよな。

 そこがお前の長所でもあり短所でもあるけどな。


「もう、前田君!! 何で今、そんな事を言うのよ? せっかくこの一週間、上手く誤魔化せていたのにさぁ……」


「い、いや……誤魔化せて無いから……と、徳川さん達もあの時、廊下から隠れて中庭での状況を最後まで見ていたんだろ……? 俺、気付いていたしさ……」


「えーっ!? は、颯さん……私達が隠れていたのをご存じだったのですか!?」


「ほ、ほんと凄いな、颯は!? もしかして颯の先祖も『忍び』じゃないだろうな!?」


「忍び?」


 何言ってんだ、こいつは?


「そっかぁ……颯君にバレていたのなら仕方が無いわ。それじゃぁハッキリ言うけど、颯君モテモテだったねぇ? それも学園を代表する美少女三人から告白されるなんて凄いことだわ」


 ハッキリ言い過ぎだろ、徳川?


「で、ですよね!? でも、どうされるんですか? 中間テストが終わったら、またあの三人に言い寄られる可能性大ですけど……もし颯さんさえ良ければ華子と一緒に一人ずつ消していきますけど……」


 け、消すって何だよ!?

 お前、マジでヤバい奴なのか!?


 それに華子って誰? ん? 前にその名前を聞いた事があるような……


「太鳳ちゃん、その消すっていうのは止めてよね? 誰が聞いているか分からないし、それに太鳳ちゃんは今クラスの『風紀委員』なんだからね」


「も、申し訳ありません!! 私としたことが……」


「それにしてもさ、その『中庭の合戦』の時に伊緒奈ちゃんが言っていた事は本当なんだろうか?」


「えっ? 私、前田君に何か言ったかな?」


「イヤイヤイヤッ!! 俺の頭では収集出来ないくらいの情報量を提供してくれたじゃないか!? お陰で俺はこの一週間、それが気になって夜も八時間しか寝ていないから寝不足なんだよ!!」


 めちゃくちゃ良く寝ているだろうが!?

 ってか、俺よりも寝ているぞ!!


「それで前田君はどの情報が一番気になっているのかな?」


「ああ、俺が一番気になっているのは、もしかしたら陽菜ちゃんも颯の事が好きで、武田さん達が颯に告白した事を知れば陽菜ちゃんまで颯に告白してしまう可能性があるっていうことだよ!!」


「えーっ!?」


 さすがに俺は驚いた。

 

「ハハハ、そう言えば、そんな事も言ったわねぇ……まぁ可能性があるっていうのはそうなんだけど、でもあれから羽柴さんは颯君に何も言ってこないんでしょ?」


「え? ああ、何も言ってこないどころか、あれから全然顔も見てないよ……」


「前田君、良かったわね? ひとまず安心じゃない。でも羽柴さんと言えば、織田会長が次の選挙に立候補せずに羽柴さんを次の会長に推すみたいなことを言っていたけど、どうなったんだろうねぇ……?」


 そう言えば、織田会長……羽柴副会長に会長になってもらうって言っていたよな。


 でも前に保健室で羽柴副会長は織田会長の為に色々と考えているみたいだったから、そう簡単に次の選挙で自分が立候補はしないと思うんだけどなぁ……


 そんな会話をしながら昼食の時間は過ぎていく。


 そして俺は昼食が終わると直ぐに静かに勉強する為に『図書室』へと向かう。


 この一週間、俺はこの生活を繰り返していた。


 先週までの徳川達だったら一緒に行くって言っていたかもしれないが、さすがに今は俺の勉強の邪魔になる様なことはしない。


 ほんと、高校生になってから学校の授業をまともな精神で受ける事が出来なかった俺にとっては図書室での勉強は遅れを取戻す絶好の場所だ。



 ガラッ…ガラガラッ


 俺はここ数日、入って一番奥の窓側の席でたまに外を眺めながら勉強をしていたが、今日は先客がいたようだ。


 そして、その先客は俺の知っている人だった。


 その人がかけているメガネは太陽の光が当たり、そこから反射して身体全体が輝いている様に見える。


 また、少し空いている窓から吹いてくるそよ風に綺麗な銀髪の長い髪がサラサラとなびいていた。


 そう、その席に座っていたのは『投票部』の天海あまみさんだった。







―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


ようやく平穏な日常を取り戻した颯


ただ、相変わらず徳川達と昼食は不本意ながらとっていたが、それに慣れてきている自分にも気付いてはいた。


昼食後、勉強する為に図書室に向かう颯だったが、いつもの席に知っている顔の人がいた。


ということで次回もお楽しみに(^_-)-☆




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