お見通し冒険者は出直します

竹広木介

第1話 追放者

 


 ある日の夜、冒険者としての活動を終え、ギルドハウスに帰るとギルドマスターであり、所属するパーティーのリーダーでもあるルーイの部屋に呼ばれていた。


「おう!ジグルス。やっと来たか。今日限りでお前はこのギルドを抜けてもらうことになったから」


 金髪で容姿は整っている。その顔で女たちを虜にしてきたルーイは俺が入るなり笑みを浮かべながら用件を単刀直入に言い放つ。


 は?


「何だよそれ。こんな急に抜けてもらうって。どういうことだよ!」


 俺は反論するが、ルーイは笑い続ける。


「新しいタンクが見つかったんだよ。お前は用済みになったってこと」


「さんざんこき使っておいてそんないきなり!」


 俺はこのパーティーに入ってから雑用と最前衛でタンクとして敵の攻撃、それに加えてルーイが他のパーティーメンバーの巨乳達を楽しませる道具として使われていた。


 というのも俺が魔物の攻撃をガードしている時に下位の攻撃魔法を放ち、どれだけギリギリで方向転換させられるかというゲームを行なっている。


 一度は魔法操作能力を自慢するように上手く敵に当てるが二度目はわざと俺の背中にヒットさせ、ルーイは笑う。下位魔法とは言え普通に痛い。


「こき使っておいてって、そんな言い方ないだろ。お前みたいな田舎生まれで魔法も使えない小物を雇ってやってたんだから感謝して欲しいな。そうだろ?お前ら」


 小物とはなんの才能もない奴をバカにする呼称だ。


 はいはい、ダメダメでも力強く生きてますよ。


 ルーイが座る後ろには同じパーティーメンバーがいた。一人はルーイの専属メイドでもあるライラ・アンバール、金髪神官のシーア・マクロント、クールな魔法使いミア・マグカップ。


 その三人はルーイの好みである美人で巨乳だ。ルーイの女のタイプはおそらく巨乳だろう。その証拠にこのギルドのメンバーはほとんどがその類である。


 椅子に座るルーイの肩に大きな胸を乗せているパーティーメンバーの一人であるシーアは神官らしからぬ布の少ない装いでルーイにアピールする。


「そうよ! 『ありがとうございました』でしょ」

 当然彼女はルーイ側の人間だ。


「ルーイ様、紅茶が出来ましたよ。どうぞ」


 メイドのライラは一年同じパーティーである俺の名前を知っているのかどうかも不思議なほどルーイにしか興味がない。


 もう一人のメンバー、ミアは一ヶ月ほど前に入った新入りで元々は他のパーティーにいたがルーイが金の力を使い無理矢理引き抜いたのだ。彼女は誰とも顔を合わせようともしないが怪訝そうな顔でルーイの言葉を無視する。


「まったく、感謝の一つも出来ないのか?これだから田舎野郎は!」

 ルーイはため息を吐き、首を振る。


 感謝?感謝だと?

「分かったよ!こっちこそこんな所にもう用はない。今までありがとうございました!」


 と迷った末、提案通り感謝の言葉を言った。


 ミアがその言葉に反応して俺の顔を伺っているのに気付いたが意図は読めなかった。


 ミアには悪いがこんな所にはいられない。部屋を抜け、ギルドの廊下に急ぐ。


「これからの人生楽しめよー」


 貴族であるルーイは嫌な笑みを浮かべながら見送っているのが廊下に出た時、横目で見えてしまった。


 ふざけるな。俺がいったい何をしたって言うんだ。……まあでも解約金を払わずに抜けられるのは助かった。


「はぁー。良いことなんてこれくらいか」


 ルーイのギルドを抜ける際は普通、解約金を払わなければならない。これが高い。


 そしてギルドを抜けるにはもう一つ、ルーイから直々に解雇を宣告された時だ。その時は解約金を払う必要はない。その代わりありもしない悪評を冒険者や街の人にばら撒かれる。


 これがこんなパーティーを一年も辞めずにいた理由。


 ルーイは六大貴族の一角を担うアレマン家の三男であり、その地位を使いこんなことが出来ている。


「貴族だからって調子に乗るんじゃねー」


 とギルドを出てから誰にでもなく口から出ていた。


 この日、俺はパーティーを追放され、無職になりました。


 

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