三日で終わる異世界召喚!

熊雑草

三日で終わる異世界召喚!

 それは待ちわびた瞬間だった。

 神の手違い、神の気まぐれ、望みの条件を与えられての人生のやり直し。

 オタク風の彼は、その特権を手に入れた。

「私の作った世界をあるべき姿に修正して欲しいのだ」

 とある世界の神からの依頼だった。

 テンプレのようなセリフを聞いた瞬間、彼は『あっ、これ来たんじゃね?』とにやけそうになる顔を必死に抑えて内心ウハウハになっていた。

 それとなく迷惑そうな雰囲気を醸し出しつつ、彼は口を開く。

「そんな勝手なことを言われても……。俺は何の取り柄もない人間なのに……」

 とある世界の神は笑みを浮かべながら告げる。

「もちろん、ただで送り出すようなことはしない。君には望むままの特別なスキルを最高100個付けて、何不自由なく過ごせるようにしよう」

 神様からのボーナスに、彼のテンションは爆上がりだった。

(よっしゃーっ! 人生のボーナスステージきたーっ!)

 内心浮かれていることを気取られないように彼はクールを装い、それとなく召喚される世界がRPG風のスキルとレベリングがあることを神様から聞き出し、嬉々としてスキルを獲得していった。

 ◆習得経験値1000倍

 ◆レベルアップボーナス1000倍

 ◆戦闘時の痛覚無効

 ◆神剣技習得レベルMAX

 ◆神槍技習得レベルMAX

 ◆神弓技習得レベルMAX

 ◆毒耐性

 ◆麻痺耐性

 ◆即死耐性

 ◆全魔法習得

 ◆新魔法開発

 ◆魔物飼育レベルMAX

 ◆鑑定眼MAX

 ◆HP自動回復補正MAX

 ◆MP自動回復補正MAX

 ◆言語理解(会話)

 ◆言語理解(筆記)

 etc...


 そして、知りうる限り、思いつく限りのスキルを身につけ、彼は新しい未知なる世界へと旅立っていった。


 …


 召喚されたのは魔法使い100人を使って勇者を呼び出した大国だった。

 この世界では強すぎる魔族の王に反旗を翻す手段は皆無だった。

 そのための異世界からの勇者召喚……。

 そのための最後の禁忌……。

 彼は見たこともない歓迎でもてなされ、魔族の王を倒して世界に安寧を齎すことをその国の王に依頼された。


 ここでも彼は、自分は大したことないアピールを王にしたが、その実は魔族の王の討伐など容易いヌルゲーだと内心では思っていた。

 なぜなら、彼には100個の特別なスキルがある。

 もてなしの後、近くの森で試しに低級モンスターを1体倒しただけで彼のレベルは限界突破し、レベルアップボーナスでこの世界で最強のステータスを獲得した。

「もう、思うがままだ! 神様、ありがとう!」

 そう叫び、高らかに笑い、彼の頭の脳内麻薬が溢れかえった。

 思い通りのバラ色の人生に笑いが止まらなかった。



 ――しかし、彼は三日後に死んだ。



 100個のスキルを身につけ、何者も辿り着けない到達点に達し、思うが儘になったはずなのに……。


 …


 未知なる世界召喚されるということは、未知なる病原体も存在するということ。

 彼は地球人の抗体に対応しない病原体に侵され、あっけなく死んでしまった。


 病原体はモンスターではないから倒せない。

 病原体は毒ではないから無効化できない。

 病原体は戦闘スキルでは殺せない。

 この世界の薬は、彼には何の効果もない。


 もし、彼に落ち度があるとすれば、スキル獲得時に"病気の感染無効"を付け忘れたことだろう。

 こうして彼の異世界召喚は三日で終わった。

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