第9話 期末試験の前哨戦③

「これは、私たちが中2の時のこと。私たちはみんな、この頃アニメの魅力を知ってアニメを好きになったの。そして、声優さんの武道館でのバンドライブに行って、そのかっこよさに一瞬で虜になった。それで、その声優さん達みたいにかっこよく演奏したいと思ったのがキッカケでそれぞれ楽器を始めたの。そして、この学校に入学してこの軽音楽部に入部した。そこで、私たちは完全に意気投合してバンドを組むことにしたの。」


「そっか。バンドで叶えたい夢って何かあるの?」


「夢...。あるよ...。いつか、武道館に立って演奏したい。そこで、私たちの...。"私たちだけの"音楽を奏でたい...!それが私たちのバンドとしての夢。そして、それを流れ星に祈った。だから、バンド名が流れ星って意味の"Shooting Star"なんだ。」


「そっか!明確な夢もあるんだね!」


俺は彼女たちを羨ましいと思った。自分の仲間と"同じ夢"を追えるのだから。俺には幼なじみの女の子がいた。その子は、ピアノを習っていた。その子の伴奏に合わせながら一緒に歌を歌ったりしていて、大きくなったら、一緒に音楽をやろうと約束していた。"同じ夢"を持っていたんだ。だけど、俺の両親は離婚することになり、その時俺と妹はお袋に連れられて家を出た。あまりに急すぎて俺はその子に別れを告げることが出来なかった。いや、自ら告げなかったんだ。きっと...もう会えないことが分かっていたから。それが悲しくて、現実から目を背けたかったから。


「武道館に立ちたいっていう夢を叶えるにはどうしたらいいと思う?」


「えっ...?そ、それは...。周りの人達に実力を認めてもらえば...。」


「そうだよね!その第一歩が、スクールバンドフェスに出て、成果を挙げることなんじゃないかな?今、みんなは恐れているよね。スクールバンドフェスに出て、過去の先輩たちみたいになってしまうんじゃないかって。でもさ、前に進まないと何も変わらないと思うんだ。このまま恐れて立ち止まっていても、武道館という夢は叶えられない。みんなの技術は本当に凄いし、もっと自信を持っていいんじゃないかな?それに、もしも打ちのめされたとしても俺がいる。俺がみんなを支える。それが、マネージャーでしょ?」


「ふふ。そうだね。ありがとう。勇気が出てきたよ。みんな、スクールバンドフェス。出よう!私たちの夢の第一歩としてまずは部を復活させよう!」


この時の天王寺さんの顔はすごくたくましかった。自信に満ち溢れていて、支えてあげたいと思った。


「リーダーが言うんだから頑張んないとね!」


楠木さんがそう言うと俯いていた他のメンバーたちも顔を上げ、笑っていた。


「よし、じゃあ決まりだね!スクールバンドフェスに向けて頑張ろう!えいえい!」


「「「「「「おー!!」」」」」」


俺の掛け声と共にみんなが手を挙げ、気合いを入れる。


「あっ、そういえばスクールバンドフェスっていつなの?」


「3月の13と14だよ。」


「あと2ヶ月くらいか。時間は短いから今日から頑張らないとね!」


俺は再度気合いを入れる。


「・・・。小林君...。何か忘れてない?」


「えっ?何か忘れてる?」


天王寺さんに聞かれた俺の頭の中には?が浮かんでいた。それを見た5人は呆れたような表情をしている。


「小林くん...。再試験と期末試験のこと...。忘れてないよね...?」


「あっ。」


緒方に言われ思い出した。


「やっぱり忘れてた...。そもそもこの話は、小林君が勉強を教えて欲しいってとこから始まってるんですよ!」


そう言われるとそうだった。せっかく忘れていたのに、思い出してしまった。みんながバンドを頑張る前に、まずは俺が勉強を頑張らなきゃいけなかったんだ。


「まぁ、今日から再試験、そして期末試験までみっちり教えてあげるから。覚悟しときなよ?」


楠木さんが、今までにない最高の笑顔で言う。怖い。怖すぎる。だが、逃げ出すことはできない。みんなに頑張ってとか散々言ったんだから、俺だって勉強を頑張らなきゃだ。こうして、俺の試験勉強が幕を開けたのであった。





第10話 「期末試験前の前哨戦④」に続く。

次回更新は、2月27日(土)の予定です。

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