第8話 期末試験の前哨戦②

「あ、あのマネージャーって何するんですか?」


「ほとんど運動部のマネージャーみたいな感じで、私たちのバンド活動のサポートが主な活動かな。今、私たちは軽音楽部としてこの5人で活動してるの。」


「えっ?でも、部員が6人以上いないと部として認められないんじゃ?」


「そうなんだけどね。この部活は、去年卒業した先輩から受け継いだもので...。今までは部室が足りていたから私たちも部室を使って、部として活動していられたんだけど...。新たに漫画研究同好会が部として認められて、部員が足りていない私たちは軽音楽同好会に格下げになって部室を空け渡すことになっちゃって...。だから、小林君がマネージャーとして入部してくれれば、部員が6人になってそれを阻止できると思ったんだけど...。ダメかな?」


最初、"マネージャー"と聞いた時は正直驚いた。だが、そんな深い事情があったなんて思いもしなかった。


「でも、昨日話したばっかりの俺なんかでいいんですか?」


「小林君は、アニメも好きだし、バンドの知識もありそうだから、全然ウェルカムだよ!」


「それで、勉強を教えてもらえるなら!マネージャー、引き受けます!」


「ありがとう。それじゃ、入部希望用紙にサインしてもらえる?」


こうして俺は、入部希望用紙に自分の学年・出席番号・名前を記入した。


「よし!それじゃ、早速今日の昼休みに生徒会長の所に持っていこう!」


〜昼休み〜


「失礼します。生徒会長に用事があって来ました。」


「あら、あなた達は、軽音楽同好会の皆さんと...。同じクラスの小林君ね。珍しい組み合わせだけど、何の用かしら?」


こう話すこの人は生徒会長の清水 莉子(しみず りこ)さん。ちなみに、俺たちと同じ2年生だ。


「これを提出しに来ました。」


そう言って、天王寺さんは入部希望用紙を清水さんに手渡した。


「入部希望?」


「はい。これで部員は6人。これで、部として認められるので部室を開け渡さなくてもいいですよね?」


「そうね。念の為に確認しておくけれど、小林君。あなたは部員数の調整や強要によってではなく、自分の意思によって入部を希望していますか?」


清水さんが俺に聞いてくる。


「はい!僕の意思です。」


俺は真剣な表情で答える。


「分かったわ。再度、部として活動することを認めます。よって、部室の開け渡しもなしとします。」


清水さんも部としての復帰を認めてくれた。これで、万事解決だろうと思った。しかし、そう上手くは事は運ばなかった。


「ただ、一つ条件があります。年度末に部活動成果発表会があるのは知っていますよね?それまでに何か成果を挙げてください。例えば、運動部なら地区大会優勝などですね。元々、部員数が足りないから格下げということですが、言葉を悪くすると、部である必要がないと判断したから格下げという結論に至ったんです。ですから、何らかの成果を挙げ、部である必要があることを証明してください。ほかの部は全て何らかの成果を挙げています。それが証明できれば、今後も正式に部としての活動を認めます。よろしいですね?」


「分かりました。では、失礼しました。」


そう言って、俺たちは生徒会室を後にする。


「何かしらの成果...。高校生バンドの大会みたいなのってあるんですか?」


俺は、率直な疑問を投げかけた。部として何らかの成果を挙げるなら大会で実力を示すことが手っ取り早いだろう。


「高校生バンドの大会...。あるよ。School Band Fes(スクールバンドフェス)。全国から実力ある高校生バンドが集いその実力を競い合う大会。」


「あるんだ!じゃあ、出ようよ!スクールバンドフェス!」


俺が言った時、他の5人が全員俯いて暗い表情になる。


「あ、あのさ...。何かあったの?話したくなければ、話さなくてもいいんだけど...。」


「小林君は私たちのマネージャーだから。何があったのか。全部話すよ...。」


「私たちは元々中学生の時から個々で楽器をやったり色々なバンドのサポートとして演奏をしていたの。高校に入ってからは2年生の先輩たちのかっこよさに憧れて、この軽音楽部に入部したの。そして、その先輩たちはスクールバンドフェスに出場した。だけど...。結果は、予選落ち。結局、先輩たちはそのまま3年生になって部活を辞めていったの。」


「そんなことが...。」


「先輩たちは決して実力が無いわけじゃなかった。私たちよりも上手で凄い先輩たちだった。そんな憧れの先輩たちが全国に打ちのめされて帰ってきた時の姿...。今でも、トラウマになってる。だから、私たちもそうなっちゃうんじゃないかって思ったら踏み出せなくて。」


「そうだったんだ...。一つだけ聞いてもいい?みんなは、中学の時から楽器をやってたんだよね?どうしてバンドを始めたの?」


「私たちが...バンドを始めた理由...?」





第9話 「期末試験の前哨戦③」に続く。

次回更新は2月19日(金)の予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る