第11話

 2-3の教室は朝から騒がしい。

 ゲラゲラと笑う声に、女子の甲高い笑い声。ふざけ合う声。

 その中で、俺の机の周りに集まった奴らが、うわさ話に花を咲かせていた。

「おい、聞いたか」

「何を?」

「マルの奴、また新しい彼女作ったんだってさ」

 椅子に座って、その会話をぼんやりと聞いていた。

 マルとは、丸山悠生ゆうき。小中高とずっと一緒の幼馴染。

「その彼女がさ、三年の相田さんなんだってさ」

「えー、あの人が、彼女かー! いいな、俺もあんな彼女なら欲しい」


 ガタンと席を立った。

「お、ジョーどこ行くんだ?」

「便所」

「じゃあ、俺が席、あっためておいてやるよ」

「へいへい、ありがとさん」

と、手を振って、教室を出た。


 戸を開けた所で、バッタリと噂の人物と出くわした。

「ジョー、はよ」

 爽やかな笑みに、柔らかい声。

「ああ」

 彼の隣を通り過ぎようとした時だった。


「ちょっと来て」


 そう言うと、俺の腕を掴み、人気のないオープンスペースまで引っ張って行った。

 まだ教室に入っていないのだろう、黒のリュックを背負っている。

 掴まれた腕が痛い。見た目は華奢なくせに、力が強い。腹は六つに割れているのが無性に腹が立つ。


「怒ってる?」

「怒ってる? 見てわかれよ」


「だよね。でも、相田先輩には言ったんだよ」


「……!」


 勢い良く振り向く俺に、マルは笑った。


「言ったのか?」

「だって、言わなかったらいつまでも口説かれそうだったから。前に先手打った」

「……。ん? ならなんで、付き合ったんだよ」


 マルはモテる。これまでにも付き合った女子は数知れず。

 けれど、手は出さないことで有名だった。

 誰が、先にマルを落とすか。そんな賭けもあった。


そのマルを落としたのは、俺だ。


 とっかえひっかえ彼女を変えるマルを落とすのは容易ではなかった。

 今も、半信半疑だ。

 現に彼女を作っている。俺は、一体何なんだよ?

 それに、俺との関係を言ったって?言ったのか!

 マルを凝視していると、可笑しそうに笑った。


「隠れ蓑にどうぞ、だってさ」

「相田先輩はそれでいいのかよ?」

「先輩もいろいろあるんだってさ。それに、ジョーならいいって太鼓判押された」

「ハハハ」

 乾いた笑いが出た。


「嫉妬してくれた?」

「……」

 覗き込むように見られて顔を背ける。

「一言、相談しようとか思わなかったのかよ」

 つい、口調がとんがる。

 急に首にマルが腕を巻き付けてきた。ぐっと重みが増し頭が下がる。

「手を出したくなるのはジョーだけなのに」

自信ないの?と耳元で甘い声で囁かれ、カッと顔が熱くなる。



 ああ、俺はどうしてこんなにも奴のこの声に弱いのか。

 朝からムラっとさせるこいつがニクイ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る