第2話
時田と佐々原は、向かいあったのマンションに住んでいる。
その事を知ったのはたまたまだった。
初めての上京。
初めての独り暮らし。
初めての社会人。
時田にとって総てが初めてで、戸惑いばかりの4月。
入社しても、すぐには戦力にはなれない。
まずは、研修から。
本社ではない別の支社へと出向いた先にいたのが、4つ上の佐々原だった。
初めて見た時は、
俺より若い!まだ、学生じゃん!
と、驚いた。
時田の前に、若いと思っていた佐々原が課長の隣に立った。
てっきり同期かと思っていたら、なんと、時田の教育係だと紹介された。
童顔の佐々原を意外な顔で見ていると、クスクスと笑った。
黙っていると大学生。笑った顔はもっと幼くて、高校生に見えた。
前髪を降ろしているせいもあるかもしれない。
スーツが制服にみえる。
なんて軽口なんて叩けないので、口をつぐんだ。
「佐々原くんだっけ」
「あ、はい」
「俺の事、子どもっぽいって思ったんじゃないの?」
「え、い、いえ」
どもりながら否定したけれど、相手には、筒抜けらしい。ニヤリと笑われた。
その顔がとても良くて、時田は思わず、
「かわいいと思います……」
と言うと、目の前にある顔が固まった。
その佐々原を見て、自分が何を言ってしまったのかを気づいた。
「あっ!す、すみません!!い、いや、その、幼く見えるのは、いいって意味で言って……、えっと……」
焦りで自分で何を言っているのか分からなくなっている時田に、佐々原の固まった顔が緩んだ。その緩んだ顔がとても大人に見えて、時田は目を
いろんな顔を見せる佐々原。
高校生に見える時もあれば、グンと大人に見える時もある。
気付けば、惹かれていた。
営業で外回りに同行して、昼飯を一緒にとっていた時の事だ。
「時田、今日は残業なしか?」
「え?もち、ありますよ!定時なんて無理です」
入社して以来、憶える事、記録する事、まとめる事が多すぎて、外回りから帰ってきた後はずっとパソコンとにらめっこの毎日だった。
「今日は、残業しないで帰るか」
「いや無理ですって」
「いいから、いいから。俺に任せとけって」
笑う佐々原の、茶目っ気たっぷりな笑みとは反対な頼もしい言葉に、時田は頷いた。
「家どこよ?」
と、聞く佐々原。
降りる駅と、住んでいる住所を言うと、
「俺も同じ。○○マンション」
と告げるられ、そのマンションの名前を時田は知っていた。
自分の住むアパートから見えるそのマンションを、羨まし気に見ていたから。
いつか、あんなマンションに住めたらいいと思っていた。
そのマンションに住んでいると知って驚いた。
比べられるかも知れないと、複雑な思いもあったけれど、時田は自分のアパート名を言った。
「ちか!!目の前か!」
嬉しそうに笑う佐々原を見ていると、しこりが少しずつとけていくのを感じた。
佐々原と一緒に社内に戻ると、同じ部署の矢田に声をかけていた。
定時の時間が迫ると、矢田が時田の隣に座る。
「帰れな」
「え?でも、これ仕上げないと」
「明日、早く来たらいい。開けておく。佐々原がメールするっていってたぞ。ほら、帰れって」
半分は押し出されるように会社を出た。
携帯を見ると、確かに佐々原からLINEが入っていた。
クリックすると、
『たまには一緒に帰ろう』
という文字と一緒に、佐々原がいる場所が記されていた。
口元が緩んでいくのを感じながら、佐々原がいる場所へと急ぎ向かった――。
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