第150話 魔法少女の縄張り意識

 『ウバウンデス』の怪人を探す。そう意気込んで街へ戻ってきたはいいものの、見つけたい時に限って見つからねぇのが怪人ってやつだ。

 魔法少女掲示板のアプリにもめぼしい情報は無かったしな。

 行き交う奴らも呑気な面して歩いてやがる。


「見つからないねぇ」

「平和でいいじゃない。問題なんて起きない方がいいんだから」

「そりゃそうなんだけどさ。あんな動画見た後だと、なんか拍子抜けっていうか」

「ふふ、血気盛んなことね。でも、そうやって油断してるといつか足下掬われるわよ」

「わかってるってば」


 呑気な会話をしながら、周囲への警戒は緩めてない。

 だがいるだけで目立つオレ達魔法少女に視線が向かないのは、認識阻害の魔法を使ってるからだ。

 そのまま街の中を歩いてると目立ってしょうがないからな。自慢ってわけじゃねぇけど、オレらはニュースなんかで取り上げられて注目されたりしたからな。

 オレは見てねぇけど、あのオウガの襲撃も後で取り上げられたらしいし。あの一件でさらに注目を浴びることになったわけだ。

 まぁ別にそこまで気にするようなことでもねぇんだが。


「それにしてもなんか変な感じだよね。平日の昼間に魔法少女としてブルーと一緒に行動してるなんて。少し前の自分に言ったら絶対信じない」

「それは私にしても同じことよ。まさかこんな風にあなたと一緒に何かをする日が来るなんて、考えもしなかったわ」

「だよねぇ」


 一匹狼を気取ってたわけでもねぇが、オレもブルーもどっちかっていうと一人で動くのが楽なタイプだ。ましてやオレは男だからな。万が一にでも誰かと一緒にやってそれがバレるわけにもいかねぇ。

 そういう意味じゃ、正体を知ってるブルーもイエローも、一緒に行動するのはちょうどいいのかもしれねぇ。

 って別に一緒に行動したいわけじゃねぇ! あくまで苦肉の策だ。

 なんかもうことごとくフュンフの思い通りに進んでるような気がしてならねぇ。業腹だ。


「うーん、いっそ別の街にでも行ってみる? もしかしたら見つかるかもしれないよ」

「それは避けた方がいいでしょう。下手をすれば他の魔法少女の縄張りを侵すことになりかねないわ」

「縄張りって……」

「私達がこの魔法ヶ沢市を中心に活動しているように、他の魔法少女にもホームと呼べる場所があるわ。もちろん中にはそういった場所を持たずに活動している魔法少女もいるけれど。とにかく、拠点を持つ魔法少女の中には自分のホームとしている場所に他の魔法少女が来るのを嫌がる人達もいるのよ。文句を言われるだけならまだしも、中には武力行使してくる魔法少女もいるわ」

「そこまでっ!?」

「それだけ縄張り意識のある魔法少女がいるということよ。私も馬鹿らしいとは思うけどね」

「そうだね。やぶ蛇になっても嫌だし。ねぇ、これまで魔法ヶ沢市を活動拠点にしてる魔法少女はいなかったの?」

「過去には居たみたいだけれど。今はいないみたいよ」

「……そっか」


 過去には居た。だとしたらそいつは……。


「ってやめやめ! とりあえず、魔法ヶ沢市内で探すしかないね。一通り見回って見つからないなら今日はそれまでってことで」

「そうね。こうして変身した状態で歩くだけでも多少はリハビリになるでしょうし」


 オレ達はただ漫然と歩いてるわけじゃない。認識阻害の魔法に、探知の魔法、他にも使えそうな魔法は全部使ってる。

 怪人を探すためだけじゃない。魔法を使う感覚を取り戻すためだ。一ヶ月も魔法を使ってなかったらどうしても鈍るからな。

 そんな状態でいきなり怪人と戦うなんてできるわけがねぇ。


「どう? 何か見つかった?」

「……ううん、どうにも探知の魔法って苦手で。範囲だけなら自信はあるんだけど」

「その気になれば魔法ヶ沢全域でも範囲に収められるんじゃない?」

「どうだろ。もうちょっと慣れれば……いや、さすがに厳しいかな。試してみないことにはなんとも」

「……冗談だったのだけど。とことん魔力量だけはバカね」

「だからその言い方――っ?」

「どうしたの?」

「今、東の方に何か引っかかった気がする。結構遠いけど」

「東ね。ちょっと待って。私もそっちに探知の範囲を広げるから」


 ブルーよりも広範囲に広げていたオレの探知に、一瞬何かが引っかかった。怪人かどうかはわからねぇけど、普通に人間の動きじゃ無かった。

 

「ビンゴよ。この反応、怪人だわ」

「ホント? まさかとは思ったけど」

「もう完全に捕らえたわ。野良怪人かそれとも『ウバウンデス』の怪人か。どっちかわからないけれど、まぁそれも会ってみてのお楽しみでしょう」

「急にめっちゃやる気じゃん」

「失礼ね。私はもとからやる気よ」

「それじゃあ早い者勝ちだね」

「そうね。そうしましょう」

「言ったね。じゃあお先っ!」

「あ、待ちなさい!」


 言質を取ると同時に先んじて動き始める。

 そんなオレから一瞬遅れてブルーも動き始めた。

 そしてオレ達は競争しながら、怪人の元へと向かった。

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