第145話 グリモワール内の騒ぎ
「ったく、何が悲しくてこいつと一緒に行動しなきゃいけねぇんだ」
「聞こえてるわよ」
「聞こえるように言ってんだよ」
「あなた、そういうところ本当に可愛げが無いわね」
「はっ、そいつは悪かったな」
家に着いたオレは荷物を置いて『グリモワール』へ行く準備をしていた。
青嵐寺の奴も一緒だ。文句を言ったところでどうなるってわけでもねぇが、それでも文句の一つや二つ言いたくなるってもんだ。
「そういやなんだかんだ変身すんのも一ヶ月ぶりか」
「言われればそうね。入院している間は変身することを禁止されていたし」
リハビリしてる間も変身だけは禁止だった。青嵐寺の奴は魔力回路とやらがやられてたらしいから尚更だったんだろうな。
「ラブリィチェンジ」
変身することに対する忌避感が完全に無くなったわけじゃねぇが、それでも前よりマシになった。
なぜなら、あのフュンフにかけられてた呪いみてぇな言語縛りが無くなったからな!
あの言語縛りのせいでオレがどんだけ喋り難かったか。
後はこの変身の文言さえなんとかできりゃ文句ねぇんだが。
久しぶりの変身する感覚。
視界も低くなって、手も足も自分じゃねぇみたいに華奢になる。
それでも内から溢れる力は変身する前とは比べものにならねぇほどだ。
「ふふん、私はもう自由なんだから! って、あれぇ!?」
な、なんでだ?!
なんでまだ喋りがこんなことになってんだよ!
「あら、やっぱり元に戻ったのね」
「どういうこと!? なにか知ってるの?!」
「詳しく知っているわけじゃないけれど。でも前回の戦いの最後、あなたの枷が解けたのはあくまで一時的なものだったんでしょう」
「一時的?」
「えぇ、爆発的に高まった魔力が枷を壊した。そんなところでしょう。そしてこの休養の間に枷が復活したんでしょう。あの力はあくまで一時的。今もあの時ほどの力を出せるわけじゃないでしょう」
「うっ、それは……」
言われれば確かに。あの最後のオウガとの殴り合い。あれは火事場の馬鹿力とでも言えるもんだ。あれと同じことが今できるかって聞かれたらまず無理だ。
「つまり……あの時と同じレベルの力を身につけないと、この枷はずっと……」
「かけられたままでしょうね」
「い」
「い?」
「い、いやぁあああああああああっっ!! やっと自由になれたと思ったのにぃ!!」
「そんな悲鳴をあげるほど。よっぽど嫌だったのね。女の子らしくて良いと思うけど」
「女の子らしいとか言われても全然嬉しくないから!」
「ふふっ、まぁ今さら文句を言ってもしょうがないでしょう。それよりも解ける可能性があるとわかっただけ儲けものでしょ」
「そうかもしれないけどぉ」
クソ、この喋りが抑制される感覚。マジで気分が悪い。
せっかく解放されたの思ったのによぉ。ちくしょうが。また振り出しじゃねぇか。
「戻っちゃったものは仕方ないでしょ。そんな態度のままの方が男らしくないわよ」
「わかってるよ。次にフュンフ見つけたら絶対文句言ってやる」
「その意気よ。それじゃあ行きましょうか」
「……うん」
内から溢れるフュンフへの怒りをグッと堪えて『グリモワール』への転移石を起動する。
光が全身を包み込み、次の瞬間にはオレ達は『グリモワール』へと転移していた。
「ん、無事に着いた……かな。久しぶりに使うからちょっと心配だったけど」
「そうね。ちゃんと起動したみたい」
「……なんだか騒がしくない?」
「そうね。いつも慌ただしい場所だけど、今日はいつも以上に慌ただしいというか」
いつもよりも飛び交ってる魔法少女の数が多い気がする。それに魔法少女だけじゃねぇ。
『グリモワール』に勤めてる職員も慌てた様子で走り回ってた。
「何かあったのかな」
「さぁ。わからないけど。とにかく教官達の元へ行ってみましょう。そしたら何かわかるかもしれないわ」
「だね」
空を飛ぼうと『ビュンビュンちゃん』の起動画面まで行ってエラーの表記が出ていることに気づいた。
エラー……って、そうか。前にオウガと戦った時に壊れたのか。だいぶ無茶させたからな。
仕方ない今日は自力で飛ぶか。
「おっとっと……」
「なにしてるの?」
「なんでもない。大丈夫だから。それより早く行こう」
自力で飛ぶのが久しぶり過ぎて上手く飛べませんなんて言えるわけがねぇ。
上手く飛べてないのをなんとか誤魔化しつつ、オレはブルーと一緒にまずは教官の下へと向かった。
その道中でのことだった。
「あっ、ラブリィレッドさん! それにブレイブブルーさんも! 良かった、復帰されたんですね!」
「おわっ、びっくりした。えっと……センリ、だっけ?」
「はい。そうです。ご快復おめでとうございます」
「ありがと」
「ありがとうございます。ずいぶん慌ててみるみたいですけど、何かあったんですか?」
「えぇ、ちょっとした問題が。そうですね……まだ病み上がりのあなた達を巻き込むのはどうかと思いますけど、今は圧倒的に人手が欲しい状況ですし……すみません、少しだけお時間をいただいてもいいですか?」
この感じ、なんか相当逼迫してんのか?
オレとブルーは目を合わせて、小さく頷き合う。
「もちろんです。何が起きているのか私達にも教えてください」
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