第130話 魔剣『血桜』
「ぬぅおおおおおおおおおっっ!!」
「くっ!」
ライオネルの太刀がブルーに襲いかかる。ブルーよりも遙かに上背のあるライネルの一撃は非常に重く、真正面から受け止めるにはブルーの全力をもってしても厳しいと言わざるをえなかった。
だからこそ相手の力を利用する『流水』を使ってライオネルの攻撃を避け続けているのだが、ライオネルの鋼のような肉体にはブルーの剣で傷をつけることはできなかった。
その謎を解き明かさない限りはブルーはライオネルを倒すことができないのはわかりきっていた。
(私の剣は物理に特化してる。使う魔法もあくまで剣で戦うことを補助するものばかり。それが悪いことだとは思ってはいないけど。でも、だからこそこの怪人は私との相性が悪すぎる)
ギリッと歯を食いしばる。ブルー自身、教官から今後の課題と言われていたところだ。
特化しているがゆえに、それが通じない相手との戦いではブルーの真価を発揮できないのだ。
しかしそれを今嘆いたところで現状が変わるわけでもない。ならばブルーは今の自分の力でもってライオネルと戦うしか無かった。
「一刀入魂。あなたよりも私の剣の方が上だっていうことを教えてあげる」
ブルーには自負があった。今まで培ってきた己の剣はライオネルよりも上だという自負が。
「私は負けない!」
ライオネルが太刀を振り上げたタイミングに合わせてブルーは一気に踏み込んだ。そして振り下ろされた剣の速度が最大に達する前に太刀を弾きあげた。
「むっ」
「あなたの剣は確かに力強い。技術もある。でも、それだけ。それにその技術もどこか違和感があるわ。培われて身に着けたものじゃない。まるで剣士としての動きを再現しているだけのような……純粋に剣の道に生きてきた人の剣じゃない」
最初は、見た目に反して綺麗な剣をしていると思った。だが、ライオネルの動きを見ているうちに気付いたのだ。
ライオネルの動きは力任せなのに、剣を振るときだけ妙に型にハマった綺麗な動きをしていることに。
しかし違和感を抱きながらも、その原因まではわかっていなかった。
「魔法少女が剣の道を語るか!」
「それの何が悪いの」
「否、別に悪いとは言っていない。ただ面白いと思っただけだ。確かに俺は純粋の剣士とは言いがたいだろう。剣を手にしたのもそう昔のことではない。だが俺にはもって生まれたこの肉体がある。全てを圧倒できるだけの膂力が、すべての物理攻撃を弾くことができるこの肉体が! この肉体の前に小賢しい技術などは無意味だ!」
「…………」
「いかに剣の道を語ろうが、お前の剣の技術が俺より上だろうが。勝つことが全てだ。そして俺は勝利し続けてきた。オウガ様と戦うまでは、だがな」
そう言ってライオネルは体の前面にできた傷をなぞる。肩から斜めに走るその傷は斬られた傷の証明だ。
「これはオウガ様と戦った時につけられた傷だ。あの方の一刀はこの俺の肉体をもたやすく切り裂いた。あの瞬間、俺の自負は完膚なきまでに砕かれ、そして同時に焦がれたのだ。あの強さに。オウガ様は誰よりも強い。お前たち魔法少女が束になろうとも勝てぬほどに。そしてだからこそあの方は孤独だ。対等に戦えるものがいないという点でな。だからこそ俺はもっと強くならなければならない。もっと強くなって、あの方の飢えを満たしてみせる」
今のライオネルの中にあるのはオウガに対する憧憬の念だけ。自らの強さを砕いたオウガの強さにライオネルは心酔していた。
そして誰よりも近くでオウガを見てきたからこそオウガの抱える強者の孤独を知っている。だからこそ決めたのだ。もっと強くなり、今度こそ対等に戦えるようになってみせると。
そのためにライオネルは貪欲に力を欲していた。
ライオネルは自分の持つ太刀に目を落とす。刀身までも深紅に染まった異様な雰囲気を漂わせる太刀だ。
「そのために手にしたのだ。この呪われし剣を」
「まさかその剣は……」
「そうだ。これは魔剣。血と命を代償に力を与える剣だ。銘は『血桜』。この剣があれば素人だった俺でも一流の剣士になることができるのだ」
「なるほど。違和感の正体はそういうことだったのね」
剣を振るときだけライオネルはその肉体を魔剣に支配されていたのだ。だからこそ動きに違和感が生まれていた。
「わざわざ情報をくれるなんて、どういうつもり?」
「知ったところで何ができるわけでもあるまい。この剣は血を吸うことで強くなる。お前の血を吸い、俺はさらなる高みへと至ってやろう」
赤黒い瘴気が太刀から漏れ出る。それはまるでブルーの血を求めるかのように蠢いていた。
「『血斬衝』!!」
「『水閃』!!」
激しく打ち合うブルーとライオネル。しかし、打ち合うたびにブルーは力が吸われるような感覚に陥っていた。
「まさか……私の魔力を」
「今更気づいたか。だがもう遅い!」
「っぅ!?」
薙ぎ払われ、後方に飛ばされるブルー。
ブルーは打ち合うたびに魔剣に魔力を吸われていたのだ。
急速に魔力を奪われたブルーは顔を顰めながらもなんとか応戦し続ける。しかしその動きは目に見えて悪くなり始めていた。
いよいよライオネルの攻撃を躱し続けることすら難しくなり、腕を、足を、ライオネルの太刀が浅くではあるが切り裂いた。
「どうした! 動きが鈍っているぞブルー!」
「私は……私は負けない!」
「否、お前はもうすでに負けている」
「っ!」
ブルーが剣を振り下ろした先にライオネルの姿はなかった。
「終わりだっ!!」
咄嗟に防御の姿勢をとるブルー。だがそれは悪手だった。
力任せに振り下ろされた一撃。
拮抗したのは一瞬だった。ブルーの魔力を吸って切れ味が格段に上昇していた『血桜』はブルーの持っていた剣ごとブルーのことを斬った。
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