第107話 漫画で見たような訓練方法

 ドワーフメイスの工房から出たオレはそのまま次の目的地へと向かう。

 『グリモワール』に来たのは何もドワーフメイスに魔道具のメンテナンスを頼むためだけじゃない。

 向かう先は練武場。今からやるのは教官との訓練ってわけだ。

 あれからあの教官の教えを受けてるわけなんだが……あの人マジでスパルタだからな。ミスったら骨折るくらい平気でやってくる。この二週間の間に何回骨折られたか……まぁすぐ治るからいいんだが。っていやよくねぇよ!

 なんてつまらん一人ツッコみしてるうちに着いたか。

 こっからは気合い入れねぇとな。油断してるとマジで死にかねねぇし。


「よしっ!」


 パンッ、と頬を叩いて気合いを入れてからオレは練武場の中へと入った。





「魔力の流れを自在に操る技術を身に着ければ攻撃にも防御も思いのままになる。まずは己の中にある魔力を感じることだ」

「…………」


 練武場に入ってからすでに一時間。オレはジッと座ったまま魔力の制御の練習をさせられていた。

 今日の訓練はよりにもよってこれだったか。苦手なんだよ、これ。体動かす方が何倍もマシだ。だが、そんなことを口にしたら問答無用で斬られるのはわかってる。だから何も文句を言わないのが賢い選択だ。

 練武場の中心にマットを引いて、正座で座る。そしてそのオレを囲むように蝋燭が置かれていた。この蝋燭もどうやら魔道具らしい。魔力で灯すことができる蝋燭。

 オレに課されているのは、この蝋燭を全て灯し続けることだ。オレが供給する魔力の量によって炎の強さが変わる。

 強すぎても弱すぎてもダメ。これをずっと続けなきゃならねぇ。正直かなり疲れる。この一時間、一切気を抜くことが許されてねぇからな。油断したらまとめて炎が消えるし、だからって魔力を強くし過ぎたら今度は炎が強くなりすぎる。それじゃダメだしな。

 正直体動かしてる方がマシなくらいだ。精神的にも体力的にもかなり疲れる。

 これを後一時間か……気が遠くなるな。


「レッド、炎が乱れている。余計なことは考えるな。自分の中にある魔力の流れだけに意識を向けろ」


 今一瞬炎が揺れただけだろうが、なんて言い返す余裕もない。というかそんなことしたらさらに時間を伸ばされる可能性もある。

 黙って言われた通りにしとくのが一番だ。


「お前の魔力量は大したものだ。魔法少女全体で見てもかなり上の方だろう。だが、運用に無駄が多すぎる。もっと効率よく運用できれば魔法の威力を上げることも可能だろう。戦闘中にガス欠になることもないはずだ」


 最初に訓練を受けた時からずっと言われていたこと。それは無駄が多すぎるってことだ。

 使う必要のない魔力まで使ってるせいで、無駄にしてる魔力が多いらしい。確かに今までオレは感覚的に魔法を使ってたからな。

 自分の魔力残量なんてヤバイって段階になるまで気にしたことも無かったし。ヤバイって思ったのも前にグロウと戦った時とかくらいか?


「魔力を手足のように扱えるようになれ。まずはそこからだ」

「うぅ……」


 これも大事な訓練だってことはわかってる。わかってるんだが、どうにもなぁ。

 体を動かさねぇ訓練ってのはどうにも苦手だ。しかも何が腹立つって、青嵐寺の奴とイエローはこれを何なくこなせてるってことだ。

 一回だけ一緒にやったことがあるが、青嵐寺は蝋燭の火をつけたり、消したり、強くしたり弱くしたりを自由自在にこなしていた。

 イエローはやるのが初めてだったのにも関わらず、あっという間に魔力を動かすコツを掴んでた。ブルーほど自由自在ってわけじゃねぇが、それでもオレよりはできてたからな。

 今のオレはこうして火をつけ続けるだけでも精一杯だってのに。

 思い出したらなんかムカついて……ってヤバイ!!

 蝋燭の炎がオレの苛立ちに呼応して強く燃え上がる。感情的になったせいで魔力を多く使っちまった。


「わっ、と、ヤバ、くっ、この……」


 慌てて平静を取り戻そうとするが、焦れば焦るほど魔力は乱れる。激しく燃える場所、逆に弱くなる場所。一度手放した制御を取り戻すのは難しく、中々うまくいかない。


「この阿呆が」

「あだっ! って、あ、炎が!」


 教官に頭を叩かれる。それが止めとなって蝋燭の炎が消える。


「一時間と十二分か。最初の頃よりはマシだが、目標時間まではまだまだ遠いな」

「いや、今炎が消えたのは教官のせいじゃ——」

「何か言ったか?」

「ナンデモアリマセン」


 スッと剣を首筋に当てられる。

 この人ならマジで斬られかねねぇからな。


「余計なことを考えるなと言っただろう。その調子では先は長いな」

「ジッとしてるのはどうにも苦手で……」

「口答えするな。だが良かったな。まだ幸い時間はある」

「えっ……ま、まさか……」

「もう一回だ。今度はさらにもう一本蝋燭を増やしてな」

「…………」


 気の遠くなるような宣告と共に、新しい蝋燭が再び配置される。言葉通り、さっきよりも一本多く。


「さぁ今度は二時間耐え切ってみせろ」

 

 そしてこの訓練は、オレが学校に行くギリギリの時間まで続いたのだった。

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